地方の公共交通の持続可能性とMOBIRY DAYSの先見性
2024年9月7日 広島電鉄(以下、広電)の路面電車で新しい乗車券方式 MOBIRY DAYSがスタートした。一方で同エリアのJR西日本の交通系IC ICOCAとの互換性はない。レビューやコメント欄には不便、不満の書き込みも見られる。
同時期に熊本県内のバス事業者5社が2024年内に交通系ICを廃止するニュースもあった。市民団体等が廃止撤回を求めているそうだが、事業者は廃止する方針を変えない。
交通系IC界隈で何かが起きている?
そこで、交通系ICの王者 JR東日本のSuicaを始め、現在普及している他の決済サービスの仕様・規格・事例を調べていく内に気づいたことがある。それは利用人口規模が小さい地域では過剰性能な交通系IC設備の減価償却がもはや不可能、この点に尽きる。
もう一点は設備導入・更新コストの問題に対し、広電MOBIRY DAYSのシステム構成がJR東日本より先進的であったこと。
今回はその内情を探り、書いていく。推測の域を出ない部分も多いが、読者の気づきになればと思う。
1.未来永劫やってくる設備更新時期
冒頭に挙げた熊本県内の路線バス等の交通系ICの機器更新には12.1億円かかるという。仮に今回 機器更新できたとしても、次回の更新時期はどうするのか?全国的な人口減少の最中では黒字化どころか、赤字を減らせる目処さえ立たない。
利用者の意見を聞かないまま廃止ありきの議論が進んでいるとして市民団体等が交通系ICの廃止撤回を求めているとの事だが、採算が取れない限りバス会社としても出来ないものは出来ないし、今さら議論しても時すでに遅しだろう。そしてこれは他人事ではない。
では設備費用および機器更新費用を抑えるにはどうすれば良いか?
そのヒントとなる事例がある。それがPayPayだ。
2.設備が必要ないPayPay
現在では交通機関の利用者側が既に設備投資をしている。しかも老朽化したら自費で設備更新もする。ご存知、スマホである。
PayPayには店舗側のQRコードを自分で読み込む方式がある。店舗側はQRコード(ID番号)を置くだけ。専用機器も電源も配線もいらない。しかも顧客側が支払額も入力してくれる。これは画期的だ。
QRコードを介してID番号をセンターサーバー側に送信すれば、後はセンターサーバーが処理してくれるし、サーバー側で機能拡張も可能。だから店舗側のQRコードは更新する必要がない。
ORコードの利点は印刷物であること。表示媒体の規格・仕様に依存しないから紙、液晶、有機EL、電子ペーパー等、汎用性が高い。
対して交通系IC(FeliCa)は店舗側に専用機器を置かなければならない。
3.設備の簡素化
広電はJRと違い、改札を持たない。運賃箱、ICカードリーダーは車内搭載型である。
MOBIRY DAYSは交通系ICと違い、ICカード内にチャージ残高と定期券情報、乗降記録等の記憶領域が無い。
書き込み機能は省略され、ID番号のみの読み出し専用となっている(ABT方式)
QRコードもID番号を伝える手段に過ぎない。
リーダー端末はQRコードスキャナー、ICカードリーダー、液晶画面の構成。価格は非公表だが、読み出し専用に簡素化されているので低コスト化していると思われる。QRコード方式は専用機器に依存しないし、ICカードの規格はおそらくFeliCa、そうであれば枯れた技術で広く普及もしており、十数年後の機器更新時期が来ても更新費用は安価だろう。
4.サーバーをNECに委託
サーバーを自社で構築するか、他社に委託するか。これは安易なコストダウン思考では計れない。長期的な視点で見ればリスク要素も見逃せない。
自社構築システム老朽化による新規システム更新あるあるで、切り替え失敗によるシステム障害がある。記憶に新しい事例は、みずほ銀行とグリコだろう。みずほ銀行の被害は利用者の範囲に留まるし、プッチンプリンが数ヶ月市場から姿を消しても人々の生活に支障は出ない。でも公共交通機関は違う。影響と損失額は多大だ。
対してクラウドサーバーは使用料を払えばハードウェア保守と更新、担当技術者の確保、部品保有も万全で多重の災害対策もしてある。
日本国内においては2011年3月11日の件以来、サーバーを西と東の2拠点に分散させた企業も多い。
広電がNECに委託したのは、コストとリスク回避のバランスから見て、メリットが大きかったからだろう。やはり餅は餅屋である。
5.次の機器更新時期に答え合わせができる
広島県内の各交通機関で乗車券方式の足並みが揃わなかった。短期的な視野で見れば広電MOBIRY DAYSの孤立が目立つ。運用開始したばかりであり、まだ不便な点も多い。
ではMOBIRY DAYSは失敗なのか?否、少なくとも交通系ICを延命しても最終的に失敗となる。一部地域ではもう結論が出ている。熊本の交通系IC廃止の事例だ。今後続いていく機器更新費用のコストダウン計画の策定を早い段階で定めた広電MOBIRY DAYSのこの先が楽しみだ。
アプリが徐々に改善され、利用者が慣れ、現場の運用が落ち着けば評価は変化するはず。MOBIRY DAYSのサービスが拡充すればICOCA等の交通系ICの陳腐化が表面化するかもしれない。
遠い先の話になるが、次回の機器更新の時期が来たら答え合わせができる。各交通機関の乗車券方式の選定が正しかったかどうか。数十年後をちゃんと見据えていたかどうか。
※おわりに
今回はニュース記事風に書いてみました。
専門外の分野もあり、的外れな部分もあると思います。
その点はどうか ご了承願います。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました!