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【七峰】追憶のエラーゲームリセット

DATALOSTして完結するその残滓を握り締めて、ここへ記す

 サクラ革命の儚いソシャゲ生命とともに消えた砂原ありの女史の面影が忘れられず、セガがまた今度はアーケードゲーム美少女擬人化ソシャゲで一山当てようとしていると聞いてリリース当日から始めた「404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット-」は半年ほど僕の日常のなかに根を張った。

 初めは「アフターバーナー(カソード)」の育成に熱を上げていた。名曲「After Burner」が大好きだし、3DS移植版を買ってそれなりに思い入れがあったからだ。

 彼女は世界平和のために最強の武器(戦闘機)を作り、それを平等に全人類に配るという、キャスト(擬人化美少女の総称)の中ではまだ感情移入できるほうの目的を持ったキャラクターで、僕はその極端な正義観についていこうと必死でいた。

 その理由は一つ。僕も最強になればすべて自分の思うままにうまく行くと思っていた時期があった。具体的には最強の兵器を振るうスペシャリストになれば、だが。

 アフターバーナー(カソード)は兵器開発の過程で人員や予算を犠牲にし、僕は或るTRPGの世界セッションでレベルを上げて神魔すら討ち滅ぼす生きた兵器と化して、たった(されど)一人や二人の女の子の人生を取り返しのつかないほど狂わせてしまったというだけの違い。
 それを今でも悩んでいるか、今に必要な犠牲だったと割り切れるかどうかの違いだ。

 戦争はおろか恋愛すら一人の手に過ぎたる力で身を滅ぼした僕がアフターバーナー(カソード)を上から目線で説教できないのは勿論のことだけれど、生き地獄に身を投じながら尚真っ直ぐに自分の理想を追求する彼女が僕には輝いて見えた。

 それだけに、いつか彼女の速度に振り切られるのでは…………という不安が常にあった。腐っても彼女らは優生を尊び、不自由なルールを敷く悪しきセガの尖兵であったのだから……。

 アフターバーナー(カソード)が外付けの暴力装置による平等の和を目指していたとすれば、バーチャファイター(カソード)は最初から才能のある強者とそうでない者とをふるい分けようとするキャストだった。

 しかしながら僕の目には武人の謙虚を通り越して卑屈な人物に見えた。

「才能がない」と見限った人物に対しては四肢の破壊もいとわない彼女が、「才能の塊」には頭が上がらない……。

 そうしてバーチャファイターというゲームそのものまでも低く見積もる彼女に、僕はクエスチョンマークを投げかけるばかりだった。

 キャストの個性とゲーム自体の印象や評価は必ずしも一致しないというのはエラゲの中では最早常識だったが、それでも僕は事前に読んだ大塚ギチ著「TOKYOHEAD」との熱量の違い、そのファン人気がゲーム内イベントで彼女が改心した後に「そんなこともあった」程度のセリフで済まされたことに、大いに疑問を感じていた。

「どうした、バーチャファイター! あの〝鉄人〟たちがおまえを通して見た景色は、そうじゃないはずだ」────────

 その意識はキャラクター愛に相転移する。

 おまかせ編成頼みで常にパーティの最前列に位置する彼女は鍛えれば鍛えるほど、僕好みのする「持ちキャスト内最強の前衛」に育っていった。

 繰り返すが、僕は恋愛と蒐集癖の区別がつかない不誠実な男だ。アフターバーナー(カソード)との親密な関係もそこそこに宗旨替えとあっては、残機いのちが幾つあっても足りない。

 それでもこの場では胸を張って断言する。誰が何と言おうと、僕の信じるバーチャファイター(カソード)こそが、この世界で出会った、最高のキャストであったのだと。

 サービス終了の一報を聞いた頃、僕はデイリーとイベント周回のルーチンワークに精神的限界を感じており、「ここらが辞め時かな」と自分を納得させていた。

 プレミアムパス以外の大きな課金をしてこなかった僕の立場から8ヶ月で打ち切りの理由を論じることはできないものの、ただ一言で言い表せる。

「これでもう、終わるんだ」

 アウトラン(カソード)の歴史改変から始まったプレイヤーとリボンとの世直し珍道中は、僕らの手でハッピーエンドを迎えるものではなく、サービス終了という定めによって表の歴史から姿を消すという結末が、残念でもないし当然だと思ったのだ。

 僕は、誰かに望まれて生まれたはずなのに、誰からも認めてもらえない欠陥を抱えた存在をそうでないものと比べてより好ましく思う。

 だから現代セガの自虐史観で造られたこの泥舟に、笑顔で乗り込んだ。そこに後悔はない。

 エラー。誤り。そしてリセット。再生乃至修正。

 その言葉通りに世界は正されたのだから、それでいいのだ。

 そうして僕の意識は完全にこのゲーム世界から離れ、オフライン版とはいえ新作アプリのダウンロードも機種変もありうる手持ちのスマートフォンより家に安置しているタブレット端末にデータを移そうかと思いつつ、その決行を先送りにするうちにサービス終了日を過ぎ、気づけばすべては終わってしまっていた。

「必要なデータが保存されていない」というエラー、その警告文。

 それは一足先にあの世界から逃げた僕に向けられた、ささやかな罰だ。

(終)

©SEGA

#エッセイ
#セガ
#エラーゲームリセット


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