空前絶後の超能力開発ソフト「マインドシーカー」の世界とその奇祭 ~七峰らいがのニコニコ動画探訪~
バタフライ効果。
1974年に来日した「ユリ・ゲラー」がTVでスプーンを曲げてみせたその日から、日本各地に「超能力者」が現れた。
それはトリックか、ホンモノか。熾烈なマスメディア間の生存競争を、清田益章という「超能力少年」が勝ち残った。
かつて有名企業や研究機関が超能力を研究していることが公然の秘密だった時代、超能力を含むオカルトブームが爛熟期に近づく1989年4月18日に一本のファミコン用ソフトが発売される。
「マインドシーカー」、別名超能力開発ソフト。
コマンド選択型アドベンチャーに「念力」「透視」「予知」の要素を足したこのゲームに誰もが困惑し、絶望し、いつしか「クソゲー」と呼ばれるようになった。
そうして発売からもうすぐ33年が経とうとしていた2022年4月1日、ニコニコ動画で突然このゲームを扱った動画シリーズの投稿数がはね上がる。その数22件。
遡ること2ヶ月前、ある動画祭の開催が告知されていた。
「ちょうのうりょく開発祭」
そして去る2月10日の夜9時過ぎから、低評価ゲーム愛好家の集うネットワーク上の某所で行われたマインドシーカー並走会の中で、深夜に及ぶ長時間のプレイに疲れた一人の動画配信者が休憩中に転倒し冷えた床の上で眠りに落ちた。
バタフライ効果。蝶の羽ばたきは混沌に波打ち、何物にも予測できない未来を導き出す。特に人類の歴史にとってそれは、伏線の張り巡らされた壮大なドラマである。
たとえ昭和のユリ・ゲラーが放った念力(有名なパフォーマンスはトリックだったことが判明している)と、令和の動画配信者が床にこけたこととの間に何のかかわりもなかったとしても、僕は一人の動画視聴者として公式生放送でも取り上げられたというこの奇祭に分け入り、その一部始終を記録することに強い興味と関心を感じるのだ。
筆者のマインドシーカーに対する心証
僕が最初に目撃したのはやはりニコニコ動画で、'08年頃のこと。イオシスのレトロゲームを題材とした動画番組「HVCファミコン放送局」の該当回だった。
清田益章が大麻取締法違反容疑で逮捕された(加えてWikipediaによれば同年12月5日、東京地方裁判所にて懲役1年・執行猶予3年の判決を下された)のは'06年のことだから、当時のコメント欄にもマインドシーカーに登場する「エスパーキヨタ」とその言動は「薬物使用による幻覚に違いない」というのがオチとして周知されていた。
僕はその後の徳間書店版「ゴーストバスターズ」回(第2シーズンex17)と併せて本作を「プレイヤーを苦しめる伝説のクソゲー」として認知し、後年中古ショップで両ソフトが箱付きで売られているのを見て、ちょっと手に取ってみて、1000円は下らない強気な価格シールを「賢い消費者」のつもりで一笑に付して棚に戻したのを覚えている。
いつの間にかその店も更地になり、僕は思春期の平成レトロゲームブームを記憶の片隅に留めてマインドシーカーのことなど考えずに過ごしてきたのだ……今年の4月までは。
そこで僕は改めてマインドシーカーとは一体何なのかを知ることになる。だが所詮は動画視聴によって得た知識をあたかも自分の体験のように語る無粋なことはしない。僕にできることは結果と原因を浅薄な頭脳で好きに解釈して記事にすることだけだ。
ちょうのうりょく開発祭の参加作品の大半は本作の初見プレイヤーの手によるものであり、彼らがその長く苦しいプレイ時間と編集作業から生み出した動画の内容以上に正直かつ雄弁なものは無い。
だからキミも見ようよ。僕も見たし、みんなやったんだからさ。
ちょうのうりょく開発祭全参加作品&一部関連動画レビュー
(順番は投稿順)
【マインドシーカー】ちょうのうりょく開発する積みゲー消化系女子(前・後編)
併走会鑑賞中の失言からマインドシーカー動画を撮ることになった人。当然懐疑的にゲームを進める。本心でないことや嫌なところは棒読みになるところが逆に感情的で好ましい。
サイシティ編の念力ミニゲームで動かすものの違いについて軽妙な掛け合いをするところが印象的。
超能力に目覚めたいめたんちゃんと見守るつむぎちゃん(養成学校編)
ほとんど前情報のない初見プレイなので当たり前だが、反応のひとつひとつに初々しさを感じる。二人がゲームで遊ぶ様をそのまま音声収録したようなイメージか、各自で連想と考察を展開し深めるスタイルも興味深い。
髪の話が多い。
【ちょうのうりょく開発祭】弦巻姉妹、念力で最後の扉をこじ開ける!
最初からクライマックス。わずか8分でエンディングまで見られることを含めてカット編集の思い切りがいい。
コウ先生とMINDSEEKER【ちょうのうりょく開発祭】
サイはサイでもサイコスリラーだった、今回一番の問題作。
それでいてマインドシーカーのメインシナリオがエスパーキヨタをリーダーとする、超能力者への通過儀礼体験であることを誠実に描いた作品、と言えるかもしれない。
今回で三番目に好き。
超能力でレトロゲーム実況者になりたいついなちゃん【ちょうのうりょく開発祭】
レトロゲーム実況者になることに憧れた少女がマインドシーカーを手にして変わってゆく物語。
セーブデータの消失とともに超能力への信用をも失い、心を折ってしまう挫折の過程と、それでもエンディングまでたどり着くところに好感を持った。
選曲センスも含めて今回で二番目に好き。
葵ちゃんとファミコン #36「マインドシーカー」【ちょうのうりょく開発祭】
葵のリアクション芸が目を楽しませる。最終試練編の苦痛と激闘が伝わってくる。
【ちょうのうりょく開発祭】琴葉のい・い・な・り~超能力開発ボイス~
目と耳でリラクゼーションの姿勢・呼吸とイメージの訓練をする催眠音声動画。しかし途中に挟まるタイトルコールで噴き出してしまうので催眠に適しているかはよくわからない。
だが漸進的筋弛緩法と呼吸法には汎用性があるため、僕は睡眠導入の導入に使ってみた。そんなに悪くない気がした。
【VOICEROID実況】ずん子と茜とレトロゲーム #37【マインドシーカー】
茜の「嫌です」のテンポが小気味いい。番組仕立てでずん子が先生役、茜が生徒役という進め方の安定感は「アルカディアの人」で名を馳せるいぶし銀のレトロゲーム実況者ならでは。
【ちょうのうりょく開発祭】マインドシーカー 緩めの縛りでプレイ
フィールドエンカウント以外誰にも話しかけずにポイント(PSI)を溜める縛りプレイ。サイシティ編を中心にマインドシーカーのプレイフィールを広げようとする試行錯誤が見られる。
【マインドシーカー】宇宙意識体ゼネフとの邂逅の為に我々ができること
まるで神を試すが如く、マインドシーカーをしながら超能力とは、ゼネフとは何かを論じている。
後述するように清田のゼネフへの言及は80年代当時から今も決して撤回されることはない。しかし予言の大半は外れているのもまた事実だ。
マインドシーカーは「我々」に何を伝えたかったのだろう。
ずんだもんは超能力でSTGを上手くなりたい【ちょうのうりょく開発祭】
ささらの妖艶な立ち絵がマインドシーカーの胡散臭さを盛り上げてくれる。エスプレイドψがやりたくなる。
【マインドシーカー】アングリー・ビデオゲーム・ガール もうひとつのエスパーきりたん【東北きりたん】
The Angry Video Game Nerdリスペクトの映像作品。マインドシーカーの隠された要素もついでに魅力たっぷりに教えてくれる。AVGN愛を感じる演出と捻りがきいたシナリオは流石の一言。
アリアルと龍星のマインドシーカー実況
ちょっと間の抜けたお姉さんとしっかり者の後輩くんが芸能事務所の仕事としてマインドシーカーを実況しなければならないというところが面白い。エスパーキヨタの言動に二人ともドン引きしているのも初見の反応として実に良い。
テレポーテーションができちゃったところが好き。
【マインドシーカー】令和の超能力者・ことのは【A.I.VOICE実況】
動画時間10分でサクサクとメインストーリーを進めていく。そのためゲーム中のカットできない演出の長さがより際立つ。
なぜかプレイヤーキャラクターとして犠牲になるゆかりさんがかわいそう……? 本人気にしてないみたいだからまあいいか。
結月ゆかりのアレなゲーム「マインドシーカー【前編】」
初投稿がマインドシーカーだった人。ソフトの内容に関する丁寧な解説で、堅実な動画づくりを感じる。
IAとささらのレトロゲーム部屋#3【MINDSEEKER(ファミコン)】
手描きアニメが可愛らしい。五つの中から卒業試験に合格した動画を当てるミニコーナーが飽きさせないつくりになっている。
ささらのオーバーリアクションが可愛い。最終試練編最初の扉を開けた後の長い間に対するIAの冗談も可愛い。
きりたん「ずん姉さまのスカートを透視したい!」 マインドシーカー【ちょうのうりょく開発祭】
息もつかせぬマシンガントークと堂々たる下ネタ。きっとバイブレーションが別の意味に聞こえることだろう。
【ちょうのうりょく開発祭】荒ぶるマインドシーカー劇場 【COEIROINK】
マインドシーカーを題材にした映像作品。
ソフトを頭に直刺しして、天使の輪とマインドシーカーが重なって見える様はまさに呪いの装備みたいだった。
【マインドシーカー】ゆかりときりたんのエスパーゴリラ開発計画【VOICEROID実況】(前・後編)
VOICELOIDとドンキーコングが共存する世界でマインドシーカーをプレイ。そのカオスな設定に負けじとクライマックスにかけて盛り上がるテレ東パワーと勢いのある内容。
マインドシーカーRTA 2時間14分16秒
ちょうのうりょく開発祭主催者からソフトを譲り受けた人。数十倍速編集で2時間強のRTAを17分弱の動画に圧縮。
精神崩壊を避けるプレイングの教えが胸に残った。
サイコ・デヴ(前・後編)
プレイヤーネーム「て゛ふ゛」が巻き起こす笑いの波動につられて笑顔になれる。マインドシーカー並走会のレポートとしても秀逸。
開発祭の元凶数珠繋ぎと件の寝落ちシーンが、今回で一番好き。
マインドシーカー RTA ~ 2カンスト No Rapid Fire ~ 06:26:54 【ちょうのうりょく開発祭】
今回のRTA動画としては最長時間の「安定ルート」。
昨年のとある雑誌に掲載されたというマインドシーカーの特集記事が非常に気になった。
『マインドシーカー』Mrs.琴葉きりたん。【ちょうのうりょく開発祭】
一瞬たりとも黙らない。ボケの嵐。
【マインドシーカー】どんなゲームも楽しめる奴が最強!つまり六花ちゃんは最強!#3
超能力に目覚めた六花が東北イタコの指導で予知能力を開花させる展開が見事。
マインドシーカーRTA 53:54
「マインドシーカーはただの運ゲーではない」とは他のRTA走者も明言しているが、連射コントローラの使用や状況再現等のテクニックがあるとはいえ世界記録に匹敵する最速のタイムに驚愕。
【ちょうのうりょく開発祭遅刻組】マインドシーカーで学ぶ確率統計論【春日部つむぎ実況プレイ】
実プレイから得た試行回数のサンプルで確率を計算する学習動画。
マインドシーカーの乱数や確率には偏りが無いからこそ、最終試練編の文字通りの難関が生まれていることがよくわかった。
あとがき
こうしてすべての動画を視聴し終えた後で、僕には一つの疑問が残った。
「清田益章は本当に薬物所持の発覚と使用疑惑で『終わった』人物なのだろうか?」
そのことを考えるにあたってまずは森達也の著書「職業欄はエスパー」とその続編「オカルト」を読んだが、前者は逮捕以前のノンフィクションで清田の人柄とトリックの挟まる余地が不明なスプーン曲げ(折り)・捩り現象の筆記に終始し、後者は逮捕から1年半後の取材だが清田の薬物使用疑惑を追及する内容ではなかった。そこでは関口淳の大麻取締法違反にも触れつつ、あくまでも世間離れした(せずにいられない)超能力者の型破りで波瀾万丈なエピソードのひとつとして語るに留まった。
僕からすると、世間一般ほど薬物と超能力の吹聴に相関関係があるとまでは問題視しないとする解釈が成り立つ内容に思えた。ただしそんな0か100かではなくもっと深く考えるべきだということかもしれないが。
もう「終わった」はずの清田を追う、個人的な情報収集としてはYouTubeで「清田益章」を検索するだけでも充分すぎる情報量で、本人と思われるアカウントで「ΨおのりΨ」の内容を映した動画が投稿されており(最終更新は4年前)毛髪のない半裸の中年男性が何かぶつぶつと唱えながら仏具ヴァジュラを手に腕をくねらせるシュールな姿を見られるほか、今年3月にも「カマブ3アチョー!」というチャンネルのゲストとして招かれてスプーン曲げ(折り)とスプーン捩りを披露している。
スプーン曲げのパフォーマンスに何かトリックがあるならばその真相と、当人や映したメディアの意図を明らかにすること、あるいは超能力と超能力者の実在が世の明るみに出て大きな変革の時代が訪れること(まあ、世にある超能力バトルSFの世界が日常となるのだろう程度)のどちらかを期待していた僕が、ユーチューバーの前でごく自然にスプーン曲げ(折り)を実演してみせるだけでなく別チャンネルの鼎談動画で未だにゼネフを話題に挙げる清田のすべてを手放しで信じ込み右から左へ言い伝えることは難しい。
「職業欄はエスパー」で清田と同じく取材を受けた超能力者秋山眞人が言うように「実際に見たり体験することもないままに信じる人がもしいたら、やっぱりそれは不健全だ」し、そうした動画の視聴中に思ったがやはり僕は短絡的な「真実への目覚め」や疑似科学を提示する宗教やスピリチュアル・ビジネスに騙されやすいくちだから、十把一絡げに眉唾物と警戒するほうがオカルトに対してもっと慎重な姿勢になれる。
また実際に職業超能力者と一般人の間に素質の差はなかったとしても、念力のために呼吸と心拍と脳波を整え覚醒と入眠の中間に意識を集中させることにはそれなりに専門的な技術の体得を要するし、同時にそれだけの場と気持ちを準備することは(特に世俗的な成人には)おそらく不可能に近いだろう。
それでも超能力という一線(または宇宙がどうとか言う一線)を越えた彼らが何か特殊だとか異常だとかいうわけではなく、ただ当たり前にこの世に生まれこの世に育ったが、自分で「チャンネルを合わせた」とも言うように世界の見え方を変えただけの彼らに対するメディアと世間の態度が一体どのようなものだったかを思い知れば、今のSNS時代にもはやまったくの他人事とは思えなくなってしまう。
またそれは日々低評価ゲームの困難に挑み続けるハンター達にも同じことが言えるのではないだろうか。彼らは故あって動画投稿者(配信者)として低評価ゲームを嗜み、一般的には苦行としか言いようのない動画を発信しているが、彼らの姿が真剣そのものであればあるほどに、一度決めた道を一筋に極め続ける人間の弾性的で強かな正気を信じずにはいられない。
ゆえにこの月並みな言葉で文を締める。その言葉の指先は当然僕にも向けられている。
次はあなたかもしれません、と。
(終)
参考文献
森達也(2002)『職業欄はエスパー』KADOKAWA.
森達也(2012)『オカルト:現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』角川書店.
江川紹子(2019)「ユリ・ゲラーの「超能力」を伝えた「報道ステーション」は報道番組か?」,<https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190327-00119852>(参照2022-4-28).
オロチ(2021)「『マインドシーカー』3つの大嘘 ※本作はナムコが突然“超能力ブーム”に便乗してつくったただのバカゲーではありません」,<https://famicoms.net/blog-entry-3785.html>(参照2022-4-14).
ねとらぼ(2020)「【好きなゲームが世間のクソゲーな人インタビュー】世界3位のRTA走者が語る「マインドシーカー」がただの運ゲーではない理由」,<https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2012/07/news112.html>(参照2022-4-27)
ニコニコ大百科(2022)「ちょうのうりょく開発祭」,<https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%A1%E3%82%87%E3%81%86%E3%81%AE%E3%81%86%E3%82%8A%E3%82%87%E3%81%8F%E9%96%8B%E7%99%BA%E7%A5%AD>(参照2022-4-28)
げーむのせつめいしょ(仮)(2010)「マインドシーカー ~げーむのせつめいしょ(仮)~ (ファミコン編)」,<http://setsumei.html.xdomain.jp/famicom/mindseeker/mindseeker.html>(参照2022-5-3)
カマブ3アチョー!【新宿2丁目ママ4人】(2022)「【超能力】「清田少年」こと清田益章さんが超能力について教えてくれました!(カマブ3アチョー!)」,<https://youtu.be/9HeWnuuLpMw>(参照2022-4-29)
清田益章(2017)「ΨおのりΨ@夕日の滝 2015年6月22日(夏至)」,<https://youtu.be/r6aUSW0KbaE>(参照2022-4-29)
中村ゆうじチャンネル(2020)「【超能力者登場!前半】清田益章さんから聞いた話が衝撃」,<https://youtu.be/aNRwm4Gt9sc>(参照2022-4-29)
中村ゆうじチャンネル(2020)「【超能力者登場!後半】清田益章さんがスプーン曲げを!?」,<https://youtu.be/6xYpmsw_5qI>(参照2022-4-29)
MUGENJU CHANNEL(2017)「祈りの探究 松果体 「オカルト部」部室トーク2017 その1 #2 ゲスト 清田益章」,<https://youtu.be/IihKplH4Zks>(参照2022-4-29)
MUGENJU CHANNEL(2017)「ゼネフとテレパシー これであなたもスプーンが曲がります! 「オカルト部」部室トーク2017 その1 #6 ゲスト 清田益章」,<https://youtu.be/wdNsr_3hDQA>(参照2022-4-29)