「のびのびTRPGスチームパンク」ソロリプレイ集No.01 ~名もなき宵霧亭、開店(10.9〜10.17)
プロローグ
二十と一番目の新世紀、そして新元号の興奮もどこか覚めてきた頃、ここにひとり遊び人の男がいた。
実家で不自由なく暮らしているが、いつまでも穀潰しというわけにもいかず、しかし働こうにも生来の不規則な生活態度が邪魔をしていた。
そこで心療内科の医師は規則正しい健康的な生活を維持すべく、男に夜の睡眠を妨げる「遊び」などの制限、より厳密に言えば無期限の回避を課した。つまりスマートフォン、インターネット、TV、本……デジタルでもアナログでもあらゆる度を越した夜更かしはきつく戒められた。
━━娯楽。それは人がまだ共同体をおこすよりずっと昔から誰もが求めていた、心の空腹を満たす果実であった。しかし人は娯楽によって脳に狩猟採集とおなじ多幸感を得る代わりに、依存と報酬の質的量的な拡大を貪欲に続けていき、ついには経済的健康的に破滅する者も生まれた。
一皿の美味しそうなケーキが目の前に置かれていれば、人はいずれ食べずにはいられない。それが道理であるからこそ、一時の気合いや根性で我慢するのではなく最初から物理的に遠く目に入らないところまで距離を置く工夫が肝要だ、という理屈だった。人生の害や妨げになるものを徹底的に排除して幸福になろうと言い換えれば、正論だった。
男は男なりに悩んだ。今やドーパミンの奴隷と化した己の肉体とそれでも尽きぬ娯楽を求める己の精神とを天秤にかけ、ついに何ごとかを決心した男は、夕方6時に通話機能以外のフィルタリング制限がされるスマホを手の届かない別室に置き去って急ぎアナログゲーム屋にその解決を求めた━━━━
「毎日違った刺激を楽しめて、夕飯と寝る前にやめることができて、スマホがなくても満足感に満たされて床につくことができる、そんな『遊び』がないだろうか?」
始まりの日のことである。
オープニング
その酒場は夕方6時に開き、遅くても夜9時には閉まるという。
黒衣の女主人と明るい微笑みを放つ看板娘が、浮世にくたびれた常連客をもてなす。宴席では古今東西、虚実混交のうわさ話や自慢話があちこちで飛び交っている。
「お酒が呑めないひとでもいいのよ、母さんはなんだって作れるんだから」
娘が目配せすると、首から社員証をぶら下げた異人が楽器を手にまるで吟遊詩人のように歌い出す。
「どうせこの世は霧の中 朝霧夕霧宵霧と
先が見えぬと危ぶむなかれ みぎにひだりにわが道はなし
賽の目ころころ、カアドひらひらもの語る、蒸気にけぶる神秘と浪漫の物語
今宵、どうかひと時のお付き合い。この世ならざる外なる世界の、まことにてございます……」
くすくすと笑いながら、女主人はあなたに問いかける。
「さて、今宵はどういった肴をお望みでしょう?」
「のびのびTRPGスチームパンク」ソロリプレイ
千夜一夜RPG 名もなき宵霧亭
・始まりの日(テストプレイ)「空飛ぶ棺桶」
・第一夜「機械屋ノイ子のジーニアス百合営業 ~天才と天災は紙一重~」
・第二夜「かみなり雲のハギス」
・第三夜「両手にピストル、銃口に花束を」
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