奥深き「ファミうた」の世界 ~七峰らいがのニコニコ動画探訪~

 僕は「ファミうた」が好きだ。

 ファミうたとは、端的に言えば「ファミコン×歌」という意味で、一般的にゲーム音楽と呼ばれている楽曲に歌詞をつけてVOCALOIDに歌わせたものを指す。

 10年前、僕は毎日インターネットに飛び込んでは年上の人たちと共通の話題づくりをするために自分が生まれる前のゲームの知識を集めていた。
「ファミうた」は、そんな昔の文化と現代の文化が融合した新しいポップカルチャーだったと言える。

 百聞は一見に如かず、まずは僕がリアルタイムで視聴した作品の中で特に印象的なものを紹介したい。
 ただし「ファミうた」の多くはニコニコ動画の中でも黒寄りのグレーゾーンに位置する動画作品である。見せておいて黙認しろとは言えないが、予めご了承いただきたい。

 まずは、ファミうた文化が最も華やいだ2007年~2009年頃の代表的な作品から見ていこう。

ファミうたゼロ年代の傑作選

・KAITOでクロノトリガーOP

 僕は特に歌詞のこの部分が気に入っている。

時の引き金 弾丸が放たれる
はるかな過去から未来へとつらぬいてゆく
軌跡描き

 ゲームの世界観と深みのあるKAITOの歌声、曲調がマッチしていると思う。

・初音ミクがSaGa2のアポロンを演じきって瀕死です

 まるで歌劇のようなセリフ回しが最大の魅力。特に下の歌詞の音ハメが頭に残る。

いやしのつえは 自重して!

・忍者ハットリさん 歌・めいこ

「伝説のMEIKOマスター」と呼ばれたワンカップPの初期作品で、その独特な世界観が視聴者を魅了する。

・【ドラクエ3】勇者まつもと、船のテーマ【初音ミク】

 元ネタは「β時代の英雄」として名高い「ドラクエ3 勇者一人旅(チート等なし)」シリーズのコメントから生まれた替え歌。
 修正版&別の替え歌「もろっこ」の追加されたバージョンあり。

・【初音ミク】カイの冒険より「あきらめないこころ」

「 【初音ミク】ドルアーガの塔より「おなかすいたうた」」で有名なドンフライPの一作。CS放送のゲーム番組「ゲームセンターCX」にオマージュを捧げた歌詞は、有野課長ファンの心を打つだけでなくすべてのゲーマーへの応援歌だ。

・竜退治はもう飽きた。(歌:Kaito)

 名曲「お尋ね者との戦い」に合わせて、メタルマックス2プレイヤーの心に沁みついたあるイベントについて歌ったもの。日λ.....

・初音ミクがドラクエをプレイしました

名前を入れて下さい 初音ミクと入れようとしたら
入らない 何故か入らない
文字数が 5文字ある
FFなら入るのに ドラクエは5文字は入らない
旅の目的が決まった ネギを探すんだ

 などと、若干トボけたミクがネギを求めてアレフガルドを歩く。姫を担いだまま竜王の城まで行ってしまうのは笑いどころか。

原曲再現系ファミうたの世界

 替え歌ばかりがファミうたではない。中にはVOCALOIDを楽器としてゲーム音楽を演奏するという離れ技を見せる動画も存在する。

・ふぁみめろ劇場

 ディスクライターの店頭デモ曲をオープニングに使うというマニアックな選曲が光る、ファミうた初期の傑作動画シリーズ。僕はこれで昔のゲームをいくつも知ることができて面白かったのを覚えている。

・【初音ミク】斑鳩(Chapter01:理想)

 シューティングゲームマニアを唸らせる硬派な名作「斑鳩」のゲーム音楽だけでなく一部の効果音をも再現した力作。是非ミクと一緒に、この作品の内包する切なくもアツい物語に触れてほしい。

・うちの鳩音ミクがFC版ドラゴンスレイヤーIVを全部口ずさんでみた

 一部例外を除きだいたい「ぽぽぽぽ」という歌詞で歌う「鳩音ミク」の歌声と小ネタをきかせた手描きのイラストがなんとも愛らしい。ホイッスル音の再現も芸が細かい。

・初音ミクにファミスタをやらせてみた

 視聴者のゲーム愛が試される、ゲーム画面なしの原曲・効果音再現動画(後のシリーズ作品では映像がつく場合も)。ネオンサインのようなミクのイラストが印象的。

・初音ミクの声でロックマン3をプレイ「その1」

 のちに鏡音リン・レンも加えてロックマン3の世界を隅々まで堪能できる。マニアの間では有名な特殊武器取得画面での替え歌「ロッテリア」もきっちりフォロー。

・初音ミクだけでアクトレイザー「フィルモア」のBGMを鳴らしてみた

 重厚なサウンドで他社のゲーム作曲家を唸らせた名曲が初音ミクの歌声で現代によみがえる。

 単曲の再現動画としては、下記の動画における口三味線もたいへん趣深い。

・初音ミクで殺陣!(LIVE A LIVEより)

オリジナルファミうたの世界

 ゲームを題材にした歌曲としては、特にニコニコ動画ではロックマン2がモデルの「思い出は億千万」「エアーマンが倒せない」が最も有名かもしれないが、ファミうたタグの付いているボカロオリジナル曲もまた味わい深いものである。

・【ミクオリジナル】夏RIAN

 往年のFM音源サウンドを思わせる曲調に「夏RIAN」というどこかで聞いたことがあるような、しかしどこにもない言葉が子供の頃にあったかもしれないひと夏の冒険を思わせる。

・【初音ミク】つかみ男は棒術使いの夢を見るか?【オリジナル】

 モチーフはファミコンのスパルタンX。でも一般的な東アジアをイメージした曲調とも違う、モダンで耳に心地よい歌だ。

・【初音ミク】闇雲ソルバルウ【オリジナル】

 ポップでキュートな曲調を聴くとオリジナル曲なのに「ナムコらしいな」と思う。「逢う度に新たな謎深まる」というゼビウスマニアならニヤリとくる歌詞も秀逸。

・雑魚くてニューゲーム/feat.初音ミク

「幸せになれる隠しコマンドがあるらしい」「レトロマニア狂想曲」「しんでしまうとはなさけない!」などゲームを題材にしたボカロ曲は増えたが「ファミうた」タグを冠するものは少ない。その中でも、今年の9月に投稿された本作は中学生ボカロPによるもの。アップテンポかつノイジーな曲調が印象的で、ボカロ界の新たな息吹を感じる。

100曲完奏! ドキドキしたP特集

 2010年1月12日投稿「【初音ミク】クノイチ哀歌【ザ・ニンジャウォーリアーズ アゲイン】」から2019年5月31日投稿「ファイナルファミうた詰め合わせ 30 in 1」まで、毎年作品を投稿し全100曲のファミうたを書き上げてボカロPとしての活動を終了した通称「ドキドキしたP」は、まさに10年代のファミうた音楽シーンを牽引した存在だと言えるだろう。

 彼の魅力は、なんと言っても歌詞の独特な言葉づかいにある。

あー 私は世界のピンチを救うために
作られた 鋼の殺戮マシンなの
でもなぜか不必要に エロいボディー
開発者は何考えてるの?ゆとりなの?
母なる星へと 急ぐ我らに
襲いかかるは 鋼の魚介
貴様ら血祭りだ たてつく奴は
4種のショットで
出てくるそばから 灰にしてやる
なんとかなる なんとかなる
なんとかなるよ きっと
気楽に 生きましょうね
ひたすら画面を埋め尽くす
鬼のような弾と、弾幕。
あの日 僕は君と
僕とを 失った
すべてが 去ったあとに
冷たい 雨が降る
トリオ・ザ・パンチや
カルノフ チェルノブ
などで有名な デコが
シューティングを 作って
マトモな訳がない
待ってるぜ 待ってるぜ
画面の 隅っこで
待ってるぜ 待ってるぜ
ひたすら 待ってるぜ
HOTな雪なんて ホントにあるのかな?
雪だるま作っても しもやけならないかな?
なんて油断すると 流れ弾に当たるから
真剣にプレイしましょ!
モツは 好きか?
内臓 好きかい?
打倒ファミコン メガドライブ
セガの 切り札
ロンチタイトル
スペハリⅡの 1ボスが
亀頭(筆者注:かめあたま)!亀頭!&亀頭!

 今では「レトロゲーム」と呼ばれるものたちと同じ時間を駆け抜けてきたうp主だからこその、愛と茶目っ気がそこには垣間見える。

 時にクスっと笑えて、時に切なくなる、そんな100曲を聴きながらあなたの思い出のゲーム、古き良き時代のゲームに触れてみてはいかがだろうか。

おわりに

 僕が「これが好き!」と思う動画はほぼ本テキストで網羅したが、ファミうたタグにはまだまだ語りつくせない魅力がある。

 最後に選ぶのはこの曲だ。

・機械音声と音MAD素材のコラボによる「YO-KAI Disco」

「えっ、そりゃ公式に歌詞がついてるゲームミュージックだけど、『Love Song 探して』でも『サイコソルジャー』でも『ボンバーキングのテーマ』でも『ゴルゴ13 第一章 神々の黄昏』のメインテーマでも『キミはホエホエむすめ』でも『すすめボコスカ』でも『雨の新開地』でも『ももこちゃん恋歌』でも『きょ・う・じゅのテーマ』でも『GO!GO!ブリキ大王!!』でも『恋のディグダグ』でも『目蒲線の女』でも『そして伝説へ…INTO THE LEGEND』でも『冒険の旅 ADVENTURE』でも『君は人のためにレンタヒーローになれるか』でも(任意の楽曲)でもなく『YO-KAI Disco』かよ。しかも音MADだし」
 と思った読者がいるかもしれないが、僕にとっては「これぞニコニコの動画!」と思う。この闇鍋のような混沌、グレーゾーンがニコニコ動画の真髄なのだ。

 今後も機会があれば、ニコニコ動画の「ここが好き」をテキストにまとめていきたい。(終)

いいなと思ったら応援しよう!