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【逆噴射プラクティス】あの祠壊しちゃったのおじさんVSカスの嘘お姉さん 因習村SOS

本編

「あの祠壊しちゃったの? キミ。あー……死ぬよ、マジで」あの祠壊しちゃったのおじさんはタバコをくゆらせる。「え、ひとに聞いた? ……誰に?」

 少年はおじさんを公園まで案内すると、ベンチに座っている女性を指差した。

「やあ、少年とそこにいるのは……斉藤和義か?」

「姉ちゃん……! やっぱり、そうだったか」

 おじさんは思わず天を仰いだ。

「おれが昔あの祠を壊した時、姉ちゃんがかばってカミサマの呪いを全て受けてくれたんだが、そのせいでカスの嘘しかつけない身体にされてしまったんだ。だが……今度は殺しに来るだろう」

「ああ、ちなみにあの手毬唄は米津玄師が作詞作曲したんだよ」

 どこからともなく、鈴入りの手毬をつく音がする。

「しんじゃうよ」

「もうすぐしんじゃうよ」

「まずい、和服姿の双子だ! 奴が来るぞ……!」

 しゃりん。しゃりん。

 中空に石を投じた水面のような歪みが生まれると、その中から和傘を差した和装の女性が現れた。

「ほんに今日はええお日和どすなぁ」

 血塗られた狐面が不規則に小さく揺れている。

 おじさんが印を結んで構えた。

「あいつは京都からこちらにやしろを移したカミサマなんだ。手強いぞ……!」

「死ねどす」

 袖をまくったカミサマは指先から呪いの光線を放った。

「かはっ……」

 一条の光がカスの嘘お姉さんの左胸を穿つ。

「姉ちゃん!」

 おじさんがくずおれるお姉さんを抱きかかえた。

「ねえ、カズ……最後にひとつだけあなたに話したいことがあるんだ……」

 おじさんはお姉さんの口元に耳を寄せた。

「ねぇ、知ってる? 嘉門達夫の言う通りにするとハゲになるんだよ」

「は?」

 ふふ、ふ、とお姉さんは笑って、息絶えた。

「っ……馬鹿野郎……!」

「次はどなたが遊んでくれはりますの? おっさんか? ボンさんかえ? お二人さんともウチにいけずしよってからになぁ」

「ぼくじゃない」

 少年が叫ぶ。

「ん?」

「ぼくじゃない。やったのは、あいつだ」

 少年は丘の上の民家を指差した。

【続く】

#逆噴射プラクティス

ライナーノーツ

 流行りものに乗っかってみた。

 流行りものはたいていおれの文化圏にはない概念であることが多い(ゆえにバズるとも言える)ので、その面白さをおれの筆致に引き写すのがむずかしい。

 カスの嘘お姉さんにどういう嘘をつかせるか迷った挙句、なんとなく音楽アーティストでまとめてしまった。

 最期の言葉はカスの嘘なだけではなくなんらかの暗号らしく作ったが、「チャラリー鼻から牛乳」と「ハゲ=髪無し」がどういうわけでカミサマ退治のヒントなのかはおれ自身わかっていない。

 そもそも「あの祠壊しちゃったのおじさんVSカスの嘘お姉さん」と題打っているのに冒頭800字でお姉さんが死んじゃダメだなとおれも思うが、たぶんこれが映画なら前半部分でたっぷりカスの嘘お姉さんを泳がせたあとであの祠壊しちゃったのおじさんが合流する部分なんだろうなと考えた。

 それに嘘つきキャラは自分の死すら欺くことができる場合もあるので、カスの嘘お姉さんにはまったく油断ができない。


 読者にしてみれば急に雑な京都人がデウス・エクス・マキナ的に出てきて意味不明だったろうが、これはおれが京都人ネタの短編映画を観たことによる。

 逆噴射小説大賞に出す二発目の弾丸を模索しつつも、答えはまだつかめそうもない。

 あまり気負いすぎても時間が過ぎる一方なので、こういうくだらないのも書いてみながらちょうどいいところを探していこうという趣向だ。

 あと、書き終えて雑なクリフハンガーを読み返しながら思ったのだがここは裏山に埋まった死体かその死体遺棄の犯人に罪をなすりつければよかったんじゃないだろうか。

(了)

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