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蟻鱒鳶ルに行ってきた
オートエスノグラフィーと言うものを知ったので、以下オートエスノグラフィーでお届けします。
友人から聞きかじった実験的な試みなので、違うかもしれません。
なんとなく、YouTubeを見てたら出てきたビル。
蟻鱒鳶ル(アリマスビル)。
動画を見たとき、なんだこれって思った。
と同時に、見てみたいと思った。
最寄り駅はJR田町駅
三田口が最寄り出口
本当は昼過ぎくらいの日が高い時間に行きたかった。
しかし、結局田町駅についたのは16時過ぎ。
Googleマップを起動させる。
徒歩で10分ちょっと。
改札を出る。
人通りはまばら。
土曜日だから当たり前か。
風が冷たく、リュックを持ち直し中からマフラーを取り出す。
首に巻き付け、肩をすぼめて歩く。
階段を降りたらかつやがあった。
季節限定のエビタレカツと親子丼の合盛り丼、あれ食べたいんだ
よなー。でも今日はこのあと飲み会だから、グッと我慢。
病院のビルがあった。
病院の脇に車2台分、「患」という字に丸が囲まれていた。
これは路上駐車されないんだろうか?
私有地道路なんだろうか?
めっちゃ道路だけどな。
民家なんてものはないんだな、と、思わされる。
ずっとビル。
あと、マンション。
マンションも無個性。
みんな同じに見える。
たぶん、帰りもマップを使わないと帰れないんだろうな。
おにぎりや。
見たことないけど美味しそうだった。
隣はカレー屋「受験うカレー」と書いてある。
そうか、もうそんな時期なのか。
2月だもんな。
受験もカレーも、気が早いと思っていたけど、そんな事はないのだろう。
きっと私がのんびりなのだ。
歳をとるだけ、時間が倍速になっていく。
古いマンション。
2階のベランダに洗濯物。
子どもの洋服と、足がアルミで背もたれがプラスチックの椅子。
無機質な街に、人が住んでいる匂いがした。
日が落ちてきた。
空の青が濃くなる。
オレンジになってくれたらいいのに。
走っている男性ランナーとすれ違う
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聖坂の標識が見えた
その先に目的地
女性3人組が先客で写真を撮っている
遠くからでもわかる。
もう、「変」なのだ。
そこにあることが、秩序の中に急に出てきた無秩序とでも言えばいいのか。
聞いてはいたが、圧倒された。
パーテーションに囲まれたそれは、無機質な街に現れた、異物。
何と言うか、けなしているわけじゃない。
もう、「異物」以外の言葉が出てこないのだ。
語彙の消滅。
なんなんだろう、なんて言ったらいいんだろう。
よくわからないけど、なんだか心がざわめいて、自分の体温が2度上がった気がした。
それくらい、気持ちが跳ねた。
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なんなんだろう。
私がスマートフォンで写真を撮っていると、外国人の二人組の男性のうち一人が、同じようにスマートフォンで写真を撮り始める。
よく見たら、聖坂と三田台と書いてある。
面白い。
他には何かないんだろうか。
できたら一周ぐるっと、そしてできたら中にも入りたいのに。
でもそんな事は叶わない。
悲しい。
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あの排水管はなんなんだろう。
意味があるのか、ないのか。
いや、きっと意味を考え始めたら負けるんだ。
私は、負けたんだ。
何もしていないけれど、それに理由をつけたい。
解釈をしてみたくなった時点で、私のまけなのだろう。
やはり異質だ。
でも、何故か嫌いにはなれなかった。
むしろ、自分の無力感というか、虚無感が襲ってきた。
一級建築士の岡啓輔さんが作られたと事前情報で見た。
ということは、合法なのだ。
どこぞの素人が自宅を増築しているのとはわけが違う。
正解なのだ。
正解の中にいる、無秩序。
日々アプリを作る際に、私は「正解」を探している。
正解は、正義だとも思っている。
合理的だし、それが正しい。
全てに意味があって、無駄がないものは美しい。
そう思っていたし、そう思っている。
でも、この目の前の建造物は、正しいのだ。
そして、この無駄が、美しいとも思った。
私は、何を作っているんだろう。
焦燥感が胸を駆け抜けた。
正しいってなんだ
美しいってなんだ
合理的ってなんだ
私の仕事は、本当に正しいんだろうか?
ただ、そこにあるだけなのに、私は圧倒されて、その場でずっとただそれを見ていた。
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私は、もっと頭を殴られたような出会いをしなきゃいけないんだと思った。
デザイナーになって4年目。
まだまだ貪欲に、見たことのないものを見ないといけない。
まだまだ。
もっともっと。
もっと、胸の高鳴りを感じたい。
胸に鈍い痛みを感じながら、私は田町駅に帰ったのだった。