通信事業者は企業向け事業で迷走している
いつもご覧いただきありがとうございます。
この記事は、2024年8月22日のSDxCentralの以下の記事を意訳したものになります。意訳後に記事に関する考察を述べています。
Are telecom operators directionally challenged when it comes to enterprise?
通信事業者は、企業向け事業に関して方向性に迷っているのだろうか?
通信事業者は、企業向け事業に関して方向性に迷っているのだろうか?
Verizon、AT&T、T-Mobile USのようなテレコム(通信)事業者は、収益性の高い企業市場に向けて、彼らのコアとなる通信ネットワーク資産を活用するために、より水平的な考え方を持つ必要があると、アナリスト会社GlobalDataは最近のレポートで指摘しました。
同社は、これまでの通信事業者の企業向け垂直市場への積極的な取り組みが、特定の市場への浸透に十分なリソースを集中できなかったために、事業者にとって悲惨な結果になっていると述べています。
特定の分野で第三者と提携した場合にいくつかの成功例はありますが、GlobalDataのゲイリー・バートン氏は「成功はしばしば、特定の垂直市場に対する深い関連性を築くのではなく、日和見主義(=自分の都合のよいほうへつこうと、形勢を伺い追従すること)に基づいている」と指摘しています。
「特定の垂直市場でのIoTのような分野のポイントソリューションや共同開発されたソリューションの例はありますが、これらは例外的なものであり、通常のケースではありません」と、GlobalDataの主任アナリストであるロバート・プリチャード氏は付け加えました。
バートン氏は、事業者がGlobalDataが「サブバーティカル」と呼ぶ、すべてが異なる行動をとる専門的な購買パターンを理解していないことでつまずくことが多いと説明しています。
「通信事業者は、これらの高度にニュアンスのあるニーズに対応するための理解の深さを現実的には開発できない」とバートン氏は書いています。「さらに、そうすることで、ますます小規模な企業をターゲットにすることになり、総アドレス可能市場を縮小するか、過剰な市場投入費用を引き起こします」
事業者は、むしろ企業市場全体のより水平的なニーズに対応できるネットワークベースのサービスに引き続き焦点を当てるべきです。特定の企業向け垂直市場の専門家として見られることほど魅力的ではないかもしれませんが、GlobalDataはこのアプローチを取ることで事業者に多くの機会があると指摘しています。
「通信事業者のコア能力は、接続性とデータネットワーキングにあり、これにより彼らは自然に水平的になります。これにより、ネットワーク事業者が企業のあらゆる種類と協力する中で垂直の専門家になることが難しくなります」と、調査会社は述べています。「しかし、この広い魅力は弱点であると同時に強みでもあります。通信事業者はほぼすべての企業が必要とするソリューションを販売しています。提供者にとっての課題は、彼らのソリューションのビジネス上の利益に関するメッセージを細かく調整することです」
5G固定無線アクセス(FWA)を利用するテレコム事業者
事業者は、FWA(Fixed Wireless Access)、ネットワーキング、サイバーセキュリティなどの新しいユースケースを強化できる5Gベースのネットワークのバックに、この新しいアプローチにゆっくりと慣れてきています。
Verizon BusinessのCEOであるカイル・マラディ氏は、最近の投資家会議で、キャリアのFWA製品を企業が採用していることに「非常に満足している」と述べました。「予想以上にうまくいっていると思います」とマラディは述べ、さらに新しいユースケースを追加できることも含めていると付け加えました。
これらのFWAユースケースは、当初は基本的なインターネットアクセスを含んでいましたが、SD-WANの上に重ねることでデータバックアップや銅線のようなレガシーインフラの置き換えにまで進化しました。
「サービスの需要は、小企業や企業が製品の信頼性と展開の迅速性に引き続き信頼を置いているため、強化されています」と、VerizonのCFOであるトニー・スキアダス氏は、キャリアの最新の収益発表時に投資家に語りました。
VerizonのCEOであるハンス・ヴェストバーグ氏は、以前、キャリアの5G FWA製品が独自の企業向けユースケースを推進していると指摘していました。
「ビジネス面では、固定無線アクセスでケーブルを置き換えるコーヒーショップから、異なるユースケースで固定無線アクセスを実際に置き換える大企業に至るまで、以前は見られなかった新しいユースケースを目にしています」とヴェストバーグは、キャリアのQ1収益発表時に述べました。
AT&Tの経営陣も同様に、5G FWAの成長に対して企業の関心を示しました。このキャリアは特定の分野では最小かつ最も新しい参入者であり続けていますが、CFOのパスカル・デロッシュ氏は、ビジネス分野での成長機会を見ていると述べました。
AT&TのCEOであるジョン・スタンキー氏はさらに、キャリアが5G FWAサポートをどこで展開するかを選択する際に慎重であることを説明しました。企業顧客は消費者市場とは異なる使用パターンを示しています。
「私たちはそれを行っています...正しいビジネス顧客がそれを購入したいと思う場所ならどこでもそれを販売しますし、それは私たちに容量があるかどうかにかかわらず意味します」とスタンキー氏は述べました。「ビジネス製品は異なる製品です。ビジネス製品は異なる使用特性を持っています。ビジネス製品は異なる[収益]特性を持ち、ビジネス製品は複数の製品をバンドルして提供する方法においても異なる特性を持っています」
スタンキー氏は、この企業使用の特徴が、5G FWAサービスのさらなる拡大に向けた収益性のある道を提供すると付け加えました。
「ビジネス市場でのスケールをさらに進めるのを引き続き見るでしょう」とスタンキーは述べました。「その分野での配信をまだ調整して調整しているところで、今後数四半期でビジネスセグメントの数字の改善を見ることができると思います」
サイバーセキュリティ、SD-WAN、およびセキュアアクセスサービスエッジ(SASE)
VerizonのSD-WANの取り組みと同様に、T-Mobile USはサイバーセキュリティコンポーネントを強化するためにFWAネットワークの焦点を増しています。
T-Mobile USは最近、5GベースのFWAサービスの企業採用を促進するためにチャネルパートナーと補助金プログラムを立ち上げました。このプログラムは、5G対応のラップトップや企業向けの5G FWA機器の初期費用を削減し、アナリストはこれが企業の採用を制限していると指摘しました。
「特にラップトップの5Gデバイスの価格は、5Gソリューションを採用しようとする企業にとって主要な障害となっています」と、Moor Insights and Strategyのチーフアナリストであるパトリック・ムーアヘッド氏は、T-Mobile USのプログラムの立ち上げに関連した声明で述べました。
このキャリアはまた、オファーを受ける企業が最近発売されたT-Mobile USのSASE製品にアップグレードできる能力を誇示しました。この製品は、昨年、ネットワーク管理およびゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)プラットフォームとして立ち上げられました。
T-Mobile USは、従来のSASEベンダーが提供できないものを提供する市場での独自の立場を維持できると考えています。
「セキュリティは本当に重要です。だからこそ、SASEソリューションを提供する会社が多く見られるのです」と、T-Mobileのビジネスグループの戦略、製品、およびソリューションエンジニアリング担当SVPであるミシュカ・デーガン氏は、そのサービスの立ち上げに関連してSDxCentralに語りました。「しかし、彼らはすべて従来のSASEであり、すべてソフトウェアベースです。私たちは、それをハードウェアベースにして本当にその差別化をもたらすという私たちのアプローチに理解し、調整されたパートナーと協力することを確認したかったのです」
GlobalDataのバートン氏は、これらのサービスおよびセキュリティの追加が、ネットワークベースのフォーカスからより多くの収益を引き出したいと考える事業者にとって良いアプローチであると指摘しました。
「通信事業者は、インターネット/クラウドアクセスやSD-WAN/SASEなどのサービスが本質的に水平的であることを認識すべきです」とバートンは書いています。「彼らのコアポートフォリオで深い垂直的関連性を求めるのではなく、テレコム事業者は、クラウドや人工知能などの技術を受け入れようとする企業の広範な変革の旅の重要なイネーブラーである方法を示すべきです」
以上が、SDxCentral の記事の意訳になります。
この記事に関する考察
5G固定無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)は、5G技術を利用して固定ブロードバンドサービスを提供する新しい通信方式です。
家庭だけではなく、企業に対しても、ケーブルや光ファイバーの代わりに5G無線技術を利用し、高速インターネット接続を提供します。
光ファイバーが、上り/下り最大1〜10Gbpsに対して、5G FWAは、下りの最大は10〜20Gbpsとされています。
5G FWAは、アメリカを中心に導入が進んでおり、T-MobileやVerizonなどの大手通信事業者が積極的にサービスを展開しています。
従来の固定ブロードバンド市場に大きな変化をもたらすとされていますが、デメリットもあります。
安定性の課題・・・5Gは天候や障害物の影響を受けやすく、特にミリ波帯を使用する場合は電波の減衰が大きいため、安定性に課題があります。
カバレッジの制限・・・基地局からの距離や建物の構造によって、通信品質が低下する可能性があります。
帯域幅の共有・・・同一エリア内のユーザー数が増加すると、帯域幅が共有されるため、通信速度が低下する可能性があります。
初期コスト・・・専用のCPE(顧客宅内機器)が必要となるため、初期費用が発生します。
電力消費・・・CPEは常時電源を必要とするため、電力消費が増加する可能性があります。
一方、日本でも5Gが普及していると言われており、2022年度末までに5Gの人口カバー率も96.6%に達していると言われていますが、実際5Gのトラフィック量は、国内すべてのモバイルトラフィックのうちの3~4%程度しかない状況です。
皆さんも、実際にスマートフォンを利用していても、5Gより4Gに接続されている場面が多く、通信も5Gより、4Gの方が安定している印象ではないでしょうか?特に、多くの人で混雑している場では、5G通信は通信エラーになり、全く通信が行えない状況も多いと思います。
日本の5Gがイマイチなのが、NR(New Radio)化と言う、既存4G/LTE用周波数帯を5G向けに転用する技術を利用しているからだと言われています。
既存4G設備を流用することで、日本国内の5Gカバー率が一気に増加しましたが、実は4G/LET周波数を転用しており、5G専用周波数帯を使っていないため通信速度は遅く、いわゆる「なんちゃって5G」が今の日本の5Gだからです。
つまり、5G、5Gと言っていますが、日本国内で本当の5Gの性能を得るにはまだまだ時間が掛かると言うことです。
一方、海外の5G事情は大きく異なります。
T-Mobile USがSASE「T-Mobile SASE」をリリースしています。
実態は、Versa Networksと協業でのSASEで、最大の特徴は、SIMカードベースのSASEで、SIMのIMEI(International Mobile Equipment Identity)でクライアントレス認証を行います。つまり、端末にはT-MobileのSIMが入っていれば良いだけと言う、まさに通信事業者の垂直統合サービスです。
本来、SASEに接続するには、エッジデバイスが必要となります。
Catoクラウドであれば、拠点接続にはハードウェアデバイスのSocket、モバイルユーザ接続には、クライアントS/W(VPNソフト)が必要です。
モバイルユーザ接続の認証にあたっては、ID認証(SSO/LDAP)、そして、端末制限には、クライアント証明書を利用したデバイス認証や、デバイス状況をチェックするデバイスポスチャー機能などの機能が実装されていますが、通信事業者のSASEサービスで、SIM(IMEI)認証が可能になれば、このような認証は一切不要になると言うことです。
日本国内の通信事業者・通信キャリアとしては、NTTドコモビジネス・NTTコミュニケーションズ(docomo)、ソフトバンク(Softbank、Y!mobile)、KDDI(au、UQ mobile)、楽天モバイルの4社になりますが、実際法人向けにSASEサービスをできるのは、NTTドコモビジネス(NTTコミュニケーションズ)、ソフトバンク、KDDIの3社になるかと思います。
Zscalerのようなクラウド(インターネット)Proxy、今で言うSSE においては、通信事業者は、自身のコアとなる膨大な通信ネットワーク資産と組み合わせることができていました。
つまり、お客様へ既存レガシーなWANと、クラウドPoxy(SSE)をセットで販売することができますので、自分たちの資産を使ったビジネスを維持することができていました。
まさに Zscalerは、NTTドコモビジネス(NTTコミュニケーションズ)、ソフトバンク、KDDIの積極的に販売するソリューションです(でした?)
しかしながら、SASEが普及するにつれ、既存のレガシーなWANはどんどん不要になっています。
SASEであれば、足回りのインターネット回線(あるいは、今後日本国内でも整備されるだろう本当の5G)があれば、通信事業者の専用線が必要なくなるからです。
ランサムウェアは、既存のレガシーなWANが、水平方向移動(ラテラルムーブメント)の制御ができないことが、被害拡大を助長していると言われています。どこかのある拠点で感染すると、レガシーWANでは社内通信には何も制限を掛けていないので、全拠点(本社・データセンター)へ一気に被害が拡大するからです。海外拠点やグループ企業経由で感染する事例も増えています(サプライチェーン攻撃)
さらに、レガシーWANは、通信証跡(ログ)さえ確保(保管)されていないので、調査をすることすらできません。
SASE が普及すると、ドル箱の閉域網から、足回りのインターネット回線(5G)+SASEとなってしまうため、通信事業者は、今後 SASE 市場へ渋々・嫌々取り組みを進めていくことになります。
その中で、日本国内の通信事業者も、T-Mobileの「T-Mobile SASE」のようなSIMを含めたハードウェアベースの差別化要素を持ったSASEを提供していくことになると推測しています。
T-Mobileが、Versa Networksと協業したということは、シングルベンダーSASEのマジッククアッドランドのリーダー3社(Cato Networks、Palo Alto Networks、Netskope)と協業することができず、チャレンジャーやニッチプレイヤーと協業せざるを得なかったのではないかと思いますが、今後、日本の通信事業者が、どの SASE(SSE)ベンダーを協業して、ハードウェアベースの差別化要素を持った SASE を提供していくのかが楽しみです。
その前に、まず国内の5Gを何とかして欲しいですが。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?