ジュニパーはHPEのインテリジェント・エッジを救えるか?
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最近、ブロガーと言われることがありますが、noteで活動している人のことは正式には「note creator」と呼ぶそうで、略すと「noter」と言うらしいですよ。
さて、この記事は、2024年12月11日の SDxCentral の以下の記事を意訳したものになります。意訳後に記事に関する考察を述べています。
Can Juniper save HPE’s Intelligent Edge?
ジュニパーネットワークスはHPEのインテリジェントエッジを救えるのか?
ジュニパーはHPEのインテリジェントエッジを救えるか?
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)の140億ドル規模のジュニパーネットワークス(Juniper Networks)の買収計画は、2025年初頭の完了を目指して現在進行中です。
この取引が、HPEの遅れをとっているエッジ事業を強化するための鍵となるとHPE経営陣は期待しています。
HPE CEO アントニオ・ネリ(Antonio Neri)氏は、最近の決算発表時に、この取引が欧州連合(EU)、英国、インド、韓国、オーストラリアの規制当局から承認を受けたと述べました。また「米国では司法省(DOJ)と協議を進めており、審査は新しい暦年に入っても継続すると予想しています」との見解を示しました。
報道によると、HPEはこの取引の承認を得るために司法省と会談を重ねている模様です。
ネリ氏は電話会議中「プロセスを進めている最中です」と述べました。
「この取引は2025年の早い時期に完了すると確信しています」とネリ氏は述べ、「司法省とも非常に協力的に取り組んでいます。これが実現しないとは考えていません」と自信を示しました。
HPEは当初、年内に取引を完了させることを目指していましたが、現在は新年に持ち越される見込みです。
また、ネリ氏は冒頭の発言で、この取引がもたらす国家安全保障上の利益について強調しました。
「この取引は、HPEを世界的なテクノロジー企業の中で強力な米国のイノベーターとして位置づけることで、米国の国家安全保障利益を強化するものです」とネリ氏は述べました。
HPEはジュニパーに多くを期待している
ネリ氏による国粋的な発言に加えて、この取引はHPEの財務状況も強化するとされています。
HPEの業績はおおむね好調でしたが、同社のインテリジェントエッジ事業は依然として苦戦しています。この部門にはHPEのSASE(Secure Access Service Edge)サービスが含まれていますが、過剰在庫の消化が原因で前年同期比で20%の売上減少を記録しました。
ネリ氏は、この部門が3四半期連続で注文の増加を記録したことを強調しましたが「それがまだ完全に売上に反映されていないため、収益は横ばいのように見える」と述べています。HPEは、ジュニパーとの取引によってこのトレンドを変え「顧客にエッジからクラウドまでの完全なソリューションを提供する」ことでポートフォリオをさらに強化することを期待しています。
「まだ完全に我々が望む状態に戻っていないのは、キャンパススイッチングそのものです」とネリ氏は述べ、「そして...データセンターネットワーキングは、[Aruba Central]プラットフォームがもたらすよりインテリジェントな機能を使用して再び2桁成長を遂げています。このため、ジュニパーネットワークスとの組み合わせがこのポートフォリオに補完的であることに興奮しています」と語りました。
HPE CFO マリー・マイヤーズ(Marie Myers)氏も、「ジュニパーの取引が完了すれば、それは大きな推進力となり、粗利率と営業利益率の両方に非常にポジティブな影響を与えるでしょう。今後の営業利益の50%がジュニパーからもたらされると予測しています」と述べました。
アナリストの懸念とHPEの課題
一部のアナリストは、HPEがジュニパーネットワークスのポートフォリオを最大限に活用できるかどうかに懸念を示しています。
フォレスターリサーチのプリンシパルアナリストであるアンドレ・カインドネス(Andre Kindness)氏は、この取引が発表された際のブログ投稿で、「ジュニパーとHPE/Arubaの顧客にとって、今後の道のりは困難に満ちているだろう」と指摘しました。同氏は、HPEがポートフォリオや製品、ソリューションを「合理化・最適化」することが重要だと述べています。
「HPEは、お客様へ何も変わらないと安心させようとしますが、すべてを維持することは理にかなっていません。特に、複数のAP(アクセスポイント)製品ライン(Instant On、Mist、Aruba AP)、ルーティングとスイッチングのオペレーティングシステム(Juno、AOS-CX、ArubaOS)、および管理システム(CentralとMist)をすべて維持するのは現実的ではありません。」とカインドネス氏は書いています。
「即座にではありませんが、製品は淘汰され、残るハードウェアはクラウドベースの管理、監視、AIに対応するよう変更される必要があります。」
さらに、カインドネス氏は最近のインタビューで、「不確実性のために、いくつかの企業が購入計画を一時停止している」と述べました。
「現在、顧客が計画を保留しているのを目にしています。ジュニパー側だけでなく、両方の側でです」と同氏は語りました。「通常、シスコ以外を検討するほど強力な顧客の場合、HPE、Aruba、ジュニパーが主な選択肢となりますが、その一部が現時点で保留されています。」
ネリ氏は重複に関する懸念を和らげようとしていますが、カインドネス氏は「理解に苦しむ」と述べています。
「ネリ氏は、株式市場の金融アナリストや株主をなだめつつ、顧客やジュニパーの顧客基盤を怖がらせたくないので、重複や変更がない、すべてが共存するだろうと言っているのでしょう」とカインドネス氏は語りました。
また、同氏は、この取引が完了してから数年は大きなプラットフォームの削減はないと予想していますが、その間にチャネルパートナーや市場戦略に関連する課題が市場機会を侵食する可能性があるとも述べました。これは、BroadcomによるVMware買収後に起きていることに似ています。
「Broadcomは徹底しています。それが良いか悪いかは別として、それが彼らのビジネスモデルです。HPEはそこまでダイナミックではありません」とカインドネス氏は述べています。
競合他社の機会
ただし、これは競合他社にとって機会がないという意味ではありません。
「HPEとジュニパーの取引が完了すれば、彼らは困難な決断を迫られるでしょう」とExtreme NetworksのCEO、エド・マイヤーコード氏は最近の決算発表で述べました。「市場に対して、顧客の投資がどうなるのか、パートナーが新しい状況でどのように影響を受けるのかという困難なニュースを伝える必要があり、そうした混乱が競合他社にとって機会を生み出すことが予想されます。ただし、その取引が完了するまでは本格化しないでしょう。」
以上が、SDxCentral の記事の意訳になります。
この記事に関する考察
BroadcomのVMware買収に続き、HPEのJuniper Network買収の記事が、利用ユーザが多いので大きな関心事になっています。
本記事によると、HPEによる140億ドル(約2兆1500億円)規模のJuniper Networks買収について、欧州連合(EU)、英国、インド、韓国、オーストラリアの規制当局から承認を受けたとあり、残りは、アメリカの司法省(Department of Justice’s :DOJ)のみであることから、2025年の早い段階で、取引の承認を受けられるだろうとのこと。
司法省の最終的な判断がどうなるか分からないですが、今回司法省は、反トラスト法(独占禁止法)ではなく、国家安全保障の観点、つまり、ジュニパーの保有するASICのような専門的なシリコン開発を、HPEが今後も維持するつもりがあるのか?(維持ができるのか?)を判断しているとされています。
過去のHPEによる企業買収の経緯からすると当然のことかと思います。
また、アナリストによると、今回のジュニパー買収は、HPEが苦戦するインテリジェント・エッジ事業の立て直しだとされています。
要するに、インテリジェント・エッジ事業には、SASE(Secure Access Service Edge、サッシー)が含まれているのに関わらず、過剰な在庫を抱えながら、前年同期比で売上▲20%になっていることを、ジュニパー買収で立て直しを図りたいと言うことです。
ちなみに、SASEは様々は様々な調査会社が、年平均成長率(CAGR)を公表していますが、おおむね+25%後半~30%超としている場合が殆どです。
つまり、+25%以上のSASEビジネスにも関わらず、HPEは(HPEだけが)、▲20%になっているということになります。
次に、アメリカ司法省が承認したとしても、その後、HPEがジュニパーを含めた全体の製品ポートフォリオをどうするかがポイントになってきます。
現時点で、HPEは、もちろんですが、お客様へ何も変わらない(変えません)と安心させることに躍起になっていますが、すべてを製品をそのまま維持することは不可能です。
特に、複数AP(アクセスポイント)製品ライン(Instant On、Mist、Aruba AP)、ルーティングとスイッチングのオペレーティングシステム(Juno、AOS-CX、ArubaOS)、および管理システム(CentralとMist)をすべて維持するのは不可能と言えます。
ここで言う"維持"とは、新しい機能追加を含めた開発リソースを投入し続ける"維持"を意味しており、単に現行バージョンの提供をし続ける意味の"維持"ではありません。
過去のHPEによる企業買収の経緯からすると、製品ポートフォリオは数年の内に淘汰され、様々なハードウェアについても同じく淘汰が進み、全体方向性としては、クラウドベースの管理(監視)、そして、AI対応へ進むと考えられます。
特に、AI対応については、ジュニパーの Mist が先行しているため、買収承認されると、あらゆるものが Mist へ淘汰される可能性が高いと考えています。
HPEの SASE の歴史は、2015年 無線LAN大手のArubaを買収し、2020年 SD-WANのSilver Peakを買収、その後、2023年にSSEのAxis Securityを買収し、各社を組み合わせた「Unified SASE(統合SASE)」をリリースしています。
SD-WANとSSEを単一の1社で提供できるようになったことから、今年(2024年7月)のガートナーのシングルベンダーSASEのマジッククアドランドに初めて選出されていますが、あくまでもニッチプレイヤー(小さなセグメントに的を絞って焦点を合わせており、他ベンダーよりも革新や成果を上げられていない)です。
SD-WAN(Silver Peak)とSSE(Axis Security)についても、現在は、バラバラの管理ポータル(コンソール)ですので、SASEを期待されているお客様の期待に応えることができていません。
また、ロードマップとして、SD-WAN、SSEの別々の管理ポータルは、Silver Peakでなく、Axis Securityでもなく、Arubaの管理ポータルである Central へ統合される方針が出ています。
そして、ジュニパーの買収が承認されれば、ロードマップはさらに変わってくることになると推測できます。
このような不確実性から、多くのお客様では、HPE、ジュニパーを選択するこを避ける傾向にあります。
特に SASE については、企業のインフラ、特にネットワーク・セキュリティの根幹となるため、長期間(少なくとも3年以上)利用することを前提とするケースが多いので、今 HPE の「Unified SASE(統合SASE)」を選択するのは得策ではないと思います。
少なくとも、来年2025年にアメリカ司法省の承認が下りるのか?承認された場合に、インテリジェント・エッジ事業として、HPE の SASE はどの方向性に進むのか?を見極める必要があると思います。
以上となります。
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