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HPEはジュニパーのビジネスチャンスを統合できるか?

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今回の記事は、2025年1月10日の SDxCentral に掲載された以下の記事を意訳したもので、意訳後に記事に関する考察を述べています。

Can HPE integrate Juniper opportunities?
HPEはジュニパーの機会を統合できるか?


HPEはジュニパーの機会を統合できるか?

ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)によるジュニパーネットワークス(Juniper Networks)の140億ドル(約2兆2千億円)の買収計画は、業界観測筋の間で、短期的および長期的な影響についての活発な議論を引き起こしています。この提案された買収が進展するにつれて、こうした議論はさらに激化すると予想されています。

この議論の大部分は、買収後の製品およびサービスポートフォリオがどのようなものになるかに焦点を当てており、それが企業の顧客の新しい、より強力なエンティティ(存在・実体)へのアプローチに影響を与える可能性があります。

HPEとジュニパーの経営陣は、製品の重複や継続性の問題が企業の意思決定に与える影響を最小限に抑えようと努力しています。

「この買収に取り組む目的は、製品を排除することではなく、サービスプロバイダー、クラウドプロバイダー、そして企業のお客様すべてに、より多くの選択肢と革新を提供することです」とジュニパーネットワークスのCEO、ラミ・ラヒム氏は、買収が発表された直後のブログ投稿で述べています。

こうした主張はアナリストコミュニティ内で賛否が分かれていますが、一部ではその可能性を支持する声もあります。

Moor Insights & Strategyの副社長兼主任アナリストであるウィル・タウンゼント氏は、SDxCentralとのインタビューで「プラットフォーム間で大きな重複や混乱は見られない」と述べています。

「データセンター、キャンパス、ブランチ(拠点)を見てみると、両社のポートフォリオは実際には非常に補完的です」とタウンゼント氏は語ります。「Aruba(HPE傘下)はデータセンター分野で強みがありませんでした。Pensandoを使ってトップオブラックスイッチで市場に先行したと言えるかもしれませんが、それはデータセンターへの足がかりに過ぎませんでした。一方で、ジュニパーはデータセンター能力を持っていますので、良い組み合わせと言えます」

タウンゼント氏は、HPEとジュニパーの経営陣が「顧客観点から見れば重複は非常に少ないと述べており、その言葉を信じるしかない。実際にこの取引が完了すれば、多くのことが明らかになるだろう」と指摘しています。

しかし、全く整理されないわけではありません。同氏は、プラットフォームの突然の廃止はないと予想しつつ、「ロードマップの合理化」は確実に行われると述べています。これは、キャンパスやブランチプラットフォームの統合や人工知能(AI)への注力の増加による影響を受けるでしょう。

「Aruba Centralは非常に強力です。MistもAIの観点から非常に強力です」とタウンゼント氏は述べています。「私の見立てですが、もし会社が賢明であれば、Centralの能力とMistのAIインフラストラクチャ、AIアシスタントのMarvisを組み合わせて、そのソフトウェアスタックを統合するでしょう。」

さらに同氏は、「アクセスポイントやルーターに関する意思決定、ブランド化の問題、そしてロードマップの合理化・統合の課題もあるだろうが、これは管理可能だと思う」と付け加えています。「もし両社がキャンパス、ブランチ、データセンター分野で非常に強力だったら、それは懸念すべきことです。しかし、そうではありません」

「ただ、これは市場シェアの統合に過ぎないという意見には反対です」とタウンゼント氏は述べています。「MistやAIがもたらす価値はHPEにとって非常に重要だと思います」

HPEとジュニパーの実行が鍵となる

タウンゼント氏の意見には、Dell’Oro Groupのリサーチディレクターであるシアン・モーガン氏も同調しており、彼女は「両社にとって非常に大きなチャンスがある」と述べています。

「エンタープライズ側の市場は非常に分散しており、だからこそこの買収が競争力の観点で問題を引き起こすとは思いません。分散している市場ゆえに大きなチャンスだと思います」とモーガン氏は述べています。

モーガン氏は、ジュニパーの成長を妨げてきた要因として「HPEのようなグローバルなチャネルインフラストラクチャが不足していること」を挙げました。また、HPEのサーバー、ストレージ、データセンター市場での強みが、ジュニパーがサービスプロバイダー、クラウド、AI分野で持つポジションと「非常に良い補完関係にある」と述べています。

しかし、タウンゼント氏と同様に、モーガン氏もエンタープライズスイッチやキャンパス市場の統合はより難しい課題になる可能性があると指摘しています。

一部の製品には大きな重複があり、どうするかを慎重に考えなければなりません。難しい決断をしなければならず、もし何も削減しなければ、複雑で顧客にとって混乱を招くでしょう」とモーガン氏は述べています。「しかし、もし削減すれば、ビジネスを失ったり、企業に不安を与えたりするリスクがあります

HPEとジュニパーの競合他社は、今回の買収がエンタープライズ顧客に与える不安をすでに指摘しています。

「確かに、この状況はある種の不確実性を生み出しました。以前はどちらかのベンダーや顧客だった場合、今が他の選択肢を検討するタイミングだと考える人もいるでしょう」と、昨年の投資家会議でシスコのCFOスコット・ヘレン氏は述べています。「実際、当社のワイヤレスビジネスでは、100万ドル以上の注文が第4四半期に20%以上成長しました」

モーガン氏は、HPEとジュニパーがこうした不安を慎重に扱う必要があると述べています。

彼らは非常に巧みにこれを進める必要があります。簡単なことではなく、かなり時間がかかるでしょう」とモーガン氏は述べています。

モーガン氏はまた、多くのエンタープライズ顧客が今後の製品ロードマップの明確さに懸念を示しているものの、HPEやジュニパーと既に強固な関係を築いている企業は「今後どうなるかを待って見守る用意がある」と述べています。

「現時点では、それがビジネスに実際に影響を与えているという明確な兆候はありません」とモーガン氏は述べています。「この買収が発表されて以来、どちらかのベンダーから顧客が離れている明確な動きは見られていません。もちろん競合他社はそれを自分たちのチャンスだと考え、特定の案件で勝利したと主張するかもしれませんが、数字を見る限りでは、それが強く示されているわけではありません」

HPEは統合プロセスを成功させるために、この可能性を活用する必要があります。

「これは確実に成功するというものではなく、単に『1+1=2』にはなりません」とモーガン氏は述べています。「実際の市場シェアの合計以上の価値を生み出すためには、多くの努力が必要で、それには多くのリスクも伴います。しかし、大きな可能性もあると思います」

以上が、SDxCentral の記事の意訳になります。
 
 

この記事に関する考察

HPEとジュニパーのこれまでの記事は、以下の note のマガジンにまとめています。

この記事によると、データセンター分野においては、重複製品が少ないが、その他の分野では、大きな重複があるため、難しい決断にせまられることになり、もし製品の削減を実施した場合には、顧客企業のビジネスを失うことになるだとうとのことです(おそらく削減は避けらませんが)

実際には、複数AP(アクセスポイント)製品ライン(Instant On、Mist、Aruba APs)、ルーティングとスイッチングのオペレーティングシステム(Juno、AOS-CX、ArubaOS)、および管理システム(CentralとMist)が重複しており、すべて維持するのは現実的ではありません。

また、これらアプライアンス製品だけではなく、SASE(実際には、なんちゃってSASE)として"Unified SASE"も保有しており、Silver Peakや、Axis Securityといった企業買収で手に入れた製品サービスも存在しています。

「Aruba Centralの能力と、ジュニパー MistのAIインフラストラクチャ、AIアシスタントのMarvisを組み合わせて、ソフトウェアスタック統合をするだとう」との見解ですが、そう簡単に統合できるものではないのは明らかです。

SDxCentralの記事には、現在、HPEとジュニパー双方と強固な関係を築いている企業については「今後どうなるかを待って見守る準備がある」と述べられていますが、果たして本当にそうでしょうか?

APやスイッチについては、製品ライフサイクルのタイミング(5-7年)で、機器更改が必須となります。1、2年程度の保守延長はなんとか可能かもしれませんが、3、4年も延長することはできません。

特に、ネットワークとセキュリティのクラウドサービスである SASE(サッシー)は、今や企業の最有力選択肢となっており、ここ数年で多くの企業で検討・採用が進むのは間違いありません。

特に、ネットワークとセキュリティ分野においては、今年まさに「2025年の崖」に直面しており、ネットワーク・セキュリティ人材不足が深刻で、オンプレミス機器からサービス(クラウド)利用への移行は避けて通ることはできません。

ガートナーのシングルベンダーSASE(単一ベンダーで提供できるSASE)マジック・クアドランドにおいては、本来の市場ではなく、小さな特定市場に的を絞ってビジネスを実施するニッチプレイヤーである HPE "Unified SASE"は、今後の戦略も不透明であり、現時点で選択するのはとても賢明とは言えません。
サービスが、今後どういう方向性に進むのかもありますが、そもそも存続できるのかどうかが最も大きい懸念事項です。

以上となります。

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