見出し画像

HPEとジュニパーは裁判で司法省を打ち負かすことができるか?

いつもご覧いただきありがとうございます。

今回の記事は、2025年2月21日の SDxCentral に掲載された以下の記事を意訳したもので、意訳後に記事に関する考察を述べています。

Can HPE-Juniper beat the DOJ in court?
”HPE-Juniperは裁判でDOJを打ち負かすことができるか?”


HPE-ジュニパーはDOJを打ち負かすことができるか?

ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が提案したジュニパーネットワークス(Juniper Networks)の買収が裁判所に持ち込まれ、「異例のケース」であると一部の専門家が述べる中、行方は拮抗している可能性がある。

この法的もつれは、提案されている140億ドル(約2兆2千億円)の取引を阻止するためのアメリカ司法省(DOJ)の訴訟によって引き起こされている。DOJの動きは、HPEおよびジュニパーが無線LAN市場において現在占めている地位に重点を置いており、市場における第2位と第3位のベンダーが統合されることが、市場の選択肢と革新性に悪影響を及ぼすと指摘している。

Bloomberg Intelligenceの反トラスト担当上級訴訟アナリストであるジェニファー・リー(Jennifer Rie)氏は、DOJの主張の異例な点は、統合された市場支配力が、Ciscoが市場で支配的な地位を占めている場合にのみ反競争的になるという点にあると述べた(Ciscoと組み合わせなければ反競争的にはならない)

リー氏は、政府が市場の集中度を判断するためにヘルフィンダール・ハーシュマン指数(HHI:Herfindahl-Hirschman Index)を使用していると説明する。もし提案された取引がHHIの制限に達すると、通常は政府の審査が発動される。この時、リー氏が指摘するのは、提案された取引により、統合された企業が市場シェア30%以上を獲得する可能性があるという点である。

しかしながら、アナリストらは、HPEとジュニパーの統合後の市場支配率は、Ciscoが40%以上のシェアを握る無線LAN市場において30%に満たないと指摘している。

「ここには異例の状況があります。HHIがこの推定を引き起こす水準に達している一方で、両社の統合後のシェアは実際には30%を下回っているように見えます。これが、DOJ側の議論に有利な部分と、逆に、統合後の企業が市場で十分な支配力を発揮して市場に害を与えるという議論に疑問を投げかける部分があるため、結果が拮抗していると思います。DOJの主張には一方で支持する要素があるものの、Ciscoという大手競合他社が存在する中で、統合後の企業が市場に十分な影響力を及ぼすとはどういうことかという疑問もあるのです。したがって、私はDOJが訴訟を起こすに足る十分な根拠があったと思います。なぜなら、彼らのガイドラインに基づけば、害の推定を引き起こすに十分であったからです。」とリー氏は述べた。

CiscoのHPE-ジュニパーに対する影響

ジュニパーのCEO、ラミ・ラヒム(Rami Rahim)氏は、統合されたHPEとジュニパーが市場を混乱させるというDOJの主張を強く否定している。

「私はDOJが完全に間違っていると思います」とラヒム氏はSDxCentralに語った。ラヒム氏は、DOJが「無線LAN分野における取引を非常に狭い視点で捉え」、その結果として取引が競争を妨げると結論付けていると述べた。

「最終的には、無線LAN分野を見ても、それは非常に競争の激しい市場です」とラヒム氏は語った。「私はこの業界に30年近く身を置いており、ほとんどの時間をジュニパーで過ごしてきました。私たちが競合しているさまざまな市場がどれほど競争的であるかを知っています。無線LANは、8〜9社ものプレーヤーが存在する最も競争の激しい市場の一つです。どんな機会があっても…その機会を巡って多くの競合企業が競争しているのは珍しいことではありません。」

HPEは詳細な提出書類の中で、今回の取引が市場の大手であるCiscoに対抗してより競争力を高め、また中国に本拠を置くベンダーであるHuaweiに対する国際的な代替案を提供するものであると具体的に指摘した。さらに、HPEは「Extreme、Arista、Fortinet、Ruckus、Ubiquiti、Nile、Meter」といった、米国内のその他の信頼できる競合他社を強調している。

リー氏は、より小規模なライバル企業が大規模なライバルに対抗するために統合する必要があるという主張は、しばしば結果を左右しないと指摘しており、小売分野においてWal-Martに対抗するためにKrogerがAlbertsonsを買収しようとしたが承認を得られなかった最近の例を挙げた。しかしながら、リー氏は現在の状況を踏まえると、HPEとジュニパーの主張にはより良い議論の余地があるかもしれないと付け加えた。

「ここでは、Ciscoが非常に大きく、彼らに比べるとHPEとジュニパーは非常に小さいため、彼らには多少有利な議論があると思います」とリー氏は述べた。「しかもそれは将来的な話ではなく、理論上の話でもありません。これは明確な事実です。私たちはCiscoが市場でどのような地位にあるかを知っており、そのため大手No.1に対抗するために協力するという議論は、過去に企業が主張してきたものよりも強力であると思います。」

HPE-ジュニパーに対する顧客の懸念

HPEとジュニパーのケースは、顧客からの反対意見がほとんど見られないという点で支持される可能性がある。アナリストは、一部の企業が取引に対する不確実性から支出を凍結していると指摘しているが、リー氏は全体としての反発は控えめであると述べた。

「顧客からの苦情がなかったというのは理解できます」とリー氏は述べた。「FTC(連邦取引委員会)とDOJは多大な重みを置く傾向があります。彼らが取引の審査を始める際に最初に行うのは、顧客に連絡を取ることです。各社の上位10社または20社の顧客と連絡先を尋ね、彼らに意見を聞きます。もしその顧客が、製品の品質が低下したり、価格が上昇したりすることに非常に懸念を抱いていたなら、それは彼らにとって重要な意味を持ちます。したがって、顧客が懸念していないことは、彼らにとっても意味のあることです。」

最も声が大きい顧客の一つは、取引を阻止するために訴訟を起こしているのと同じである可能性がある。HPEとジュニパーが提供する、米国政府が利用する重要な通信技術の継続的なサポートに関して、潜在的な国家安全保障上の懸念が提起されている。

「もし政府、すなわち各機関が顧客であるならば、司法省は彼らに連絡を取って話を聞いているでしょうし、彼らも意見を持っているはずです」とリー氏は述べた。「もしセキュリティに関して懸念がある部分があれば、DOJはそれを知ることになるし、それは裁判の一部となるでしょう。最終的には秘密裏に、あるいは機密として扱われ、傍聴者はそれらの弁護を聞くことができないかもしれませんが、確実に一部として扱われるでしょう。もし政府が顧客であるならば、司法省はそれらの機関と話をしているのです。」

今後のスケジュールと次の展開

カレンダーもまたこの状況に圧力をかけている。提案された取引は2024年初頭に最初に発表され、今年初めにクロージングされる予定であった。

しかしながら、取引の条件として、ジュニパーはクロージング前に合意から撤退することが可能であるが、その場合、HPEに対して4億750万ドル(約600億円)の解約金を支払う必要がある。また、HPEが10月9日までに取引を完了できなかった場合、ジュニパーは8億1500万ドル(約1,200億円)の解約金を受け取ることになる。

リー氏は、HPEの弁護士が裁判の開始を6月16日として要求している一方で、DOJは裁判開始日を9月8日と望んでいると述べた。DOJの提案する日程では、「裁判を完了し、10月9日までに判決を下すには全く不十分な時間である」と述べている。

この開始日は、ケースの判決がどのようになるかをより良く理解するために重要となるだろう。リー氏は、今回のケースは裁判中に提供される証言や文書に大きく依存するため、「まだ公にアクセス可能な情報がほとんどないので、結果の多くはこれから明らかになる情報に依存する」と述べた。

「現時点では、両サイドともかなり良い主張をしていると思います」とRieは述べた。「DOJは訴状を提出するにあたって良い立場にありますが、企業側にも十分な防御策があると思います。」

以上が、SDxCentral の記事の意訳になります。
 


この記事に関する考察

HPE-ジュニパーの140億ドル(約2兆2千億円)の買収に関する続報記事となります。
これまでのHPE、ジュニパーに関する記事は以下にまとめています。

今回議論されている無線LAN市場は、8~9社が競い合っており、HPEによりジュニパーの買収については、世界16の司法管轄区域で、すでに14の国・地域がすでにこの取引を承認しており、アメリカ司法省(DOJ)のみが違法の判断をしている状況です。

そもそも無線LAN市場は、最大手シスコが、過去10年以上、アメリカの無線LAN市場の50%以上を支配しており、HPEによりジュニパー買収が完了しても、その半分程度のシェアにしかならないとされています。

今回アメリカ政府が、市場の集中度を判断するためにHerfindahl-Hirschman Index(HHI、ヘルフィンダール・ハーシュマン指数)を使用しているとのことですが、買収で統合された企業が、市場シェア30%以上を獲得する可能性がある場合に適用されることから、今回のHPEによりジュニパー買収には適さないようで、今回は、統合された企業が、市場で十分な支配力を発揮し、市場に対して害を与えるという議論となっているとのことです。

今回の記事で、HPE側は、裁判開始を2025年6月16日に要求している一方で、アメリカ司法省(DOJ)側は、裁判開始日を、3か月後の2025年9月8日で要求しているとのことです。
DOJ側の日程で裁判を開始した場合、2025年10月9日までに裁判を完了し、判決を下すには時間が全く不足しているようです。
つまり、そもそもDOJにより買収阻止の裁判の結論は、少なくとも今年の10月までは、そもそも決着がつかないことが判明しました。

HPE とジュニパーの買収が8カ月以上に停止することになり、訴訟がさらに長引けば長引くほど、HPE とジュニパーの両社のイノベーションが停滞し、大きな遅れがでるのは間違いなくなってきました。
無線LAN市場だけではなく、ネットワーク/セキュリティを含む、SASE市場などにも影響が出るのは間違いありません。

特にSASE(Secure Access Service Edge、サッシー)市場については、HPEは、2015年に無線LAN大手のArubaを買収後、2020年には、SD-WANのSilver Peakを買収、2023年には、SSE(Security Service Edge)のAxis Securityを買収しています。

Silver Peak(SD-WAN)と、Axis Security(SSE)を組み合わせて、見せかけの「Unified SASE(=統合SASE)」をリリースしており、2024年7月のガートナーのシングルベンダーSASEマジッククアドランドにおいて、ニッチプレイヤー(=小さなセグメントに的を絞って焦点を合わせており、他ベンダーよりも革新や成果を上げられていない)へ選出されています。

実際には、Unified SASE と言いながら、SD-WAN(Silver Peak)とSSE(Axis Security)は、バラバラで管理ポータル(コンソール)すら統合されておららず、将来的には Aruba の管理ポータル Central へ統合される方針が出ていましたが、今回のジュニパーの買収において、Centralへの統合ではなく、ジュニパーの Mist へ統合される可能性が高くなっていたのですが、DOJとの裁判により、無線LAN市場だけではなく、このSASE市場のイノベーションも数年遅れることが確実になりました。

HPEの Unified SASE が、ニッチプレイヤーのまま、SASE 市場から撤退する可能性が高くなってきたと言えます。

数年先の状況すら分からない ニッチプレイヤーを選択されることはないと思いますが、SASEは、正しいシングルベンダーSASEを選択されることをお勧めします。

以上となります。

最後に、この記事を気に入ったら「♡(スキ)」をぜひお願いします!

いいなと思ったら応援しよう!