Nokiaがデータセンターネットワーク運用の主権を取れるか?
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この記事は、2024年9月24日のSDxCentralの以下の記事を意訳したものになります。意訳後に記事に関する考察を述べています。
Can Nokia be a data center alternative?
Nokia(ノキア)はデータセンターの代替となるか?
Nokiaはデータセンターの代替となるか?
Nokia(ノキア)は、企業を管理の複雑さや人員不足から解放するために、Kubernetesを活用した新しいデータセンター管理プラットフォームを発表しました。また、この新しいプラットフォームは、CiscoやJuniper Networksのような業界大手と競争するNokiaの多様な製品セットとしてを強調されています。
Nokiaの「EventDriven Automation(イベント駆動型オートメーション)」プラットフォームは、Kubernetesエコシステムを基盤に、異なるプロバイダーのデータセンターネットワークを管理するための抽象化レイヤーを提供します。また、生成型AIを活用し、管理を支援し、人為的なミス(データセンターの設定ミスの一般的な原因)を減らすことができます。
Nokiaのデータセンター担当副社長であるマイク・ブション氏はインタビューで、このプラットフォームの意図ベースの性質により、「例えば、CiscoやArista、Sonicなどの設定を翻訳できる」と説明しています。「これはマルチベンダー対応の意図ベースのプラットフォームです」
Kubernetesの接続性には、Kubernetes APIやツールチェーンを使用して、ネットワーク自動化のための意図ベース、イベント駆動型、宣言的アプローチを提供することが含まれます。
「私たちは文字通りKubernetesを使用しています」とブション氏は語ります。「Kubernetesは『リソースはリソースだ』と言いますが、私たちは『ファブリックはファブリックだ』と言います」
Nokiaはこのマイクロサービスベースのアプローチをデータセンター管理に採用しており、ブション氏はこれにより、このプラットフォームがJuniperなどの競合他社のプラットフォームよりも「時間とともに劣化しにくい」と述べています。「これはより現代的なソリューションです」と彼は付け加えました。「私たちは最新のアーキテクチャを活用しています。」
ブション氏はまた、この抽象化がビジネス面でも役立つと説明しており、変化する労働力環境に対応する助けになると述べています。これには、より多様な従業員層にアクセスする能力が含まれます。
「労働力の進化に備えて計画を立てない場合、非常に高額で高度な専門家に依存することになり、その人たちが必要な作業は必ずしも特に難しいわけではありませんが、CLI(コマンドラインインターフェース)に関する詳細な知識を要求され、その知識を持つ人々にしか実行できないものになります」と彼は語ります。
NokiaのKubernetesへのフォーカスは、同社が長年にわたりこのオープンソースのコンテナ管理プラットフォームモデルに依存してきたことの延長線上にあります。これには、ネットワーキングの自動化を支援するためにNokiaが後押ししている新しい「Kubenet」プロジェクトが含まれています。
AIの適用(AI moderation)
ブション氏のKubernetesに対する楽観的な姿勢は、AIに対するより現実的な見方によってバランスが取られています。彼は、EventDriven AutomationがAIを使用していることを明確にしつつも、プラットフォームのAI要素を過剰に宣伝したくはないと述べました。
「私たちがやりたいのは、基盤の上に統一された運用を提供し、自然言語インターフェースを導入して、基盤が何であれすべてをクエリできるようにし、ツールがその翻訳を処理することです」と彼は説明します。「もちろん、AIはその一部ですが、あくまで補助的なものです。メインの役割は、人的エラーをゼロにし、問題解決を迅速にすることです。ユーザーの視点に立って、プロダクトやマーケティングチームが追加の宣伝効果を狙うようなものではありません」
このアプローチは、現場でのネットワーク管理の現在の状況をより重視しています。
「正直に言うと、自己修復型ネットワークは完全には信じていませんので、過剰に売り込むつもりはありません」とブション氏は語ります。「これが提供するのは、しっかりとしたスタート地点です。大量の情報を集める手間を省き、その時間を他の高付加価値の作業に充てられるようにします」
ブション氏のAIに対する慎重な姿勢は、この言葉がデータセンター業界でますます結びついている中で表明されました。
Dell’Oro Groupは最近、今年第2四半期にAIがデータセンター物理インフラ(Data Center Physical Infrastructure:DCPI)への需要を急増させたと報告しました。これは2023年初頭以来のこの市場での初めての増加です。
「加速されたコンピューティング展開をサポートする特性を持つDCPIの販売は昨年から市場に存在していましたが、その成長は2022年および2023年初頭の注文の巻き戻しによって打ち消されてきました」とDell’Oro Groupのリサーチディレクター、ルーカス・ベラン氏は書いています。「現在、クラウドおよびコロケーションサービスプロバイダーは、歴史的に低い空室率に対応するためにデータセンターの容量を急いで追加しており、新しい設計でラックの電力密度を高め、AIワークロードの変動性に対応しています」
これはNokiaにとって明るい兆しとなるか?
Nokiaは、新しいプラットフォームを長年にわたる「Service Router(SR)」Linuxネットワークオペレーティングシステム(OS)や、同社のデータセンタースイッチングおよびルーティングプラットフォームに結びつけています。また、光ネットワーキング企業Infineraの23億ドル規模の買収に向けた最近の動きにより、同社はネットワーキング分野へさらに深く進出しています。
NokiaのCEOであるペッカ・ルンドマーク氏は最近、Infinera後の光ネットワーク事業に対して「ボルトオン(補完的な)買収」を検討している可能性を示唆しましたが、その動きは財政的に責任あるものでなければならないと述べました。
「追加の取引については、私たちは引き続き非常に慎重であり続けます」とルンドマーク氏は述べました。「ボルトオン買収の可能性はありますが、どのような買収でも非常に強力な産業論理に基づかなければなりません。強力な相乗効果と強固な論理が必要です。それがどの買収においても必須条件となります。」
この進展により、Nokiaは直接のテレコム機器の競争相手であるEricssonとの差別化を図ることができています。EricssonはNokiaが進出しているデータセンターネットワーキング分野に追随する意欲がないことを表明しています。
Nokiaの広がる野心は、同社の将来に対する疑問が高まっている時期に浮上してきました。同社がテレコム向け機器事業を売却しようとしているという報道や、ルンドマーク氏を交代させようとしているという報道がなされています。
ブション氏は、Nokiaのデータセンターやネットワーキングの取り組みの認知度を高めることに注力していると述べました。
「課題は、私たちが善良なものを大量に持っているにもかかわらず、それを理解してもらうことです。そして、それを市場に持ち込むことが課題です」と彼は述べました。「Nokiaはエンジニアリングに重きを置いてきた歴史と、最近の合併や買収に伴う名前の変更のせいで、それが複雑になっているのです。私たちがしなければならないのは、その一部を克服し、次に何をすべきかを真剣に検討している人々と率直な会話をすることです。その会話ができれば、人々は受け入れてくれると思います。彼らは何か違うものを求めており、正直なところ、既存の企業はそれを提供していないのです」
以上が、SDxCentral の記事の意訳になります。
この記事に関する考察
Nokia(ノキア)が、9月17日にリリースした Kubernetesベースのデータセンター自動化プラットフォーム「EventDriven Automation(イベント駆動型オートメーション)」についての記事です。
まず Nokia は、日本国内でも携帯電話を販売していたので、ご存知の方も多いと思いますが、以前(2011年まで)は世界最大の携帯電話メーカでしたが、スマートフォン事業に失敗し、2013年にマイクロソフトに買収されました。
※現在 Nokia のブランド名を継承した携帯電話を製造・販売している企業(HMD Global)とは資本関係はありません。
もともと Nokia は長い歴史を持つフィンランドの多国籍企業で、通信技術分野のリーダー的存在です。従業員は約92,000人で、130カ国以上で事業展開しており、年間の売上高は、約230億ユーロ(約3.6兆円)です(2020年時点)
Nokia の主な事業分野は、通信インフラストラクチャ、情報技術、消費者向け電子機器分野で、現在は、通信インフラ設備と無線技術の開発に注力しています。
特に、5Gネットワーク技術の開発と展開においては世界的なリーダーであり、その中でも、特に通信インフラの近代化と5G技術の実現に向けて、Kubernetesを積極的に採用をしており、2018年には最初のKubernetesベースの製品である「Nokia Telephony Application Server」をリリースしています。Nokia では、すべての新しい5G製品開発がKubernetes上で行われていると言われています。
Kubernetesに採用により「インフラに依存しない開発」「開発の迅速化(アジャイル開発)」「テストの効率化」「DevOpsの実現」が実現できているとのことです。
また、Kubernetesを活用した「Nokia Cloud Platform (NCP)」を開発しています。NCPは、Red Hat OpenShift Container Platformを採用し、NokiaのCloud Native Network Functions(CNFs)との統合が行われており、Kubernetes Operator Frameworkを活用しDay-2オペレーション(運用業務)の自動化を実現しているとのことです。
今回の記事の Nokia の Event-Driven Automation(EDA)プラットフォームは、データセンターネットワーク運用を自動化するための最新のAI駆動ソフトウェアソリューションとされています。
EDAは、Kubernetesを基盤とする最新のアプローチでデータセンタ ネットワーク運用の水準を高め、データセンタ ネットワークに信頼性が高く、シンプル化され、適応性に優れたライフサイクル管理をもたらす、とされおり、ネットワーク運用における人為的ミスをゼロにすることを目標とするプラットフォームで、ネットワークの中断とアプリケーションのダウンタイムを削減するとともに、運用にかかる労力を最大40%削減するとのことです。
実際には、同じ Nokia が開発し、2020年にリリースした次世代ネットワークオペレーティングシステム(NOS)、Service Router Linux(SR Linux)を補完、拡張するものとされています。
その一方で、そもそも SR Linux は、Appleなどの世界規模の企業と共同開発されたと発表されていましたが、海外を含め導入事例・採用事例はなく、実際に日本国内で、SR Linuxを採用した導入事例は聞いたことがありません。
2018年のKubernetes ベース「Nokia Telephony Application Server」から始まり、2020年の次世代NOS「Service Router Linux(SR Linux)」、2023年のOpenShift(Kubernetes)ベースの「Nokia Cloud Platform(NCP)」をリリースしましたが、どれも上手くいっておらず、今回の「Nokia Event-Driven Automation(EDA)」は、NCP に流行りの生成AI(GenAI)アシスタント機能を追加しただけのようにも見えます。
マルチベンダー対応とありますが、データセンター通信機器の多くは、Nokia ではなく Cisco(iOS)や Juniper Networks であるため、今回の Nokia NDA が、データセンターネットワーク運用の主権を奪うとは到底思えませんが、最近のデータセンターファブリック(スパイン/リーフ型の2層アーキテクチャ)のネットワーク運用において、本当に、人為的ミスがゼロになり、ネットワーク中断・アプリケーションダウンタイムが削減でき、運用工数が40%も削減できるのであれば、日本国内でも採用が進むのではないかと思います。
ただ、日本国内については、単に良いものを採用するのではなく、マーケティング(特に広告)により知名度・認知度が高く、かつ、有名企業が採用し導入事例が複数ないと、誰も採用の検討すらしないので、Nokia NDA が、日本国内で採用されることは、かなり難しいと思います。