こころのひつぎ #すこし先の未来 #シーズン文芸
note文芸部がお送りする #シーズン文芸 創作企画。
5・6月のテーマは「すこし先の未来」。
本日はこの方、神谷京介さんです。
◇
こんにちは! ぼく、ひつじだよ!
このアプリのつかいかたを説明するね!
~横スクロールの画面。右端に黒い棺、左から羊が数匹流れてくる~
黒いひつぎのなかは、まだからっぽだよ。
まずは、ぼくのどれかひとつをタップしてね。
~タップされた一匹の羊がほんの少し宙に浮く~
タップできたら、ぼくを黒いひつぎのなかにいれてね。
~一匹の羊が黒い棺の中に入る~
ありがとう~!
ぼくはまだまだたくさんいるよ。画面がじゅうたいしないように、手際よくぼくたちをひつぎのなかにいれてね! では、スタート!
・・・
「うわ、うわわわ、めっちゃひつじ来る、やば」
「え、ちょっとまってむずくない? ほら早く」
「ちょっとウルも手伝って」
「これ? どっち?」
「いや早くやれし」
「うわ、めっちゃ来る、まじむり」
「あ、まって止まった、ひつじ止まった」
画面の中の羊は歩みを止め、動かない。
右上には棺に入った羊の数が表示されている。
「23匹」
・・・
たくさんのぼくをいれてくれて、ありがとう~!
きみはどう? きみをみつけられるまで、つづけてみてね!
・・・
『安眠 アプリ』
『睡眠 アプリ』
『ひまつぶし スマホ ゲーム』
『心の棺 危険』
『心の棺 噂』
『心の棺 攻略』
『心の棺 どんなゲーム』
『心の棺 ゲームじゃない』
『心の棺 個人情報』
『ひつじくん 怖い』
『ひつじくん 23匹を超えたら』
『ひつじくん こっちを見たら』
『心の棺 事件』
・・・
おはようございます!
最近話題の心の棺やってみました~!
30匹超えてから、なんか気持ち悪くなってきてやめました笑
95 リツイート 1,782 いいねの数
・・・
毎日見てます。今日も可愛い~
りっちゃんおはよー!
あのゲームね。あれちょっとやばいよね笑
おもろ
23匹超えたんだwww
それやめた方がいいですよ。
危険なアプリです。報道されてないだけで実は自〇者出てます。こちらのリンク見てください。 news.m...
りっちゃんファイト~!!─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ
昨日バイトでテレビ見れなかったー(泣)
・・・
布団にもぐり、部屋の電気を消す。
手でさぐって、自分のスマホがそこにあるのをたしかめて、目を閉じる。
「なに、今日も会社行かないの」
妻の声。
「無理なんだよ、身体が動かなくて」
「課長に連絡したの?」
「LINEした」
ミュートにするのを忘れてしまって、羊の鳴き声の起動音が部屋中に鳴り響いて。
「またそのゲームやるの」
僕は返事をしない。
「もう叫ばないでよ、大家さんに怒られるのあたしなんだから」
・・・
観覧車が好きだった。地元の、古いちいさな遊園地。子どものころ、母に手を引かれて、よく訪れていた。月に2回くらいは、行きたい、とせがんで、月に1回くらいは連れていってもらえた。
その日、母の隣には知らない男がいて、僕を見るなり、けらけらと笑った。ごあいさつして、と母は僕に言った。彼は退屈そうに一人で先を歩いていた。
観覧車の次に僕が好きだったのは、200円を入れて水鉄砲で標的を倒していくちいさなアトラクションで、たしかその男と一緒にやった。
観覧車に三人で乗ってから帰ろうと母に言われて、僕は泣いた。ママと二人がいい、と泣いた。その日を境に、僕の感情はなくなってしまった。
観覧車はゆっくりと昇っていく。園内の景色が徐々にちいさくなっていく。
「ママ、ひつじさんがいる」
「ほんとだね、今日はひつじさん何匹いる?」
「えーとね」
併設されたちいさな動物園、その柵の中にいる羊を数えていく。
あのころの僕は、数の数え方をよく知らなくて。
だから、いつも母に教えてもらっていた。
「きょうはね」
・・・
ありがとう~!
すこし先の未来に、ぼくはかえっていくよ。
きみは、どこにいたかな???
▶ もう一度チャレンジ おわり
・・・
「あ」
「なに」
「なんかさ」
「なんか?」
「あたしがいた」
「なにそれ」
「あたしがあの中にいてさ、もう未来なんて見たくないのにって、泣いてた」
「あーなんかわかる、いちばんオドオドしてたあの子」
「そう、ウルにも見えた?」
「見えた」
「でも、今、もう今が未来で、さっきの子はもういなくて、泣いてたあたしもいない」
「うん」
「どっかいっちゃった」
・・・
これが記憶、これが未来。
わたしは、狭苦しい部屋、その天井を見上げて。
いつかずっと昔のことを、届きもしないのに、回想している。
◇
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※文芸部員の皆さまへ。寄稿は、まだ間に合います(笑)
よければぜひ書いてみてください! 神谷 京介
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