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鎌ヶ谷冒険記vol.2

かつて私がアルバイトしていたロックバー、アルカディア。亡くなった店主の面影を探して初めての墓参りに行くまでのお話、中編です。

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翌日、いざ鎌ヶ谷へ出発した。ちなみに妹さんの地図には新鎌ヶ谷駅が描かれていたが、お墓に近いのは鎌ヶ谷駅のようだった。錦糸町から総武線快速で船橋へ、そこから東武アーバンパークラインという路線に乗り換える。東武野田線ともいうのだろうか、あまり人は乗っておらず、座席の下にホコリが溜まっているのが見えて、普段乗る電車はそうか人が掃除をしているのだなとどうでもいいことに気づいたりした。乗り換えて3駅程度で鎌ヶ谷駅に到着した。なんだ、遠い遠いと思っていたら、案外すぐに着いてしまった。初めて訪れる駅、見たことのない景色に、嗅いだことのない匂いがして、待ち合わせの時間まで体が宙に浮いているみたいだった。
 
駅で鎌本さんと合流し、それぞれ花を選び、日本酒とキャスター5ミリをひと箱購入した。もらった地図はやはりなんだか頼りなく感じ、グーグルマップで目星をつけておいたので、ふたつを見比べながら駅の西側へ進んでいった。神社、住宅街、保育園、坂を上り、下り、また上る。マスター、この辺りで育ったのかなとぼうっとしていると、地元走りの車にひっかけられそうになる。また進むと、グーグルマップが右へ曲がれと言ってくる。軽自動車一台がぎりぎり通れるくらいの細道だ。疑いながら右折する。ふと視線を感じて振り向くと、建物の脇に野良猫がいる。と、その向こうにも猫。奥の駐車場にも猫。猫。どうしても足を止められてしまう。猫の求心力……。断ち切って前へ行くと、左に梨畑が現れた。梨畑以外に目印の無い道、確信が持てないまま、次第に林の中へ入り込んでいくと、なんと別の梨畑に遭遇した。どうやらこれが地図に載っていた梨畑で、ずっと見渡すと、梨畑の向こうに墓地があるのが見えた。
妹さんの地図の通り、墓地の一番奥に、お墓はあった。さっぱりした造り、隣に愛犬碑もある。ここに居ると思うと不思議だ。会いに行きたいと思って、行ったら何かが変わると思って、望んでここに来たのに、着いてみたらなんか不思議、掴みどころのない気持ちになってしまった。持って来たお香に火をつけて手向ける。花を飾る。墓石に酒をかけてやり、キャスターに火をつける。手を合わせてみて、何か伝えたいことがあったのも忘れて、ただぼんやりマスターの顔を思い浮かべた。ずっとここにいたいような、でもいたところで何も変わらないような。私も鎌本さんも、お互いそんな気持ちだったと思う。暗くなる前に駅へ戻らないと、そう自分に理由をつけて墓石にさよならを言った。お香はぐんぐん燃えていたが、キャスターの灰はちっとも増えていなかった。

梨畑、キャベツ畑、住宅、駅に戻るまでの間、コンビニひとつないことに気づく。そういえば、千葉ってもっと都会だと思っていた。地方出身の私からすると、関東全部が都会のような気がしていたが。若かりしマスターも、私のような現代の若者と同じように、東京への憧れがあったのだろうか。結果それは東京都心を通り越して「西」八王子になったわけだけれど。
 


vol.3へつづく

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