【シリーズ連載】 監禁少年 #3-3
___至上の幸福とかけまして開封済の牛乳と説きます。その心は?
彼の手からマグカップが滑り落ちる。
床に倒れこんで動かない彼に駆け寄る。
異常なまでの心拍数。
うっすらと開いたままの瞼はぴくりとも動かない。
彼の中でシステムエラーが起きている、
とすぐに気付いた。
同時に名前も知らない教授の怒声が反芻する。
彼は処分に値する失敗作だ、と。
まっさらなスウェットの隙間から電極が覗く。ちかちかと点滅する光が容赦無い現実を突きつけてくる。
機械に制御された肉体をベッドに引きずり横たえる。
実際の生身の人間に施したことはないけれど試す他はないと、堆くひしめいている実験資材を手に取る。
手癖の一つもない手順をかさねて、
電極を震わせて信号を送る。
放射する君の息吹。
幾重のコードが彼を繋ぎ留める。
命脈と、この部屋に。
焦点の合わない虹彩は私を捉えない。
それでも私の知らない君を、電磁波越しに暴いていく。そうしてかき換えていくのだ。
次第に息遣いが整いはじめる。
正確すぎるほど、規則的な反復活動にひそかに脊梁を覚えた。
ひとは私たちを不埒であくどいと呼ぶのだろうか。
それとも不憫でいみじいと謳うのだろうか。
舌に残る僅かな甘みを知る、
無垢なあの頃にはもう戻れない。
写真:No,44
作家:えのもと ゆすら
モデル:山谷 綱基
ロゴデザイン:育