【シリーズ連載】 監禁少年 #3-1
研究棟の廊下には強く西陽がさす。
ふと、幼い頃の記憶が蘇った。5時の鐘がなり、かえりたくないと駄駄を捏ねた自分に、明日も会えるよとなだめる君。
今となっては所在すらしれない彼は今何をしているのだろうか。今もどこかで私のことを覚えているのだろうか?
所詮思い出は思い出だ、とため息交じりに俯く横目に人影が吹っ飛んできた。
…人?
思わず見覚えのある顔貌を凝視した。
間違えようがない、恐ろしく均整に配置された相貌、左頬の黒子、すっかり大人の躰を得た彼は、あの頃と変わらぬかんばせで床に転がっている。
物陰に身を寄せ様子を伺うと、さらに廊下に怒声が響く。
「こいつは失敗作だ、処分しなくては」
なぜ彼がここに?
混乱とは裏腹に、ロボティクスを専攻するこの研究棟と、彼の額に埋め込まれた機械、電磁波で変色している髪色がいやでも確信に結びつかせた。
とにかく今言えることは、行方知れずになっていた彼はアンドロイドになっていて、数日以内には廃棄されてしまうということ。
そこからの行動は早かった。
下手したら捕まるかも知れない、それでも。
運命の歯車が歪む音が聴こえる。
警笛のように高鳴る鼓動、順風満帆な研究人生を全て捨てる覚悟もないまま、ただ彼をもう二度と失いたくないと、あくる朝、彼を連れ去った。
瞳孔の開ききった虚ろな目、しかし機械に冒された体は生命維持を絶えない。誰かに見られたらまずいと、玄関先に佇む彼の背中をぐいぐいと押しこむ。
失敗作は廃棄される。
廃棄された実験体は”解体”される。阻止の一心で連れ去ってきたものの幸先何も考えがない。
落ち着きなく狼狽する私に、ふと彼が口を開いた。
「ねぇ、俺牛乳のみたい」
作家:えのもと ゆすら
モデル:山谷鋼基
ロゴデザイン:育
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