【シリーズ連載】 監禁少年 #3-4
おだやかに澄む白日を分厚いセメント壁が遮断して、篭ったモーター音が窓の向こうの百舌鳥の高鳴きを掻き消している。
天井の一点にどろりと視線を据える彼に手を伸ばす。
そっと触れてもデイベッドに体を預けたまま微動だにしない。
糸の切れた傀儡のように、追憶のなかの彼の心肝も切れてしまったみたいに。
品良く落とし込まれた口もとからふっくらとした福耳にむかって撫ぜてゆく。すべらせた指先がこめかみにはめこまれた電磁波パッチをかすめる。
少しの迷いのあと、
温かさをうしなった粘膜を覆いだ。
彼はここでしか生きていけないし、彼を生かしてあげられるのは私だけ。
日課のメンテナンスが終わり、
漂白されたスウェットを被せる。
私の技術力では彼のなかの性能を保つことが出来ないので、生命維持のコードを外すことはできない。
彼を攫ったあの日以来、
プツンと彼が言葉を発することはなくなった。
あくるひも無表情のまま壁にもたれ、偶に空虚な瞳を網硝子の隙間にくべらせては曇天の先をのぞいているかのような様子を窺わせる。
季節の流れも、
彼の心情も、
よく判らなくなってしまった。
それでも、私は彼を手放すこともできずに、
逃げ場のない明日を繰り返すのだろう。
淡く確かな誓いの言葉をもう信する。
冒涜の罪禍を、留める術を教えて。
北向きの窓からは夕陽も、朝日も、
振り注がない。
写真:No,44
作家:えのもと ゆすら
モデル:山谷 綱基
ロゴデザイン:育