【シリーズ連載】 監禁少年 #5-3
哺時にかかって稽古場が薄暗く陰る。揚げられた花は決まり通りに挿さったままどこか悲しげに床の間の隅へ追い遣られ鎮座している。
不甲斐も遣る瀬もない自律が衝動に掻き立てられ、生けた花々を花器から引き抜いた。剣山から開放された花を並べる。
本当にわたしがつくりたい作品。
在るが儘にさき誇れる姿をみてほしい。
ばらばらの花を月桂樹の枝に結いつける。
祈りを紡ぐように夢中になって編んだ花は冠を模した。
真の強さと純潔な愛。
輪をえがいて湾曲した寒菊と撫子の編まれた花冠は恋い焦がれた理想にふさわしい花言葉を持ち、頂かれることを待ち望むかのように鮮やかに組み合っている。
輪っか状に連なりあえかな花々越しに高欄の向こうを伺う。霜の降りた街と乾いた曇り空に昨年の失態を回顧した。
それは新春慣行の花競べであった。
他流派の門下生を討ち、次期後継者として外部周知をするのに絶好喫緊な行事であった。
芸事の目が肥えた投資者や華道の名だたる先代が集まる花合せの機会、絶対に失敗を冒してはならない肝心な大会中に、わたしは重責に耐えきれずに意識を失った。
当然その大会は棄権となり、家元の大人には責められ次はないと忠告された。その頃からは毎日を稽古漬けにされ段々と姉とも疎遠になっていったことを思い返した。
同じ大会が来月に迫っている。
袂を掲げ花冠をかぶる寸前で、やはりこの愛らしい作品は姉の方がよく似合うだろう、前回と同じ過ちを冒さないためにも、”男らしく”在らなければならないわたしには相応わしくない、と自らを言い包めて天袋に手をかける。
誰にも見つからないように。あわよくば、私の欲望すらも。
続く
写真:No,44
作家:えのもと ゆすら
モデル:うちな
ロゴデザイン:育