【シリーズ連載】 監禁少年 #5-2
長男坊である私は幼い頃から襲名に向けて苛烈なまでに華道の技術を叩き込まれ、それ以外の全ては選択の余地すら与えられなかった。
躾の中で、
男なのだからなよなよとした趣向はなくせ、
男らしく生きろと日頃抑圧された。
生花はあくまでも
「一族の権威の象徴」
の用途だと言いつけられた。
対照的に放任に育った姉は、華美な格好を着こみ心ゆくまであで姿を纏って悠々自適に過ごしている。
自由な姉と不自由な私。
華道に生まれ生きゆく事に後悔はないが、
在りたい姿のままに飄々と生きられる姉を
少しだけ羨み、心底から憧れていた。
自由な姉の様に追い焦がれるうちに物心つく頃には所謂少女趣味と呼ばれるような物品に惹かれ、またそれらを身につけてみたい欲望があった。
なにを美しいと感じようとそこに性差や地位は関係がない筈だ。
どうして男に生まれたばかりに
可憐な存在を慈しんではならないのか。
どうして男だからと愛いめかしを
諦めなければならないのか。
だからといって親族からの同調圧に反発し荒波を立てるほどの度胸も気概もなく、時々姉を想起しては、自らの非力さに嘆きと憤慨を抱え悄然と日々稽古に向かう。
明り障子に囲まれ粛然とした稽古場に、
花鋏が茎をたつ音がぱつんとなる。
生花特有の青いかおりが鼻をかすめる。
幹の葉を取り除いてから
やさしく主枝を矯げ、生け込む。
決まりきった作法、賞を得るための手技。
自由に生けようともがいたはずが形を成したのは手癖の垢に塗り固められたいつもの作品で。
純然に花の美しさを突きつめ、
心ゆくまでいけばなを楽しみたい。
しかし今の私に求められているのは
競合者をたおす為だけの、
心を殺した技術品としての立花。
それぞれの花のよさも活かしきれず覇気もないこの作品は、主体性の乖離したいまの私の無力さを映すようで少しだけ後ろめたさを感じた。
続
写真:No,44
作家:えのもと ゆすら
モデル:うちな
ロゴデザイン:育
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