コロナカ・アイドル・ミュージック──いぎなり東北産、NEO JAPONISM、8bitBRAIN、翡翠キセキ…時代を映したアイドルソングたち
新型コロナウイルス感染症の流行が始まってはや3年。
アイドル業界においてもその影響は大きかった。
長期にわたるライブ活動の自粛に始まり、配信ライブや配信併用ライブの普及、ONLYFIVEなどの在宅リモートコンテンツの隆盛、声出し規制下におけるフリコピして楽しい楽曲やパフォーマンス重視のグループの台頭など様々な変化を遂げた後、少しずつ声出し可のイベントや規制完全解除のイベントが戻り始めているのが2022年12月の現在地点である。
本稿では、コロナ禍に活動するライブアイドルグループたちの楽曲から、特にコロナ禍そのものをテーマとした曲や、コロナにより変化した世界の中で生き抜いていくことを歌った曲をまとめて紹介する。
感染症のある生活に社会が少しづつ慣れ、元通りとは行かないまでも一つの大きな区切りがつけられようとしている今、楽曲を通して、ライブアイドルという存在がコロナ禍とどう向き合ってきたかを見通してみたい。
*本記事は地下アイドルAdvent Calendar 2022 12月16日の投稿記事として執筆したものである。
『うぢらとおめだづ』/いぎなり東北産
(2021年5月19日MV公開)
タイトルは東北方言で「うちらとおまえら(私たちとあなたたち)」の意味。
「これは妄想だから許してね」と前置きした上でコロナ禍ではできないこと(満員電車、モッシュ、マスクを外す、宴会、海外旅行など)への願望を声高らかに列挙しながら駆け抜けるパワフルソング。
「心は死んだりしないから 心は死んではいないから」と保証してくれるのが心強い。
# 彼女とデートなうに使っていいよ みたいなMVもかわいらしくて良い。
『世界に花を』/GREAT MONKEYS
(2022年4月3日初披露)
「世界が変わっていく 誰のせいでもないなんて不思議な気分さ」という冒頭の詞にハッとさせられる。
自粛生活を意識させる「会えない夜は」というサビのフレーズが印象的で、コロナ禍の会えない期間におけるアイドルとファンとの精神的な繋がりと、表現者側の決意をドラマチックに描く。
『READY TO RIDE』/NEO JAPONISM
(2022年6月12日初披露)
コロナ流行開始直後から自主制作による定期的な配信ライブをいち早くスタートさせ、自粛緩和以降もグループスローガン「闘う」のもとライブアイドルシーンを活気づけてきたNEO JAPONISMによる、ストレートなコロナ禍応援ソング。
「何もかも規制された街 抜け出さないかと君が言った」という導入から始まり、窮屈で味気ない時代の中での葛藤と、そこから抜け出し未知の世界へ飛び出していく決意を歌う。
『Black Sabbath』/8bitBRAIN
(2021年3月24日MV公開)
タイトルは「黒い安息日」の意味で、同名の映画やメタルバンドが存在する。
曲はゲーム音楽のような電子音とシャウトによるいわゆる「ピコリーモ」と呼ばれるジャンルのヘヴィなロック。
序盤は直接的には言及しないながらも「世の中が全部 笑えなくて 暗くなる」などの描写が社会情勢を暗示し、ブリッジパートの「新型の呪いにかけられた 生き抜いたその先を感じてみたいよ」という歌詞で明確にコロナ禍を意識していることが分かる。
「心は生きていますか?諦めてませんか?」と繰り返し問いかける、切実な励ましの歌。
同グループには他にもコロナ禍や感染症を意識した歌詞の楽曲が多く、時に反体制的陰謀論に片足を突っ込んだり、デスボイスで風邪薬の名前を列挙してみたりと破天荒な表現の中に時折ドキッとするようなフレーズが現れるのが魅力的。
『Out of order』や『Under the weather』なども併せて聴いてみてほしい。
『遮塔の東』/ヤなことそっとミュート
(2020年12月23日リリース)
2022年6月に惜しまれながらも活動を終了したロック系ライブアイドルの雄、ヤなことそっとミュートの最終にして最高到達点とも言うべき楽曲。ラストライブの終幕もこの曲であった。
世界的な危機に瀕して人間のエゴや欲はむしろ分かりやすく表に現れる、ということを多くの人が実感した現代において、あらゆる欲を捨てただ一瞬の光だけを望むストイックな在り方を祈るように歌う。
「時代が変わっても流されないような」という決意表明は、どうしようもなく変わってしまった世界の中で確かな希望の光。
この曲をライブで観た時の言い様の知れない圧倒感、呆然と立ち尽くすしかないあの感覚の片鱗を味わうためにも、ぜひライブ映像で。
『ミライイズマイン』/デビタント
(2021年10月1日MV公開)
明るくポップな曲調とラップでコロナ禍の自身の思いを歌うドキュメンタリ的な楽曲。
時勢の暗さや悩みとは無縁な明るさで、「世界はit's all right!」と元気に肯定してくれるのが嬉しい。
『Forever and Ever』/雨模様のソラリス
(2021年4月4日初披露)
「踊る私」とそれを「見ている君」の認識のすれ違いと、長く止まっていたステージの上の時間が動き出す瞬間を鮮やかに切り取るオルタナティブ・ギターロック。
コロナ禍真っ只中の2021年2月にデビューした同グループ、メンバーにとってもファンにとっても、コロナ以前の「ほんとう」など知る由もない。それでも少しずつ動き出した時間の中で、新しい形の「この先」が紡がれていくのだろう。
「名前と色振りまいて この先はお楽しみに」という表現は、メンバーカラーのあるアイドルグループを推したことのある人には刺さる言語感覚。
まさにそのメンバーカラーが印象的に使われたMVも美しい。
『ハバタキ』/翡翠キセキ
(2021年7月3日初披露)
疾走感のあるトラックにポエトリー・リーディングと爽やかな歌唱が乗り、閉塞感のある世界の中での戸惑いと、「ここではないどこか」へ羽ばたいていく希望を表現する。
「当たり前が当たり前じゃなくなった事が 当たり前になって 何事も無かったように過ぎていくセカイなんて大嫌いだ」という歌詞は今の時代、多くの人が共感しうるものではないだろうか。
終わりに
アイドルソングは、変化する時代の中に生きるアイドル自身と、それを見つめるファンの姿をいつも鮮やかに映し出す。
耐えること、悩むこと、闘うこと、考えること、そして新しい世界へ踏み出すことを、時に明るく楽しく、時に切なく、時に強く激しく表現し教えてくれる。
受け手たる我々ファンも、その表現について時には立ち止まって考えてみることで、今生きている時代や自分自身、そして推しグループについて考えてみる良いきっかけになるのではないだろうか。
今回取り上げた楽曲以外に、コロナ禍をテーマとした良いアイドル楽曲があればぜひコメントやTwitterのリプライ等で教えていただきたいと思う。
もし今後一定数集まれば第2弾記事を書くかもしれない。
また、「コロナ禍」に限らず、特定のテーマでグループ横断的に楽曲を集めてみる試みは有意義だと思う。何か面白いテーマがあったらぜひ提案してほしい。