地域通貨を継続的に運用する2つのポイント
株式会社ナンバーワンソリューションズの佃です。
私たちは「テクノロジーを通して世界平和を実現する」というビジョンをベースに、ブロックチェーン技術を用いたシステム開発及びコンサルティングサービスを提供しています。
前回は地域通貨の利点と、多くの場合に運用継続が難しくなる要因を考察しました。
多額の運営コストがかかり、採算が取れなくなるケース
広告宣伝の不足によって普及しないケース
地域通貨がうまく普及しない理由の共通点として、主に採算が取れない故に運営が難しくなるケースが多く見受けられます。
それを踏まえて今回は、どのようにして地域に根付いた通貨を運営することができるのかを考察していきたいと思います。
私の考えるポイントは大きく2つあります。
コストの削減
経済効果を高める
それぞれ見ていきましょう。
1.コストの削減
支出が収入より多いと採算が合わないため、コスト削減を検討する。これは有限資源の範囲内で事業を営む以上、常に経営者につきまとう命題です。
地域通貨の場合、加盟店を増やすための広告宣伝費を削ると、通貨を利用できる店舗が減り、利用者にとっても利便性が落ちてしまいます。そのため、削減した方が良いのは「管理・運営費」です。
地域通貨の運用には、紙媒体とデジタルの2パターンがあります。紙媒体にて管理を行う場合は、印刷費、真贋の判定、偽造防止の為の対策等、管理に必要なことがかなり多くなります。
一方で、高知工科大学の前野智史学士によると、地域商品券をデジタル化した場合、 最大 57%の事務コストの削減が期待できるという試算が出ています。これは印刷製本費や商品券の取り扱いによる手数料の削減効果が大きいとみられます。*¹
デジタルで導入を進めるにあたっては、サーバ維持費とセキュリティ対策費用が継続的にかかってきます。こちらはシステムを導入するプロバイダーにより変動しますが、運用管理の効率化が図れるため、余分なコストを削減することが可能です。
以上、管理や運用工数の面から、デジタルでの導入の方が効果的であると考えます。
2.経済効果を高める
もう一つは、事業自体の経済効果を上げることです。
疑似的なお金の飽和状態を起こすことにより消費を促進し、地域通貨プロジェクトをより生産的な事業に成長させることで、持続可能な地域通貨の運営を目指します。
今回は私が調査した中でも、より効果が見込めると思われる二つの手法をご紹介します。
「地域内で貨幣の流通量を増やす」
住民に対し地域内でのみ利用可能な通貨を配る、もしくは法定通貨を地域通貨に交換する際のプレミアを付与することで、疑似的に住民の所得を増やすという事です。
お金の飽和により貨幣の流動性が高まれば、経済的に地域が豊かになり、その地域をより魅力的な地域にすることができます。
地域が魅力的になれば、居住者の定着率が上がり、移住者が増え、結果的に税収も増えることが見込まれます。
ただしこの手法を取る為には、配る通貨が購買力を持つに足る信用を与える必要があります。
信用を与える手段として、配ったコインにより自治体税の納付を可能にする、または自治体がある程度循環した通貨を一定のレートで日本円に換金する等、自治体による負担が欠かせません。「自由貨幣理論に基づいた通貨の発行」
他に流動性を強化する案として、自由貨幣理論を用いた通貨の発行が挙げられます。*²
自由貨幣理論は、ドイツの経済学者シルヴィオ・ゲゼルによって発案されました。
流通する通貨に期限を設けて一定期間毎に残高又は貨幣の価値を数パーセントずつ減らし、期限内に消費されない場合はその通貨を失効させるという制限を設けることで消費を促します。
これは貨幣供給量を増やすのではなく地域通貨の価値を減価させることによって、貨幣の流通速度を上げることをねらいとしています。
放っておくと減価するため、貯蓄や投機よりも消費が優先されやすくなるのです。
この自由貨幣理論を取り入れた地域通貨「キームガウアー」は2002年にドイツの村で導入され、今もなお継続して運用されています。結果として地域経済が活性化し、地元の農産物が多く使われるようになり、地元のNPOの活動も活発になりました。
法定通貨が外から流入するのを待つのではなく、地元の通貨で地元のモノが使われるため、活発な市場の形成が可能になっています。
今回は、地域通貨の持続性を強化するための大筋を2点考察していきました。
次回の記事では、経済効果を高める一例として触れた「自由貨幣理論」について、さらに掘り下げていきます。
参考文献:
*¹ 智史,M.(2019)地域通貨の現状と課題についての考察
https://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/pdf/2019/03/15/a1200517.pdf
*² 天祐, T. (2019, May 28). ゲゼルマネーとは? ゲゼルマネー経済学入門. https://gesell-money.hatenablog.com/entry/2019/05/28/2019-0528_what-is-gesell-money