その背中を追い続けてchapter4
その日、僕はコンパクトエフェクターを買うために銀座の山野楽器にいた。
なぜか。
僕が17歳のころはインターネットがようやく普及した始めた頃なので検索して手に入る情報には限界があった。
だから情報収集というのは人から聞くか雑誌やテレビで手に入れることが多かった。
つまり半引きこもりで人とのつながりが希薄になっていた僕が入手できる情報はとても少なくて横浜に楽器屋があることすら知らなかった。
僕が手に入れたギターはフェンダージャパンのストラトだったのでフェンダーといえば山野楽器。山野楽器といえば銀座である。
だから僕は一万円札を握りしめて銀座に降り立ったというわけだ。
すべては歪んだ音のために。
コンパクトエフェクターは様々なメーカーから出ているので値段も色々あるけれど僕は王道のBOSSを選ぶことにしていた。
理由は簡単。
布袋さんの足元にBOSS製のエフェクターが組み込まれていたから。
レフティなのでG柄のギターを持つことはできないからエフェクターなどの機材くらいは近づきたかったという涙ぐましい理由だった。
ギターフロアにたどり着いた僕はガラスケースに並ぶエフェクターをじっくりと眺めながら胸が高鳴るのを感じていた。
買うなら王道のディストーションかオーバードライブにしようと思っていたのだけど1万円ではどっちか一つしか買えない。
布袋さんはわりとオーバードライブを使った音作りをしていることが多いようなので第一候補ではあるのだけど、
hideにも憧れている僕としてはディストーションも捨てがたい。
うーん…と思案しながらずらっと並んだエフェクターを見ているとハッと目が留まった。
それはディストーションもオーバードライブも両方使えるエフェクターだった。
「これだ!!」
たぶんアルキメデスが「エウレカ!」と叫んだのはこういう心境だったんじゃないだろうか。
僕はすぐに店員さんに声をかけてBOSS製のOD-1を出してもらった。
ついでに専用のアダプターを買うとちょうど1万円だった。
そこからの帰り道、僕は記憶がない。
気持ち的にはマッハ5くらいだったような気がする。
これで布袋さんにまた一歩近づけた。
盛大な勘違い。若さですね。
帰宅してすぐにギターをセッティングする。
シールドをつなぎアンプをオンにする。
コンパクトエフェクターはフットスイッチなので右足をくっと踏み込んだ。
ギャーン!
これだーーー!ついにギャーンと鳴ったぞ!!
ディストーションの尖った歪みもオーバードライブのマイルドな歪みもようやく手に入れた。
これで僕は布袋さんに100歩くらい近づけた!
ずっとペケペケだった音が一気に太くなりなんだか本物の音に聞こえた。
ようやく僕は描いていた音が出せるようになったので技術的には何も変わっていないのに一気に上達したような気持ちになっていた。
布袋さんの隣でギターを弾く。
布袋さんがパフォーマンスするのをサポートする。
その夢がようやく始まろうとしていた。
そして僕は新しい場所へ一歩踏み出すことにした。
つづく