忍者、事務職はじめました Vol.9
「あのさぁ、ウカミさぁ、何かさぁ、フォーゲットしてない?」
「え?どうしたんですか、カマイさん」
「そうね、カマイさんの会話から始まるのって、珍しいわよね」
「いや、オンミツさん、そういうことじゃなくて」
「カマイさん、何を忘れているか、わからないのですか?」
「そうだね、ミスターカゲ。わからないから、フォーゲットなんだよね」
チグハグな会話にも、ようやく慣れてきました。
というか、まぁ、チグハグなのは私だけですが。
いずれにしても、ウカミさんが私のことをSNSに投稿しなくなってから、約1ヶ月経過しました。
「みなさん、おはようございます」
「あ、社長さん、おはようございます」
「ああ、ハヤクジさん、今日の夜は暇ですか?」
「あ、はい、独りで暇な時間を過ごす予定でした」
「良かった!みんなは?」
「僕も、どうせ家に帰ってSNSをやるだけです」
「私も、生春巻きの仕込みをする以外には、特に予定はないかなぁ」
「オンダジョシ、それはロンリーだね」
「いいのよ、私のことは!カマイさんはどうなのよ?」
「まぁ、ミーはあれだよ、愛社精神が強いから、いつでもフリータイムでアローンだよ」
「いや、カマイさん、うちの会社を愛してくれるのは嬉しいんですが、それはちょっと違うような気がしますね」
「ですよね、社長。ほんと、カマイさんは調子がいいんですから」
「いやいや、ウカミよ。これが営業のテクニックでもあるんだよ」
「それはそうと、みなさん、今日は、ハヤクジさんの歓迎会をしませんか?」
3ヶ月もの間、歓迎会というイベントについて考えたことはありませんでした。
私は、歓迎会というものを知らなかったからです。
カマイさんが忘れていると言っていたのは、歓迎会のことでした。
あれから、ウェルカムパーティ、ウェルカムパーティとうるさいからです。
「カマイさんが歓迎会みたいな飲み会イベントを忘れるなんて、珍しいわね」
「そうですよね。もう、すっかり終わったと思ってましたよ、僕は」
「ハヤクジさん、今日はハヤクジさんの歓迎会なので、何が食べたいですか?」
「えーと、私が決めなくてはいけないのでしょうか?」
「そうだよ、ミスターカゲ。今日はミスターカゲがメインゲストなんだよ」
私が悪いわけではないのです。
歓迎会というシステムが悪いのです。
何が食べたいかを聞かれたので、こう答えただけなのです。
「兵糧丸ですかねぇ」
かくして一行は、兵糧丸を探しに忍者の里へ・・・行くことはありませんでした。
「いや、近所の居酒屋でいいんじゃないでしょうか?」
ウカミさんの一言で、会社から歩いて22mのところにある居酒屋へ行くこととなりました。
あとでわかったことですが、居酒屋C-B(シーのビー)という店名でした。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?