名梨ナイについて
名梨ナイには記憶がない。
ついでになんだけど、本当は名前もなかったりする。
名梨ナイ、という名前は勘の良い人ならわかるように「名無し、無い」という意味なのだ。
この名前を付けてくれたのは今お世話になっているキャラバンの団長さん。
「名前がないのも貴方だね」と言って提案してくれて、ナイはそれが気に入った。
キャラバンは旅をしながら、仲間を増やしたり減らしたりしながら、物を遠くから遠くに運ぶ仕事をしている。
団長さんはナイが、本当に広い砂の上、砂漠、でよくわからず歩いていた時に「こっちにおいで」と声をかけてくれた。
それで「じゃあキャラバンにおいでよ」と言ってくれた。今泊まっている宿屋を紹介してくれたのも団長さんだ(わたしには、お家もないのだ)
あの時声をかけられなければ、キャラバンにいれてもらえなければ、わたしは名梨ナイにも生らずに「野垂れ死に」してたんだと思う。
広い砂の上を砂漠と言えずに、星座を「星」と言って、きっと「野垂れ死に」という言葉も知らないまま消えてしまったに違いない。
なので「名梨ナイ」はとても感謝している。
景色の一つ一つを指さして教えてくれたキャラバンの人たちに、名前を付けてくれた団長さんに。
ナイは思うんだが、世界には名前で溢れていて、名前があるから、目に見えるのだ。
名前がなければ見えないのだ。
だからみんなに、わたしに、名前が付いているのがとても嬉しい。
今日はここまで。