ポンペイ展
この告知を見た時、「え…火◯じゃん…」と爆速で観に行きたいと決意したのが昨年のこと。火◯の文字書きをしている自分にとってはあまりにも妄想の糧になる嬉しいギフトだった。そこで今回は長文をしたためたいと思い、小説以外のかたちでこのような文章(コラム、いや感想文)を書いてみた。
行くと決意してから数日後、改めてもう一度その告知を見直してみる。
「…ポンペイ…」
ポンペイ──正直、知らん。もちろん、聞いたことはあるし、ふわっふわな情報だけは知っている。イタリア、火山、爆発、灰、埋もれる…等。けれど、興味があるか無いかと聞かれ、「興味がある!」と言えば嘘になる。自分にとってはあくまでそんな感じのテーマだった。
美術館は行くし、絵画はよく目にする。こう見えて美術部(まがいもの)だった自分は鑑賞が好きだった。東京国立博物館も始めて行く場所では無い。各都道府県を訪れたら必ず美術館や博物館には足を運んでいるためそれなりに回数も行っている。まぁ、そんな感じでとにかく美術的なものには興味があるのだ。
でもポンペイは知らん。そんな、…そんな幅広知識なんて持ち合わせておらん…。それでも絵画はあるだろうし。全く分からなくても楽しめるかもしれない。…うん。そうだな。じゃあ、ちょっくらポンペイ学んでみるか。自分はポンペイ展を観に行く前に予習をすることにした。
以下が予習の一部である。
(字がクソみたいに汚いのは目を瞑っていただきたい。)ちなみに自分は勉強はするが、できない。地頭が良くないのだ。おまけにアホと不器用がついているため、例えば雨の日に傘をさしていれば、傘をさしていることを忘れてしまい、傘をさしたままバスに乗ろうとしたことがある。もちろん入れるわけがない。引っかかるからだ。幸いにも後ろに人はいなかったが事件である。決してわざとではない。……そんな感じで、生き辛い人生を送っている。
そんなヤバイ奴でも、学ぼうとする意欲を掻き立ててくれる。「好き」は偉大だ。自分は火◯から、きっと自分を掻き立てるには一番必要であろう情熱を頂いたのだ。
ポンペイ+火◯ ──
それは実質火黒の展覧会。
そう、火黒作品だ。
馬鹿は単純だった。こうして自分は予備知識を得、さっそく夢の展覧会へと向かった。
ここからはポンペイ展の実質的な感想になり、大きなネタバレを含んでいる。知りたくない人は読むのを止めて頂きたい。
結構から言うと、面白すぎた。
まず、改めて今回この展覧会に参加しようと思った一番の理由である「音声ガイド」。自分はかつて、このサービスを利用したことが無かった。理由としては単純で、作品は自らのペースで、無の感情で眺めたいという希望がある。また、耳に集中しながら目にも集中する自信がなかったこともあり手を出したことが無かったのだ。
今回はもちろん利用してみた。火◯だからである。
いざ館内へと足を運び、緊張しながら音声ガイドを手に入れた。初めてだったので軽く使い方を教えてもらい、いざ耳に装置。そこからすぐに物語が始まってゆき、自分は一瞬にして南イタリアの世界へと惹き込まれた。
まずは「モノローグ」。小野U(以下Uとする)の語りから入る。久しぶりにポンペイを訪れたマルクス(CV.小野K(以下Kとする))は、灰に埋もれたポンペイの街に愕然とし佇んでいた。そこで偶然にも再開したのが旧友リベリウス(CV.U)だった。
全体的な流れは、リベリウスがマルクスにポンペイの街を案内するような運びになっている。酒を買うならこっちが良いと快活にマルクスを誘うリベリウスには思わず笑顔になった。リベリウスは酒飲みだという印象である。(ちなみにマルクスは酒が強くないと言っていた。)
堅苦しい物語だと思っていたら、そうではない。ポンペイの日常や娯楽の話を聞くと、我々の現代の日常となんら変わりがない風景が見えてきた。例えば、ポンペイにはパン屋だってあったのだ。三十件ほどあったという。しかもパンは一種類だけではない。白パンや油で揚げたパン、ちぎりやすくなったパンなど、現代で言う揚げパンやちぎりパンのような凝ったパンもあったのだ。
個人的にとても面白いと思ったことが二つある。一つ目は、当時の富裕層は家の玄関の床に猛犬の画(タイル)を敷いていたことだった。これは「猛犬注意」と称され、番犬のような役割で家を守っていたらしい。マルクスがタイルの猛犬に驚き声を上げた。リベリウスが優しく説明してくれたのが印象的だった。(このタイルは小さな石やガラスの小片から作られたモザイクアートである。当時はこれが床装飾のアクセントとなっており、こうした家の装飾や家具がステータスを表す役割をしていたらしい。よって裕福な家にはよくモザイク画が見られたようだ)。
二つ目は、「炭化したパン」や「炭化した干しブドウ」という展示物だ。見た目はただのダークマターである。つまり、炭化されて真っ黒になってしまったパンや干しブドウだった。炭化されたパンは愛おしさすら感じる。ちなみにグッズコーナーには「炭化したパン」や「炭化したポムポ◯プリン」のシュールなぬいぐるみが売っていたので気にいった人は購入もできる。
ちなみに自分はこのようなステッカーと赤いポストカードを購入した。ポストカードは「猛犬注意」の犬である。炭化したぬいぐるみ類は欲しかったものの購入までには至らなかった。
また、物語が進むにつれて当時の邸宅や富豪の家の中庭などを会場の一角使って再現されたコーナーもあった。まるでマルクスとリベリウスと「そこに居る」かのような非現実的な世界を味わうことができる。大迫力の巨大スクリーンもあったため、真正面に立てばポンペイという都市を俯瞰で見ているような気持ちにさせられた。
目で見て、耳で聴いて、邸宅に足を踏み入れた気持ちを疑似体験できる。なかなかに感じるものが多く、身体にも心にも栄養になりそうだ。
UとK、二人の語りは真剣なものから柔らかいものまで、耳心地よく、わかりすく、これが世界史の授業だったら最高なのにと思わざるを得ないほどにずっと聴いていたかった。
またちょっとしたクイズが二問あり、一問目がU、二問目がKのナレーションとなっている。難易度はわからないけれど、自分は一問目を外し、二問目を正解した。
当初は火◯だ火◯ムシャア…と情緒もへったくりもない欲望剥き出しのままに訪れたものの、気づいたら自分の頭にはマルクスとリベリウスが存在していた。ポンペイの切ない物語と、二人が再び出会えた奇跡、ポンペイの街並みを通してかつて活気があった街で過ごした楽しい時間を思い返す。忘れられた街、いや、決して忘れることのない街へとなったポンペイ。感動すら味わえるリアルな歴史だった。
ラスト、エンドロールが流れると締めの言葉と二人の挨拶が始まる。「「ありがとうございましたっ」」の二重奏には鳥肌が立った。
会場を出るのは名残惜しく、出る前にもう一度モノローグを流した。全く使用してこなかった音声ガイド。返却箱に返すのが惜しかった。
館内を出ると、フッと現実に戻ってきた。ちょっとした旅をしてきた気分だった。
そして、多くの人があのKとUの声を聴いている、いたのかと思うと、かなり不思議な気持ちになった。またあの世界に戻りたいと思った。
こうして自分のポンペイの旅は終わった。興奮冷めやらぬままに今このnoteを書いている。この先、KとU、この二人が共演するようなナレーションはもう無いかもしれないけれど、またいつか出会いたい。
初めての音声ガイド、そして、あまり知らなかったポンペイの歴史。
灰に埋もれた事実よりも、灰に埋もれる前の賑やかな街に想いを馳せる自分が居る。学びを得て、少しだけ成長したのかもしれない。
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なお、現在コロナ変異により感染者が爆発的に増加している状況だ。幸いにもまだ緊急事態宣言は出ていないため、感染対策をしながらも通常通りに入館することができた。しかし、人は多い印象だった(自分が訪れたのが、開催二日目の土曜日、しかも昼過ぎということもあるだろう)。人混みを避けたい場合は平日を狙うのが良いかもしれない。
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また今回、一月ということもあり正月企画の「博物館に初もうで」が開催されていた。今年のテーマはもちろん「寅」。大我好き、いやタイガー好きとしては、ついでに行くにはあまりに好都合な企画だった。
ポンペイ展の隣の館で開催されており、特別室1.2が虎の展示物で飾られている。屏風や巻物の虎など、さまざまな虎を見ることができたため、虎が好きな人にはおすすめしたい企画だ。