たまご焼き
踏んだり蹴ったりな日だった。
誰も悪くない。もちろん私も悪くない。
大人の事情?まぁそんなとこ。
でも、寂しい。そんな夜。
いつもの店で目の前に出された、卵焼き。
ひとくち食べると、じゅわーーと広がるだしの味。
茶碗蒸しの味がした。
複雑なだしの味とふわふわの卵。
卵焼きとは思えないほどの弾力がお肉みたいで食べ応えがあって。
お腹が空いていたことも忘れていたけれど、
もうとっくにお腹は空いていたし、
心はたぶん限界だったのかもしれない。
染み渡る出汁に少しずつ溶かされていく。
喫茶店のおばあちゃんに言われた
『自分のことを大事にしなさい』
という言葉が頭をよぎった。
「今日は帰ります。」
そう店主に告げて席を立つ。
暗闇に零れそうな涙は、流れ星になることはなく
手に届かない星。
家に帰ったらこのまま寝てしまおうか。