進化する「遅攻」。湘南ベルマーレ

今シーズン開幕前、私の中で、降格に最も近いチームは湘南ベルマーレだと、思っていた。 

多くの主力が抜けてく中、目立った補強がなく、外国籍の選手の合流も遅れることとなり、ますます選手の入れ替えが激しくなるばかり。それに加えて、昨シーズン、浮嶋監督が掲げていた、「遅攻」には、戦力的に見ても、個人的にかなり懐疑的な想いをもったのも理由である。

元々、湘南ベルマーレのスタイルは、曺さんが作り上げてきた前への推進力だった。曺さん自身も、ボールを持ち、ゲームを優位に進めることも終盤は目指していた印象だったが、基本のハードワークや、速攻の武器を自ら外すことはしなかった。というよりも、できなかったのかもしれない。今ある選手層で、最大限できることは何か。それを求めたが故の答えだったのだろう。

しかし、昨シーズン、降格のないイレギュラーなシーズンで、大きな挑戦を見せたのは、湘南ベルマーレだけではなかった。いくつかのチームが新たな試みを持ち、変化をもたらそうとしていた。清水エスパルスや横浜FCなど、湘南ベルマーレと同じような思惑を持ったチームが、新たな挑戦を進める中で、結果にも、内容にもうまく表せなかった印象だったのは湘南ベルマーレ。ボール保持に重き置き、元あった前からの推進力や、怖さが全くなくなった。山根や杉岡のいないサイドや、前線の得点力のなさ、来シーズンに期待できるものを探すのも、なかなか難しい一年間を過ごした印象だった2020シーズン。

それでも掲げ続けた「遅攻」。2021シーズンも開幕から、勝てない日が続いた。僅差で負けてしまう、点が取れない。湘南ベルマーレにとっては、苦しいシーズンが始まった。そんな中でも、大きくチームを動かし始めた選手が出てきた。GKの谷だった。ガンバからのレンタルの選手で、今シーズンはすっかりスタメンとして主力に。ビルドアップも、キックの質も、全てが良くっている。何よりも、チームを勝たせられるセービングが多い。やはり、こういううまくいかないチームはキーパーが変えることができる。それに応えるように、石原広教や田中、池田など、若手が自信を表面に出し、ベテランの山田や岡本がここぞとばかりにハードワークをした。大きく変わったのは、ボールの球離れがとにかく早い。テンポを重視しているなかで、元あった戦えるチームに段々となってきた。さらに、ここにきて、ウェリントンが入り、新たな戦い方を持てるようになったことも大きい。

進む「遅攻」に、取り戻した守備の強さ、ハードワークの質。今の湘南ベルマーレは間違いなく曺さんの残したスタイルが根底にある。すべての選手が成長し、ベテランもスタイルを変えず表現していく。疲労もたまる中で、終盤にかけて、自信を失わず、どうか今シーズンは良いものだったと終わりたい。

浮嶋監督と湘南ベルマーレの成長はまだまだここから。

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