廃線跡を歩こう(近鉄八王子線)
はじめに
日永駅と西日野駅とを結ぶ四日市あすなろう鉄道八王子線。
総延長わずか1.3kmのミニ路線ですが、かつては路線名が示すとおり西日野からさらに伊勢八王子まで線路が伸びていました。
八王子線は四郷村(現在の四日市市四郷地区)で生産された生糸や酒などを運搬するため、1912年8月に三重軌道の手によってまず八王子村(後の伊勢八王子)から日永までの区間が開業し、やがて諏訪、省線四日市(現JR四日市)方面へも延伸されていきました。その後、三重軌道から三重鉄道、三重交通、三重電気鉄道を経て1965年4月に近鉄の八王子線となりました。
路線の大部分が天白川の堤防上に敷かれていたため、川の増水は常に悩みの種でしたが、1974年7月25日の集中豪雨でその天白川が決壊、八王子線は甚大な被害を受け、西日野~伊勢八王子間は復旧されることなく1976年4月に廃止されました。
廃線跡を歩く
西日野~室山
スタートは現在の終点、西日野駅。
水害からの復旧に際して、西日野駅は東へ100mほど移設されており、旧西日野駅は天白川の堤防上にありました。
線路跡は河川改修に伴う道路拡幅により、完全に道路の一部となっており、鉄道だった頃の痕跡はほとんど残っていません。
旧西日野駅跡から300mほど進んだところあったのが清水橋駅。戦時中に休止となっていたようなので詳しいことはよくわかりません。
※今回の記事で登場する駅は『鉄道停車場一覧 昭和12年10月1日現在』に登場する駅のみ触れています。それ以前に廃止なった駅(四郷役場前、伊藤製糸部前)のことは何もわからないので触れません、あしからず。
室山~伊勢八王子
清水橋駅跡から500mほど進むと室山駅、同名のバス停があるあたりが駅跡です。
ここにも特筆すべきような痕跡は残っていませんが、室山駅跡から北に300mほど離れた場所に位置する神楽酒造さんには室山駅の駅名標が保存されています。
本当によく残していただいた…!というレベルに貴重な存在だと私は思っているので、もし八王子線跡を訪れる機会があればこちらもお忘れなく…。
室山駅跡から伊勢八王子駅跡へ歩を進めていくと、進行方向右側に旧亀山製糸室山工場の建物が見えてきます。
1903年に伊藤製糸場第二工場として落成した建物で、はじめにでも触れたように、この工場で製造された生糸などを運ぶために開業したのが八王子線でした。
そんな歴史ある建物ですが、残念ながらすっかり朽ち果ててしまっており、もはや崩壊寸前といった状態ですが…。
室山駅からさらに西へ、五反田橋西詰の交差点を過ぎると線路跡は堤防道路を横切り右へ分かれていきます。
その先に終点の伊勢八王子駅がありました。
もっとも、駅の跡地は現在私有地となっており、中へ入ることはできませんが…。
以前は三重交通バスの回転場として利用されており、近鉄の境界杭も残っていたそうですが、果たして今も残っているのでしょうか…?
ところで駅跡手前の地面にご注目いただきたい。
道の両側に四角いコンクリートの物体が埋まっているのがお分かりいただけるだろうか?
状況的に架線柱の基礎部分ではないかと考えているのですが、果たしてその正体やいかに…?
参考文献
『近鉄の廃線を歩く』徳田耕一(2006年)
「近鉄の特殊狭軌線 90年の軌跡」椙山満(『鉄道ピクトリアル』727号)(2003年)
『鉄道停車場一覧 昭和12年10月1日現在』鉄道省(1937年)