さんふらわあこばると乗船記(後)
前編のつづき
レトロな雰囲気漂う船内
明石海峡大橋というイベントも終わったところで、ちょっと船内を探検することにしよう。
就航からまもなく25年、低い天井や狭く急な階段等、さすがに古さを否めない部分も多いが、それが逆にレトロな雰囲気を醸し出しており、そこが「こばると」の魅力のひとつになっている。
船内を見て回っていると気になるものを見つけた。エントランスの一角に掲げられているこちらの海図だ。ただの海図のように見えるが、よく見ると「神戸」「坂手」「松山」と、今は寄港していない港の名前が記されている。
小豆島・坂手港へは多客時の臨時便(阪神-坂手※)として、2011年まで運航されていた。
現在はジャンボフェリーの待合所となっているかつての関西汽船待合所の建物には、今も「さんふらわあ」の太陽マークの痕跡が残っている。
また、松山へは2008年1月の寄港便廃止まで下り便(※1)で、2010年2月から2011年4月まで上り便で寄港していた。
※1 上り便は「こがね」「にしき」。
かつて別府航路が発着していた岸壁は、現在松山小倉フェリーが使用している。こちらの航路も実は元関西汽船、1987年就航した「フェリーくるしま」「フェリーはやとも2」の両大ベテランが、引退する後輩を横目に見ながら、元気に(?)活躍を続けている。
もうひとつ気になるものを見つけた。同じくエントランスの片隅に掲げられていたこちらの基準航路図だ。右下のイラストにご注目、ファンネルマークが関西汽船時代のままになっている。
2011年10月にダイヤモンドフェリーと共にフェリーさんふらわあへ合併し、長い歴史に幕を下ろした関西汽船。あれから12年、今も関西汽船は「こばると」の中でひっそりと生き続けている。
船内を一通り見て回ったところで、しばしのリラックスタイム。お風呂に入ったり、部屋でくつろいだりしているうちに気が付けば時刻は間もなく23時。瀬戸大橋や来島海峡大橋も見たかったところだが、明日も早いのでこのあたりで就寝。さすがデラックスシングル、ベッドの寝心地も段違いである。これはぐっすりと眠れそうだ…。
別府の海に日が昇る
2月4日朝6時過ぎ、おはよう放送で目を覚ました。瀬戸大橋や来島海峡大橋はとっくに通り過ぎ、間もなく別府湾に入ろうかというところであった。日の短い2月ということもあり、外はまだ真っ暗で何も見えない、
身支度を整え、レストランで朝食を済ませたりしているうちに時刻は7時前、ようやく東の空が明るくなってきた。船上からの朝日は何度見ても格別だ。
しかしながら、身支度、朝食、そして日の出と関西九州航路の朝は本当に慌ただしい。往時の下り寄港便はちょうど今頃松山のあたりだったようだ。そんなのんびりとした別府航路にも一度乗船してみたかったなぁ…なんてことを思いながら、別府湾に昇る朝日を眺めていた。
迫る世代交代
ようやく空が明るくなってきたかと思えば、湯煙立ち込める別府の街はもう目の前だ。別府国際観光港には、1月に「あいぼり」に代わって就航した新造船「くれない」用の真新しいターミナルと、「こばると」用のターミナルが並んで建っている。新旧ターミナルが並立する光景も世代交代過渡期の今ならではのものだ。
7時45分、「こばると」は定刻通り別府国際観光港に到着した。エントランスから長い階段を下って下船口へと向かう。この時代にそぐわないバリアフルな感じも個人的な好きなところのひとつだった。
約12時間共に過ごした「こばると」を下船し、少し広すぎる気もする立派なターミナルに降り立った。
1981年に竣工した現行船用のターミナル、当時の別府航路は毎日3便(大型フェリー1便、乗用車フェリー1便、客船1便)運航されており、そんな賑やかな別府航路にふさわしく、このような立派なターミナルビルが建設されたのだろう。
しかし時代の波には逆らえず、1995年2月に3便から2便に減便、そして2008年1月には寄港便が廃止され1便のみとなり、2011年10月には関西汽船も過去のものになってしまった。そんな別府航路と関西汽船の栄枯盛衰を見守ってきた現ターミナルは、「こばると」の引退とともにその役目を終える予定だ。
「くれない」「むらさき」と共に新たなステージへと突入する別府航路。新しく生まれ変わった別府航路はこれから我々にどんな姿を見せてくれるのだろうか。そんなことを思いながら、引退迫る「こばると」とターミナルビルに別れを告げ、別府を後にした。
おわりに
2023年4月14日、「こばると」は無事に最後の航海を終え現役を退いた。引退後しばし呉の神田造船に係船されていたが、ほどなくして「あいぼり」の待つインドネシアへ向けて旅立っていった。今後はインドネシアで再び「あいぼり」とタッグを組んで第二の人生を送るようである。
小ぶりながらも整った美しい船体、どこかレトロで高級感のある船内、そしてデラックスシングルに代表される充実した設備…、どこをとっても魅力的で本当に大好きな船だった。
「あいぼり」「こばると」に出会ったのは2020年のこと。3年という短い時間ではあったが、たくさんの思い出を与えてくれた。もっと早く出会いたかったという気持ちがないと言えば嘘になるが、この3年間、彼女たちと同じ時を過ごすことができたのはとても幸せなことだったと思っている。
長い間お疲れさまでした、どうかインドネシアでもお元気で…!
参考文献・サイト
・世界の艦船別冊(2008年)『日本のカーフェリー その揺籃から今日まで』海人社
・カジュアルクルーズさんふらわあ(2019年)「栄光の別府航路 #3」
・関西汽船パンフレット、時刻表各号
・関西汽船公式ホームページ(Webアーカイブ)