コールドスリープで目覚められない僕たち
記憶の中の夏は涼しいが、実際に体験する夏は暴力的な程に暑かった。
引き籠っていた去年とは違って今年の自分はちゃんと外に出ている。だから、首筋を伝う汗が肌を痒くすることや、日傘をさしたところでその中だけがマイナス5000度にはならないことを思い出した。
地球側が人間を滅ぼそうとしているほどの暑さだ。こんな気温になっても一応は死なずに生きていける人間のしぶとさには自分でも呆れてしまう。エアコンだか氷だかスポーツドリンクだかでようやく生き延びられる気候が常になれば、人類の滅亡はすぐそこだろうか。いや、どうせ滅亡が近付いたら近付いたでコールドスリープとかするのだ。我々は。
何万年ものコールドスリープから目覚めたとき、自分は何を思うだろうか。いつものようにあと5分だけとか言ってもう一度眠りにつき、また800年くらい寝てしまうのかもしれない。
眠って眠って、ようやく起きたら知っている人間も動物も世界もいなくなっていて、そこでようやく焦り始めるのかもしれない。「こんなことならあの時に起きていれば!」と頭を抱えて、近くにいた同じように頭を抱えた人のところに行って、初めましての挨拶とようやく熱を戻してきたお互いの手で握手ができたらいいと思う。
それが多分、1番涼しい温度だろう。
何万年後への自分に言うのは気がひけるから、明日の自分に伝えておく。
冷蔵庫の中に水を冷やしておくから、アラームが鳴ったらすぐに止めて、起きてそれを飲みなさい。
それが今の自分が感じられる、1番涼しい温度だろうからね。