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学振DC申請書の書き方の全て

少し長いはじめに


本記事では、博士課程学生と博士進学を決意した修士学生の多くが申請する、日本学術振興会特別研究員、通称学振DC1•DC2の申請書の書き方を解説する。有料部分では、実際に提出した申請書を用いながら書き方を説明する。私自身は、DC以外の助成金によって研究費と生活費を得ていたため、DC申請の経験はない。しかし、私が指導した学生がDC2を取得したため、教員の立場からみたDC申請書の書き方を示したいと思う。ひとりの学生を指導して1件が採択されたので、勝率は100%である。
技術的なことは有料部分に記載することとして、まずはDC採択についての事後感想を述べる。DC採択に最も重要なことは、業績や研究計画ではなく、申請書の質であると感じた。DC2の採択率は15–20%程度であるものの、全体の中で十分な質を備える申請書は半分もないだろう。すると、研究計画や業績などの評価によって勝負が決まる実際の採択率は30–40%であると推定される。よって、申請書の質が担保されていれば、DC1とDC2の2回の申請のどちらかに採択される可能性は十分にあると考える。
申請書の質とは、「わかりやすい」ということに尽きる。つまり、文章のわかりやすさを指標として、(私の予想では)半分の申請書が不採択にされている。入念に研究計画を組み立て、業績を積んでたきたにも関わらず、文章のわかりやすさで不採択とされるのは納得できないかもしれない。文章を丹念に読めばわかるはずであって、その努力を怠ることは審査者に問題があると感じるかもしれない。しかし、DCが研究者の登竜門であるとすると、わかりやすさが指標のひとつとなることは納得できる。なぜならば、わかりやすい文章が書けなければ、論文を発表することも、研究費を獲得することもできず、研究者として生き残ることができないからである。また、余談であり、後述するが、申請書の一部である研究計画のパートは科学論文と同じ構成となっており、申請書の書き振りから論文を書ける候補者を選出しようという意図が窺える。
DC申請者がまずすべきことは、申請書の指導者の選択である。なぜならば、学生が誰にも相談せずにDC申請書を書き上げたとすると、その申請書の質が上位50%に入ることはありえないからである。これは、学生にとって、DCが外部の研究者が審査する申請書を執筆する最初の経験となるのであるから当然である。たとえ学生に査読付き学術誌に論文を発表した経験があったとしても、指導教員から多くの修正や指導をされた結果であり、質の高い申請書を書く力は養われていないだろう。よって、まずは指導者を探さなければならない。
この指導者探しが意外と難しい。旧帝大など、ハイレベルな大学であればどの教員に相談しても一定の質で申請書を添削してくれるだろう。しかし、若手教員の中には科研費の採択経験が無かったり、採択されていたとしてもPIがかなり修正していることがある。自力で科研費が取れない教員は、文章の質も低い可能性がかなり高いため、DC申請書について相談すべきではない。また、過去に科研費の採択経験があったとしても、10年以上採択されていない場合は、研究テーマの新規性が低い可能性があり、研究計画の相談相手として不適切な可能性がある。
指導者として適切な教員or研究者の条件は、5年以内に研究代表者として科研費の採択経験があり、しかもその科研費申請書を自力で仕上げていることである。ここからは実体験を含む私見(偏見)であるが、助教の場合、PIである教授・准教授が書いている可能性がある。また、教授の場合、准教授・助教に書かせている可能性がある。こればかりは断定できない。普段の指導を観察し、文章執筆能力が高そうな指導者を選択すべきである。
学生の立場から教員の能力を判断することは非常に困難である。多くの先輩がDCに採択されているハイレベルな研究室であれば指導者探しに苦労しないだろうが、自分が数年ぶりのDC申請者という状況も考えられる。運と言ってしまえばそれまでだが、学会やOB会などで研究室外、学外の先輩とコネクションを作り、指導してもらうこともひとつの手である。研究室外の学生のDC申請書のめんどうを見たからといってその教員には何のメリットもないが、若者に頼まれたら断れないのが教育者の性分である。
本稿の目的は、身近に相談できるDC採択者(先輩、ポスドク、教員)が居ない学生のDC申請書執筆の指針を示すことである。私は、ひとりでも多くの勇気ある学生が、博士課程に進学し、Ph.Dを取得し、好きな研究に邁進してほしい。学振DCは、研究に専念するための生活費として重要であると同時に、若手研究者の業績としても重みがある。あなたがDCを獲得されることを心より祈念する。

DC申請書の分析

DC申請書は、申請書と評価書から構成される。評価書とは、指導教員が学生の能力を記載する推薦書であり、本来は指導教員が執筆するものであるが、学生が下書きすることが多い。後述するが、評価書を下書きすることで、申請書の自己アピールと評価書の内容を一致させ、自己アピールに説得力を持たせることができるというメリットがある。
申請書は、1.申請者情報、2.研究計画(3ページ)、3.人権の保護及び法令等の遵守への対応、4.研究遂行力の自己分析(2ページ)、5.目指す研究者像(1ページ)である。1.申請者情報と3.人権の保護及び法令等の遵守への対応はすぐ記載できるので、実際の申請書の執筆量は2.研究計画(3ページ)、4.研究遂行力の自己分析(2ページ)、5.目指す研究者像(1ページ)の6ページである。さらに、3000字程度(約3ページ)の評価書を準備しなければならない。
研究計画書は研究計画と自己アピールの分量が50%ずつ、評価書は100%が自己アピールを目的とする。よって、申請書と評価書を合計すると、研究計画に3ページ、自己アピールに6ページ使うことができる。

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