2024.1.17「マジル」
うるうアドベントカレンダー8日目。
今日は2024年1月17日。
4年前の今日は、うるう広島公演1日目です。
少年は自ら「マジル」と名乗ります。
「マジル」という名前には、ありそうでなさそうな、少しファンタジーの香りのする、不思議な響きがあります。
少し非現実的な名前である点は、他のKKP作品の登場人物に共通しているようにも感じられます。
ここでは「マジル」という名前が持つ意味や連想される語について取り上げます。
交じる
この名前から最も明確に連想されるのは、やはり「交じる」という動詞なのではないかと思います。
以下に「精選版 日本国語大辞典」の「まじ・る【交・混・雑】」の項目を引用します。
このように改めて意味を眺めてみると、『うるう』という物語においてマジルが起こした変化そのものが、「交じる」という言葉に表れているように思います。
ひとりで生きていたヨイチと交流を持ち、最後には同じ歳の人間として再び出会うというこの物語そのものを表現しているようです。
「交差する」という言葉を思うと、やはりその瞬間に一度だけヨイチと同じ年齢に交わったこともまた、「マジル」という名前に含まれる意味なのではないかと思います。
物語の中では明言されず、また多くの文章においてもその名前は「マジル」とカタカナで表記されていますが、彼に与えられた名前は「交(まじる)」なのではないかな、と想像しています。
また「まじ・る【交・混・雑】」の項目には、このような意味も掲載されています。
竹取物語の冒頭「野山にまじりて竹を取りつつ」もこの意味の用法です。
マジルが森の中に分け入ってヨイチと出会ったこともまた、「交じる」という言葉の中の意味に含まれています。
また方言として使用されている「まじる」の中には、以下のような意味もあります。
「遊びの仲間に入る」という意味を思うと、ヨイチの子ども時代との対比のようなものも感じられます。マジルは他の人と一緒ではないことを悩んでいますが、決して仲間はずれになっているわけではありませんでした。
辞典には福井県での用例として、「わーらのよーなおたんちん、まじってやらん(おまえの様なばか者は、仲間入りさせてやらぬ)」という文章が記載されています。
ヨイチが子供のころに馬鹿とはやし立てられて仲間外れにされていた光景を思い出してしまいます。
マヂエル様
「マジル」という単語に近い言葉がないかと調べていて、一つの単語に行き当たりました。
宮澤賢治の作品『烏の北斗七星』の中に、「マヂエル様」という言葉が登場します。
これは北斗七星を有する大ぐま座の学名である「ウルサ・マジョル(ursa major) 」をもじったものであるといいます。
『烏の北斗七星』では、主人公のカラスが夜空を見上げて「マヂエル様」にお祈りをしています。これは北斗七星や北極星を神格化して信仰する「妙見信仰」に由来するものであるようです。
大ぐま座の北斗七星は人間の目からでもよく見つけやすく、北極星のすぐ近くに見えます。北極星は天の北極に最も近い位置にあり、地球上からはほとんど動いているように見えません。
こうした特別な星であるということもあって、北極星やその近くを回っている北斗七星は、古来から信仰の対象となっていました。
「マジル」という響きにもどこか賢治作品の香りを感じていたのは、『烏の北斗七星』の印象があったのかもしれません。
地球に住む人々が道しるべとしてきた北極星や北斗七星という存在は、地球の公転のずれによって生じた余りの1である「うるう」とは対角線上にある存在のようにも感じます。
直接的に由来する言葉ではないと思いますが、マジルとヨイチの関係を考える時、私は北斗七星の「マヂエル様」に想いを馳せてしまいます。
ちなみに「ウルサ・マジョル」ことおおぐま座の惑星状星雲には、ふくろう星雲(Owl Nebula 、M97、NGC 3587)があります。
丸い目玉のような暗部がふたつあることから、ふくろうの表情に見えることが由来だそうです。
糸をたぐるようにうるうに関する言葉を連想して調べていくと、こうした偶然に突き当たることが何度もあって楽しいです。
【参考文献】
原子朗『宮澤賢治語彙辞典』東京書籍、1989年
『日本国語大辞典』ジャパンナレッジ、https://japanknowledge.com/library/ 参照2023-1-14
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