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【アジア本】デオナール アジア最大最古のごみ山 くず拾いたちの愛と哀しみの物語
ビジネスパーソンにおすすめのアジア関連書籍を、新刊を中心にNNA編集スタッフがセレクト。今回は、インドのごみ山問題を取り上げたノンフィクションを紹介。
![](https://assets.st-note.com/img/1737450665-hWYZonpz0aeGMtlgj9URLi3A.jpg)
廃棄物が映す人間の業と社会
高さは20階建てのビル相当。目に映るのは、腐った食べ物に、医療廃棄物、ガラスのかけら。そして時には、女児だったばかりに生まれてすぐに遺棄された赤子も。人々が捨てたありとあらゆる物が幾重にも積まれて、1世紀以上。今や見上げるほどのごみ山になったのが、インド西部の都市ムンバイにあるデオナールごみ集積場の光景だ。
人口増加が続くインドでは、ごみ問題が深刻化している。廃棄物を処理するインフラ整備が追いつかず、各地にごみ山が林立。火災も多発していて、噴煙による住民の健康被害も社会問題になっている。
著者はムンバイで低所得者への融資サービスを行うNPOの運営者。2013年から8年以上に渡りデオナールごみ集積場に通い、くず拾いをなりわいにする人々の生きざまを当事者目線でつづったノンフィクションが本作だ。
少女ファルザーナーとその家族を中心に描いたごみ山周辺の実態が興味深い。麓にはくず拾いたちが住むコミュニティーが広がり、ごみの買い取りショップや質屋も存在。貴重品を探し当てるために、競争相手が少ない夜勤専門であえて働く者もいるといい、拾ったネックレスを元手にビジネスを始め、中流階級に出世したという成功談を紹介する。
ただ、ごみ山から去ることができるのは一握り。事故によるけがは日常茶飯事で、ファルザーナーもブルドーザーの下敷きになる。慢性的なせきも当然のことだと、くず拾いを続ける人々の姿が切ない。
処理施設の新設やごみ山の移動など、問題解決に向け政府も取り組みを始めているものの、計画は二転三転。くず拾いが、インド社会にもはや不可欠である事実も無視できない。ごみ問題の根深さにため息が出るが、彼らの生きることへの貪欲さが救いだ。
デオナール アジア最大最古のごみ山
くず拾いたちの愛と哀しみの物語
ソーミャ・ロイ(著)、山田美明(訳)
2023年9月10日 柏書房 2,860円 電子版あり