カメレオンの眼*97

エレベーターで過ごす、わずかとも言えない時間。
それは一日の間に何度か訪れる。

複数人で共有しているとき。
目のやり場を探すには空間が限られている箱の中で、何を思うか。
私は、変化する数字の表示を眺めるか、もしくは小さなモニターで流れている広告を眺めることにしている。

一人で独占しているとき。
どこを見ていたって気まずくならないため、ぼうっとするも良し、マスクをずらすほどの大きなあくびをしたって良し。

待ちかねたエレベーターに乗り込もうとすると、箱から出てきた男性が慌てて箱の中に戻る姿を見た。
さて、その男性と1階までの時間を共有するわけだ。咄嗟に「私もよくあります」と微笑みながら声を発した。
男性は照れ笑いを浮かべながら「一人きりだと、我が物顔で乗ってしまうんですよね」と一言。

数字が3になる。男性は私に道を譲る。私は戸惑う。女性が乗り込む。

「もしかして」
「先ほどもやってしまいました」
私たちは笑顔で別れた。


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