2022年6月に観た映画
ウルトラマンから底辺YouTuberまで、6月の映画も幅広く。
前回の記事で書いた『死刑にいたる病』は省略。
物語の重要なネタバレには触れていないはず。
友情にSOS
Amazonプライムビデオでの配信開始後から、口コミでじわじわと人気を伸ばしている今作。
緊急事態になるほど、人間の本音、本性が露わになるとはよく言うが(それを描いたのがゾンビ映画をはじめとするホラー映画、パニック映画だったりする)、次から次へと彼等に降りかかる災難に、観ているこちらも頭を抱えたくなる。
「知らないうちに白人の女の子が家の中で倒れていた。警察がそれを信じると思うか?俺達が襲ったと疑われるに決まっている。」と、通報と救助を拒否するショーン。彼が、彼等が、この国でこれまでどのような扱いを受け、どのような視線を向けられ、どのような言葉を浴びてきたのかが分かる悲痛なシーンである。
これはただのおとぎ話でも、アメリカに限った話でもなく、日本でもいくらでも考えられることである。
自分だって、いくら気をつけていても、きっとどこかに自分が気付いてすらいない偏見の意識があるはずだ。
脳に染み込んだサイレンの音は、簡単に消えることはない。
観客に大きな宿題を残すヘビーな作品だが、同時に笑ってしまうコメディシーンがあるのも魅力。
観終わった後は、Bee GeesのStayin Aliveが聴きたくなる。
ゼロの焦点
昔の映画予告あるある、割と重要な物語の展開まで見せちゃう。
WOWOWの松本清張特集で鑑賞。
戦争の傷を引きずる人々、特に戦後の女性が生きていく為には何だってしなくてはならなかった、それぞれの女達の悲哀が描かれる。
パンパンという言葉を知ったのはこの作品。
現代でもミステリー・サスペンスの定番となっており、最早パロディ化すらしている「崖の上での真相究明、犯人との対決」は、この作品からとされている。
金沢の冬の厳しさが、画面越しにも伝わる。
久我美子、高千穂ひづる、有馬稲子。
3人の女優が三者三様に素晴らしかった。
脚本が橋本忍なのは知っていたが、山田洋次との共同脚本だったのは驚き。
シン・ウルトラマン
一時停止しながらじっくり観たくなるオープニングから印象的。
『ウルトラQ』→『ウルトラマン』のオープニングオマージュも。
事前に庵野秀明セレクション4Kを観ていたおかげで分かった小ネタも多々あり。
もちろん、これを観ていなくても十分物語は理解できるし楽しめる。
(ちなみに庵野セレクションで観た中で一番好きなシーンは、34話『空の贈り物』で、突然の雨に打たれたキャプテンが隊員に傘を持ってくるよう頼んだところ、ハヤタ隊員が飛行機に乗ったまま上空からキャプテンめがけて傘を落とすシーン。誰か死ぬだろ。)
ウルトラマンの、感情移入や理解、共感すらも超えた気高さと矜持にぐっとくる。
『シン・ゴジラ』に続き、思わず真似したくなる印象的な台詞が多々あり現在進行形でファンアートが作られまくっているのは流石。
「実相寺アングル」オマージュが過ぎて、だんだん「そこまでやらんでも」と思えてくるが、その過剰さが一周まわってちょっと面白くもなっている。
個人的に、映画やドラマに出てると嬉しくなる俳優の和田聰宏が良い感じの雰囲気を醸し出しながら出演していて満足。
デッド・ドント・ダイ
あのジャームッシュの新作がなんとゾンビ映画ということで、一筋縄ではいかぬ作品になっていることは観る前から明らか。
彼の手にかかれば、ゾンビ映画すらもオフビートに!
常連俳優と言ってもいいビル・マーレイと、前作『パターソン』から引き続きタッグを組むアダム・ドライバー。
この2人が困った顔をして田舎でゾンビの対処をしようとしている、という状況だけでもファンにとっては面白い。
今作は今までのジャームッシュ作品と比べて、かなりメタ的な作品となっている。ジャームッシュが自ら発注し、スタージル・シンプソンが今作のために書き下ろした曲『デッド・ドント・ダイ』を登場人物が劇中で聴きながら、これがテーマ曲であるということを宣言し、自らの発言について「台本に書いてあった」とまで言うことも。更にはスターウォーズネタまで。
"KEEP AMERICA WHITE AGAIN"と書かれた赤いキャップを被ったスティーブ・ブシェミに、日本刀を振り回す宇宙人?のティルダ・スウィントンと、ゾンビに負けず劣らず濃いメンバーが揃っている。
神は見返りを求める
前作『空白』がかなりハードな傑作だった吉田恵輔監督。今作はいつものブラック・コメディ要素多めで、割と初期の『さんかく』とかを思い出すような作風。売れないYoutuberの女と、まるで「神様」のように頼んだことを何でもやってくれる…というよりは何でも断らないことで周りからいいように使われている男。そんな2人と周りの人間の、どうしようもなく可笑しくて悲しくて痛い物語。
映画監督から見れば、ともすれば今作は「Youtube批判・ネット批判」の物語にすることも出来たはず。しかし、やはりそんな単純な物語を作る作家ではないのが吉田監督。
そういったものへの警告は勿論あるが、同時にどこか優しい視線も感じることができる。
毎日、毎分膨大に更新されていく動画コンテンツ。
観客はもう次の日には見た内容を忘れているかもしれない。
次の動画にスワイプした瞬間には、もう忘れているかもしれない。
Youtube等の動画作品が、今後どのように展開されていくのか、どれほど後世に残っていくのかは正直分からないが、そんなすぐに忘れられてしまうかもしれない作品も、魂をこめて作っている人がいることは事実。
物語の構想を考えて脚本を書き始めたのが2年前くらいとのことだが、2022年の公開時になって現実とのリンクがさらに濃くなっている気も。
「暴露系Youtuber」とか、Youtuber同士のビーフ、そしてそれをエンタメとして消費する観客(そしてそのうち飽きる)など。
どこまでも人間を悪意を持って描くのに、どこまでも人間に絶望していない。
話はもう悲惨の一途を辿るのに、結局は人間賛歌になってる。
今作を観てやはり、これからもリアルタイムで追いたい大好きな映画作家だと再認識。
ちょっとした遊び心のあるオープニングから必見の作品。
以上、6月に観た主な映画のふりかえり。
あっという間に上半期終了。