2023年1月に観た映画〈前編〉
1月は気付いたら結構な数の映画を観ていたので、前・後編に分けて。
各作品のネタバレは無し。
ナイブズ・アウト:グラス・オニオン
前作『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』が面白かったので期待していた2023年の1本目。
今回も上質なミステリーで、観客が存分に楽しむことができる作品となっている。
孤島。金持ちの屋敷。集められた人々と名探偵。
設定だけ聞くとまさしく王道ミステリーなのだが、王道を描きながらもその王道を破壊することがこのナイブズ・アウトシリーズの肝である。
例えば、今作は途中でミステリーではもう定番中の定番すぎてもはやタブーになっているあるネタが登場するのだが、それをこっち側がやるのか!という面白さがある(観てない人には何が何やらで申し訳ないが…)。
基本は調子がよくてどこかダサいのだが、頭脳は抜群に冴えておりいざという時には弱きを助け強きをくじく頼りになる男、名探偵ブノワ。
007シリーズでの大役を終えた今、肩の力を抜きながらチャーミングにブノワを演じるダニエル・クレイグの魅力も溢れている。
ぼんやり見てると気が付かなかったり、絶対分からないだろというレベルの豪華カメオ出演もなんだかお正月らしくて楽しい一作。
ちなみに前作を観ていなくても特に問題はないので、あらすじを読んで気になった方から観るのが良いかも。
ラルジャン
『やさしい女』『たぶん悪魔が』と近頃ブレッソンの作品を劇場で観る機会が多く、そのどれもが忘れ難いものだった。
今作は彼の遺作である。
少年が軽い気持ちで作った一枚のニセ札。
そこから始まる一人の男の転落劇。
ブレッソンらしい無駄のないミニマムな演出で、85分淡々とした時間が流れる中で人生の不条理が描かれる。
観ていてはっとする印象的なカットも多々あり(ラストも凄い)、巨匠が最期に残したものはこれなのかと圧倒された。
トルストイの短編小説『にせ利札』がもとになっているようなので、こちらも読みたくなった。
この映画は小説の途中までしか描いていないそうなので、あの続きがどうなっているのかが気になる。
ハリー・ポッター20周年記念 リターン・トゥ・ホグワーツ
ハリー・ポッターシリーズ20周年を記念した同窓会映画。
かつてスクリーンで出会ったホグワーツの面々との再会が嬉しい。
もちろん楽しいことばかりではなかっただろうが、役者陣が愛おしい過去を思い返す表情には胸を打たれる。
長く続いたシリーズなので、もう亡くなっているキャストが何名かいることも事実。
何より、全て観終わってみればこのシリーズの影の主役だったと言えるあの人からもう話を聞けないことが寂しい。
今作の撮影時には元気そうに思い出を語っていたロビー・コルトレーンも、昨年亡くなっている。
映画ファンにとっては、3作目『アズカバンの囚人』の監督アルフォンソ・キュアロンのインタビューも収録されていることが嬉しい。
正直なところ個人的にハリー・ポッターシリーズは右肩下がりな印象があったが、この作品を観たことで後付けで「いいシリーズだったかも」なんて思えてしまった。
ラストをシリーズ屈指のあの名台詞シーンで締めるのは反則。
ドルフィンキングに何が起きたのか?
イルカショーに出るイルカを調教し、共にショーに出るドルフィントレーナー。
かつてスペインで世界一とも称されたあるトレーナーの男性ホセを追ったNetflixオリジナルのドキュメンタリー。
ホセが手掛けるイルカショーは好評で、客も多く訪れる。
しかし、その裏で完璧主義者の彼によるイルカや他のスタッフへの厳しい指導は度が過ぎているのではという疑惑が浮上する。
ホセは、自分の居場所はイルカしかないと信じ続け、どこか使命感のようなものに取り憑かれていたのだろうか。
同じ言語を話せない人間と動物の関係、コミュニケーションはどうあるべきなのか。
水族館のイルカショーの在り方なども考える作品となっている。
※動物についてのつらい映像有り。
この作品を見つける前にNetflixで観た『キラー・サリー:ボディビルダー殺人の深層』も、こちらは全3話のシリーズものだが様々なことを考えてしまう興味深いドキュメンタリーだった。
非常宣言
今年初の映画館鑑賞は、韓国発の飛行機パニック映画。
機内でバイオテロに巻き込まれる空の主人公イ・ビョンホン。
小学生の娘と共にパンデミックに巻き込まれ、序盤の少し頼りない雰囲気から次第に主人公然とした姿になっていくところは『新感染』のコン・ユも思い出す。
刑事として事件を追う陸の主人公ソン・ガンホ。
テロ現場にいるわけでもないのに、いろいろあった結果気付いたら頭から血を流していたのには少し笑ってしまう。
やはり今作もソン・ガンホ力には圧倒される。
メイキングを見ると360度回転するセットで撮影されている航空パニックシーンは必見である。
映像の迫力はもちろん低音が響く音響も印象的だったので、映画館で観ることができて良かった作品。
日本政府がいざという時は他国に冷たいところ、「感染している人間を国内に入れて良いのか」という議論で意見が分かれ分断してしまう韓国国内の姿は、コロナ禍を通してよりリアルに映るだろう。
飽きることのない展開には手に汗握り、同時に一人の人間が自らの過去(トラウマ)と向き合いそれを克服する物語には胸が熱くなる。
そして、韓国の人はずっとセウォル号事件を心に引きずっているのかもしれないということを改めて感じる作品であった。
RRR
『バーフバリ』が話題となったS・S・ラージャマウリ監督の最新作。
一度聴いたらなかなか頭から離れない劇中歌Naatu Naatuは今年のアカデミー賞歌曲賞にもノミネートされている。
運命的な出会いをした二人の男、ラーマとビーム(この出会いのきっかけがイギリス産業革命の象徴である蒸気機関車なのも興味深い)。
それぞれがどれほど凄い男なのかをスマートかつ大胆に観客に見せる序盤から二人の出会いまで、常に全力の画で魅せてくれる。
サービス過多!過剰!な、とにかく映画的でワクワクするシーンの連続で、作り手の「本気で面白い映画を見せてやる」という気持ちが伝わる。
なんでポスターの真ん中が動物園みたいになっているんだろう…という疑問が劇中で解消される(されるのか?)シーンの画の強さは、思わず開いた口が塞がらない。
「人間を、他者を馬鹿にしてなめちゃいけない」「異なる立場の者同士も団結して、ともに困難を乗り越えよう」という真っ直ぐな歴史的・社会的メッセージ、そしてインド映画に歌やダンスがあることの意義も込められている。
とにかく面白い、楽しいという感情でいっぱいになる力強いエンターテイメント作品。
あの人まで出てきてちょっとした打ち上げみたいになっている楽しいエンドロールまで必見。
後編へ続く。