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2022年7月に観た映画

下半期がスタートして、夏休みに向けた大作が多数公開される時期。

今月は、36年ぶりの続編、長らく観られることのなかった旧作、巨匠の新作などなど。


ソー:ラブ&サンダー 

監督:タイカ・ワイティティ
2022年
119分
サノスとの激闘の後、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々とともに宇宙へ旅立ったソー。これまでの道のりで多くの大切な人々を失った彼は、いつしか戦いを避けるようになり、自分とは何者かを見つめ直す日々を送っていた。そんなソーの前に、神々のせん滅をもくろむ最悪の敵、神殺しのゴアが出現。ソーやアスガルドの新たな王となったヴァルキリーは、ゴアを相手に苦戦を強いられる。そこへソーの元恋人ジェーンが、ソーのコスチュームを身にまとい、選ばれた者しか振るうことができないムジョルニアを手に取り現れる。ジェーンに対していまだ未練を抱いていたソーは、浮き立つ気持ちを抑えながら、新たな「マイティ・ソー」となったジェーンとタッグを組み、ゴアに立ち向かうことになる。
映画.com(https://eiga.com/movie/95007/)

ガンズ・アンド・ローゼズのSweet Child O’ Mineが高らかに鳴り響く予告から、楽しい予感でいっぱいのMCU最新作。
(ちなみに予告に起用されたことで、この曲は米ビルボードのチャートで1位になったらしい。)
ポスターもメタル感強め。

フェーズ4もいよいよ終盤となってきたこの頃。新たなヒーローが続々登場してきているが、前からずっと活躍しているキャラクターが出てくるとやはり安心感がある。
ソーというキャラクター、そして監督タイカ・ワイティティの作風により、決して深刻にはなり過ぎない、楽しいスーパーヒーローの物語が描かれている。

久々の復帰となったナタリー・ポートマン、頼もしい国王テッサ・トンプソンは、この2人のヒーローものが見たいくらいだし、ヴィランのゴア役、クリスチャン・ベイルは存在だけで画面を支配する迫力があった。

サノス以降ははっきりとしたヒーロー達のゴールが見えず、今後も作品を追い続ける観客のモチベーションが保たれるのか、明白なビジョンが存在していない、そして映画にドラマシリーズに、現場のCGスタッフが作品数の多さとそのペースに疲弊しているというニュースも。
こちらはゆっくり待つので(少し前は映画だけが1年に1〜3本公開されている状態だった。)、どうか無理のないペースで作り続けて欲しい。


トップガン マーヴェリック

監督:ジョセフ・コシンスキー
2022年
131分
アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット、マーヴェリックが教官として帰ってきた。空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースターの姿もあった。ルースターはマーヴェリックを恨み、彼と対峙するが……。
映画.com(https://eiga.com/movie/91554/)

最初に『トップガン』の続編をやるらしい、と聞いたのは果たしていつのことだったのか。数々のポスターを見る限り、おそらく当初の公開予定は2020年。その後、新型コロナウイルスの影響で再三延期となり、ようやく2022年に公開となった。ここしばらく映画館で映画を観る度に予告を目にしており、何ならもうそれで本編も観た気になっていたくらい。

前作が36年前ということで、あまりに期間の空いた続編は多少リスクも感じられるが、そんなものは跳ね除け、世界中で記録的なヒットとなっている本作。それは、この作品が「続編」と言いつつもひとつの独立した作品として面白いこと、本作から初めて観る客にも分かりやすい構成になっていることがある。

ドッグファイトものとしての迫力は言うまでもなく、実際に役者が操縦をして顔に、身体に物凄いGがかかる紛れもない様がそのままスクリーンに映し出されている。若者に継承もしつつ、自らも未来を閉ざすことなく走り続けるマーヴェリックの姿はただ眩しく、演じるトム・クルーズそのものであった。彼は観客に、人間の可能性に天井はなく、いつだって「今」が全盛期なのだということを自らの肉体をもって伝え続けてくれている。彼にも終わりの日はくるのかもしれない、映画館での映画文化もいつかは幕を下ろす時が来るのだろう。しかし、"But not today."なのだ。


ベイビー・ブローカー

監督:是枝裕和
2022年
129分
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが……。
映画.com(https://eiga.com/movie/93673/)

是枝監督の新作は、世界的名優ソン・ガンホを主演に迎えた韓国での物語。勿論、韓国が舞台だからといって日本は無関係の話ではない。赤ちゃんポスト問題。そして赤ちゃんポストに届けることができたらまだよかった、と思わざるをえないような数々の悲劇。目を覆いたくなるような話は、おそらく今も世界中に存在し、誰にも届けることのできないSOSをひとり抱えている女性がいる。

「捨てるくらいなら最初から産むな。」「困って殺すくらいなら妊娠するな。」これは赤ちゃんポストについて、また妊娠してしまったもののどうしようもなくひとりで出産し、赤ちゃんを亡き者にしてしまった母親について、常に世論として出てくる言葉である。本作の序盤でも、刑事がそう吐き捨てる。この『ベイビー・ブローカー』は、ブローカーや赤ちゃんの母親の物語だけでなく、序盤でこのような発言をしていた刑事がどのような変化を見せていくのかの物語でもあった。

実際にこちらも一緒になって旅をしているような感覚になるロードムービーであり、厳しい現実を描いている中にもクスッと思わず笑ってしまうようなシーンの数々(韓国の赤ちゃんの眉毛事情が気になる)、美しい撮影映像と音楽、そして是枝監督らしい、後悔や罪を抱えた人への優しい眼差しが印象的な作品であった。フィクションであるのは分かっていても、彼等の未来が希望に向かっていくことを思わず願ってやまない。


ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディールマン

監督:シャンタル・アケルマン
1975年
200分
ジャンヌはブリュッセルのアパートで、思春期の息子と2人きりで暮らしている。湯を沸かし、じゃがいもの皮をむき、買い物へ出かけ、“平凡な”生活を送る彼女だったが……。
映画.com(https://eiga.com/movie/96803/)

社会の中で女性がどのように生きてきたのかを撮り続けたベルギーの映画監督、シャンタル・アケルマンの特集上映にて。
200分、ある主婦の3日間の生活を追い続ける。
まるで家の中にいくつか仕掛けられた定点カメラの映像を観ているような映像がひたすら続くという異質な作品である。

観客に訴え、考えさせるものも多い映画ながら、「他人の家の中&生活を覗く」という下世話な面白味もあるところが本作の面白いところである。
うちもそれやるなぁ、というあるあるがあれば、それをそうやるか!という驚きもあり。他人の家に行ってカルチャーショックを受けることに似ている。

決まったルーティーンが繰り返される日々。
しかし何かが少しずつ変わっていく。
どこかに綻びが生まれる。
彼女の生活を見ていくうちに、観客もいつのまにか「次はあれで、その間にこれをやって」と考えてしまい、ルーティーンがずれてしまいそうになると思わず焦り、不安になってしまう。

「日常」と「非日常」、その境界線はどこにあるのか。
境界線は存在するのか。
3日間、観客が追い続けた彼女の果ては。


リコリス・ピザ

監督:ポール・トーマス・アンダーソン
2022年
134分
1973年、ハリウッド近郊。高校生のゲイリーは、ある日、年上の撮影技師アラナに恋をする。ゲイリーは“運命の出会いだ”と告白しても、アラナは相手にせず流してしまう。しかし、反発しながらも共に過ごすうちに、ふたりの距離は少しずつ近づいていく。
映画ナタリー(https://natalie.mu/eiga/film/189008)

巨匠PTAの最新作。
個人的には前作『ファントム・スレッド』が大好きで、オールタイムベスト夫婦映画でもあるため、今回は若者の青春ものか…と思ったりもしたが、やはり間違いなく面白くて楽しくて可愛い物語だった。

1970年代アメリカ、サンフェルナンド・バレー。
オーディションを受け芸能活動をする高校生のゲイリーと、撮影技師のアラナ。
15歳と25歳のふたりの恋愛模様を中心に、様々な人物が出てきて当時の様々な街の出来事がとりとめもなく描かれる様はタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』っぽくもある。
観客も一緒になって当時にタイムスリップした気分を味わうことができる。

主演は人気バンド、ハイムの三女アラナ・ハイムと映画初出演のクーパー・ホフマン。
PTAはハイムのMVを多く手がけている為、その縁かと思いきやそもそもMVを手がけるようになったきっかけがPTAがハイム母の教え子だったという。ちなみに本作ハイム一家総出演である。
クーパー・ホフマンが画面に映る度に父親の面影を感じては泣き、同時に彼自身の魅力も沢山溢れていた。

誰だって間違えるし、傷つけ合う。
遠回りをして時間もかかる。
それでも愛する人の瞳を正面から見つめて想いに向かって走り続ければ、何かが届く。
かもしれない。

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