2022年5月に観た映画
2022年5月は、旧作のリバイバル上映を観に行く回数も多かった。
以下、各作品ネタバレ有り。
ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
ドクター・ストレンジの続編。
まず、今回何より観客が驚いたのはサム・ライミが監督を務めるということ。
サム・ライミといえば、トビー・マグワイア主演のスパイダーマン3部作を監督し、今に続くアメコミ映画ブームの功労者とも言える人物である。
ライミ版スパイダーマンが「最初に成功したアメコミ実写化」というわけでは勿論ないが、この3部作のヒットが無ければ、映画の歴史は変わっていたかもしれないし、ある一定の世代にとってあの3部作は思い入れがあり、大切な作品であることも確か。
そんな彼のカムバックは非常に歓迎すべきことであり、単純に「サム・ライミの新作が映画館で観られる(しかも3DやIMAXで!)」という喜びは大きい。
同時に、今回重要になってくるのは、サム・ライミは「スパイダーマン3部作を作った人」というだけでなく、「『死霊のはらわた』や『スペル』を作った人」だという点である。
案の定、壁や地面から急に腕は生えてくるし、結果的に今作の敵となるワンダ=スカーレット・ウィッチはホラー映画の殺人鬼のようになり、ゾンビ、眼のアップ(そして眼はくり抜かれる)、急に寄るカメラなど、観進めていくほどサム・ライミ風味増し増し。
序盤の、真昼間に屋外の建物も使いながら敵と戦うところも、どこかスパイダーマン3部作のNY戦を思い出す。
ワンダが悲劇的な結末を迎えるキャラクター設定になってしまったのには気の毒な気持ちもありつつ、やはり彼女は一線を越えてしまった。
悲惨な目に遭ってきた人は、他人を悲惨な目に遭わせてもいい…訳ではないのだろう。それは勿論。
恒例「エンドロール後まで映像があります」の注意書きが今回も。
しかしそれで引っ張ってまで最後に見せるもののくだらなさもサム・ライミ仕込みで素敵。
スパイダーマンNWHでは劇場が歓喜で沸いた瞬間を目にしたが、こちらは久しぶりに劇場がほっこりとした笑いに包まれていた気がする。
テオレマ
パゾリーニ生誕100年の記念上映で鑑賞。
謎の男の来訪により、徐々に崩壊していき、悲劇的な末路を辿るブルジョワ一家。
序盤、彼と一度視線を交わし合っただけで、まるでとりつかれてしまったかのように見える家政婦。
彼女が家の外から中へ、繰り返し走るシーンだけでこの作品のどこか異様な雰囲気が伝わる。
彼は天使なのか、悪魔なのか。
ポスターにも大きく写され、テレンス・スタンプ主演!と宣伝されているものの、実際に作品を観ると、彼の出番の少なさに驚かされる。
突如現れ、そしてあっけなくいなくなってしまう男。ただ存在しているだけで圧倒的な威力があり、関わる人全てを虜にしてしまう、おそろしい魔の魅力を持ったあの青年を演じる人は、その説得力のある俳優でないと観客は納得しない。
最近では『ラストナイト・イン・ソーホー』でも怪しさたっぷりに出演していたテレンス・スタンプ。
彼のファム・ファタールならぬオム・ファタールっぷりを堪能できる作品だ。(そして彼に夢中になるのは女性だけではない。)
神秘的でありながら、グロテスクでもある現代の寓話。
たぶん悪魔が
ロベール・ブレッソンの特別上映で鑑賞。
過度な演出を排除することで真実そのものを見せる映像表現「シネマトグラフ」を追求し、ジャン=リュック・ゴダールらヌーヴェルヴァーグの作家たちをはじめ世界中の映画人に多大な影響を与えた彼だが、日本ではほとんど劇場未公開だった作品である今作が、40年以上の時を経て『湖のランスロ』と共についに公開された。
ひとりの青年、シャルルが自殺した、という新聞の見出しで物語が始まる。
今作は、冒頭で結末があらかじめ示されており、なぜ彼は死んだのか、という疑問を抱いて観客は物語を観進めることになる。
『市民ケーン』『サンセット大通り』のような構成である。
現代社会の環境・政治問題に加え、恋愛・自分自身の存在意義などの精神分析などを通して苦悩する若者たちの姿が描かれる。
物語の端々で、シャルルが常にどこか死にとりつかれていることも描写されている。
若者たちの人間関係、そして彼等が何を思考しているのかが詳細に明かされることはない。
その説明の少なさが、観客には余計に考えさせるものがある。
そして、それは彼等自身の中にも答えがないことの表れなのかもしれない。
空虚の果て、闇夜に響く銃声だけが、虚しく観客の脳内に残り続ける。
整形水
世界中で人気を集めている韓国発のオムニバスコミック「奇々怪々」の1編『整形水』をアニメーション映画化したもの。
原作は未読だが、結構アレンジされているそう。
観てみると、なるほどこれはアニメーションだから出来た作品なのかもしれないと思わされるような過激な描写の数々。実写でやればPG12では済まないだろう。
どんな描写があるかというと、例えば「20分だけ整形水に浸かるというルールだったがうっかり時間が過ぎてしまい、主人公の全身の皮膚や肉がほとんど溶ける(普通ならもうここで物語終了である)」「整形水があれば他人の肉を自分に自在に貼り付けることもできるので両親の顔・身体の肉を貰うことになる(結果両親はほとんど皮がなくなり骸骨のような見た目に)」といった内容である。
ラストまで、想像もつかないような展開に物語が駆けていくので驚かされる。
Webコミック原作ならではの、と言っていいのか分からないが、清々しいまでに多くの登場人物が分かりやすく性悪なのも印象的。
「やっぱり整形はよくない」「ありのままのあなたが素敵」なんて安易な着地には至らない、全く予想がつかないサイコスリラーだった。
勝手にしやがれ
こちらは前に記事を書いたので省略。
『気狂いピエロ』と合わせて、劇場で観ることができて良かった!
以上、2022年5月に観た映画の記録でした。