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祖母が旅立った日
2月が苦手になったのはいつからだろう。三年前、突然追突された交通事故で心も身体もぼろぼろになり、愛車をなくし家族のペットたちまでも失ったのもいずれも二月だ。二月には罪はない。だが何故、二月ばかりなのだろう。私にとって、二月は別れの季節として刻まれている。
友人の誕生日を毎年祝う建国記念日に、今年は大好きな祖母を送る日になってしまった。
祖母は働き者でユーモアたっぷりのチャーミングでかわいいひとだった。祖母が淹れてくれるお茶は世界で一番おいしかったし、祖母が作る手作りの焼豚や湯豆腐はジューシーでどんなお店のものより口が解けた。口下手なわたしは祖母のように話したくて見よう見まねで、あらゆるテクニックを真似たがうまくいかなかった。母から受け継いだ、猫っ毛の天然パーマが嫌で嫌で幼少期、絶えず帽子を被っていたわたしに。
「あなたはあなたのままでいい。年齢ではない。他人がどうではない。あなたがなにを着たいかだ。好きなものを纏い、好きな服を着る。それがあなたになる。あなたを好きになるあなたでいて」
祖母の信条だ。
オシャレを好み、真っ赤なワンピースや愛用のサングラスと髪留めは幼少の頃から私の憧れだった。自慢の祖母だった。
祖母が旅立った。昼過ぎのことだ。正直、まだ心の整理がついていない。わたしが知る祖母はまだジョークが言える元気な姿でニコニコしている。ずっとずっと、その姿で記憶している。わたしは忘れない。
祖母が旅立った日の笑顔を。弱った姿を見せたくないと頑なに会うことを拒んだ祖母はやさしかったのだろう。わたしは笑顔を覚えている。今まで蓄積されてきたわたしと祖母の物語を。それはずっと、美しいものであったはずだ。わたしは祖母のことを忘れない。忘れたくない。
おばあちゃん、ありがとう。
大好きだよ。