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北野 泰之/大雄ホップ農業協同組合

法人名/農園名:大雄ホップ農業協同組合
農園所在地:秋田県横手市大雄三村東
就農年数: 2024年4月~
生産品目:ホップ


ホップ生産を次世代につなぐ! 地域おこし協力隊として再び横手へ。元キリンビール支社長が第二の人生をかけて挑むミッション

■プロフィール

 兵庫県神戸市出身。キリンビール株式会社に35年間勤務。主に営業畑を歩む。2011年から2年半は秋田支社長を務め、ビール原材料のホップを同社と契約栽培する大雄(たいゆう)ホップ農業協同組合と連携し、生産者と交流を持つなど、農業の現場と接する機会が増えていった。
 
次の赴任先の東北流通支社(仙台市)では、ビール事業を通して東北全域の震災復興支援に携わり、農業、水産業などの一次産業の生産者をバックアップする活動に尽力。この頃から、セカンドキャリアは農業に身を投じたいという気持ちが芽生え始めた。
 
その後、首都圏営業推進支社(東京都)の支社長を務め、在職中の2021年4月から株式会社マイファームが運営するアグリイノベーション大学校関東校(横浜農場)で、有機栽培を主とする生産技術と農業経営を、週末、1年間のコースで学んだ。
 
2024年3月、57歳でキリンビールを定年退職。同年4月から、横手市地域おこし協力隊として、大雄ホップ農業協同組合に着任。組織運営のための事務のデジタル化の推進、地域のホップ産業を未来につなぐための課題解決が主な任務。
 
横手市は生産量全国一のホップ産地だが、近年は生産農家数・収量ともに減少の一途をたどる。横手市では官民一体の「よこてホッププロジェクト」を立ち上げ、持続可能な生産と新規就農者が挑戦しやすい環境づくりに取り組んでいる。
 
その施策で、行政、生産者、企業の橋渡し役を務め、地元小学生のふるさと学習では、手作りお面で「ホップマン」に変身して授業を行うなど幅広く活動中。収穫期の人員確保とホップ産地の横手の魅力を広く知ってもらうために、旅先で農業などを手伝う「おてつたび」の運用にも挑戦。これまでの経験とスキルも強みに、農業という新たなキャリアへ力強い一歩を踏み出した。

■農業を職業にした理由

 飲料メーカーの社員として食に関わる仕事に携わるなか、赴任先の秋田をはじめ東北全域で農業の現場や生産者と接してきたことで農業への関心が高まった。
役職定年となる57歳で退職することは以前から決めていたが、改めてセカンドキャリアで農業の道を志し、在職中にリスキリングでマイファームの「アグリイノベーション大学校」で農業を学んだ。
 
同校では、人それぞれの農への携わり方を探す授業もあり、生産者になるだけが選択肢ではないことに気づき、まだ進むべき道が決まらない時期に参考になった。在校中は、自分が一番好きな果物、ナシ農家への道も考えて、あちこちの産地に足を運び、行政の話を聞くなど情報収集も行った。ナシ農家になる夢はまだ捨ててはいない。
 
退職後の働き方を模索していたところ、農業情報メディアで、横手市地域おこし協力隊募集の広告を目にした。活動先は、秋田支社長時代に付き合いのあった大雄ホップ農業協同組合。写真には、当時お世話になった組合長と事務職員の懐かしい顔があった。組合事務所に電話を入れて話を聞いてみたが、募集している業務の要件に合わず、電話を切ったのは2023年11月のこと。
 
年が明けて、応募の締切が延長されていたのが気になっていたところに、今度は組合から電話があり、他の業務で手伝ってもらえないかと相談を受けた。
「誰もやらないなら自分がやろう」
地域おこし協力隊に手を挙げた。自身の経験を生かしてどのように地域や組織に貢献できるのか。組合、行政と話し合い、組織運営における事務のデジタル化、ホップ産業を次世代につなぐための課題解決をミッションに、2024年4月、地域おこし協力隊として大雄ホップ農業協同組合に着任。農を職とする多様な生き方を体現することになった。
 

■農業の魅力とは

 同じ作物を作っても、毎年、作柄が違う。自然と戦い共存することが醍醐味です。自然の大きさに対して人はあまりにも無力ですが、相手とうまく戦いながら良いものを作り、最終消費者につながるサプライチェーンを担う使命感を持てることが、一番の魅力です。
 
ホップにどっぷりと浸かって知り得たことがたくさんあります。メーカーに納めるのは乾燥させたホップですが、そこに至るまでの共同作業の素晴らしさに改めて感銘を受けました。
 
ホップは蔓性の多年草で約5メートルの高さに仕立てますが、そのための施設(棚)の設営は大がかりで、高所作業も伴う特殊な作物です。収穫するのはホップの実ではなく毬花(まりばな)です。収穫したその日のうちに乾燥センターに運んで15時間かけて乾燥させ、日持ちする状態にしてビールメーカーに納めます。横手市では1施設を約30人のチーム制で運営しています。ホップは一人ではできません。チームワークに感謝です。
 
セカンドキャリアとして現在の農業への関わり方は、組合をサポートする立場。組織運営の事務方をしながら農家さんの実務も見ています。外から来たよそ者ですが、だからこそ改善ポイントに気づくことができ、そこは前職で培った人間関係を含めた仕事の進め方など、35年間の会社勤めで身についたことが結構あることにも感謝しています。
 
アグリイノベーション大学校で、宇都宮の梨農家で経営改善をしまくった東大卒の佐川友彦さんの講義を受け、その事例がとても参考になっています。生産以外にも、農業発展のためにできることはたくさんあると思います。

■今後の展望

 横手市のホップ生産者数、栽培面積、収穫量は、減少の一途をたどっています。私が着任した時点で底を打ち、ここから少しでも上向きになるように貢献したい。産地と担い手をつなぐことも、地域おこし協力隊の任期である最長3年で成し遂げたいです。
 
ホップは今から約50年前に代替作物として導入され、気候的に冷涼な土地が栽培に向いていたので、東北の秋田、岩手、山形の3県、そして北海道が主な産地として残っています。
 
産地が限られているため、最終製品のビールを飲んでいる方でも、ホップがどこでどのように作られているかを見る機会はほとんどないでしょう。また、ビール原材料に用途が限られるため、生産者の皆さんもサプライチェーンをイメージしにくいと思います。作物としてのホップの魅力が伝わらないのはもったいない!生産の現場を広報してアピールしていけば、生産者も自分たちの作物にもっと誇りが持てると考えています。
 
ホップは春に芽生え、お盆を過ぎると一気に収穫期を迎えるので、見ごろは6、7、8月の3カ月間。この時期に、東北を旅しながらホップの畑を見に来てもらえるとうれしいです。私は生まれも育ちも関西で、東北と地理的・歴史的にも縁遠かったので、関西圏の人にも旅行がてらぜひ来てほしいと思います。
 
ホップの生産にはものすごく多くの人の手がかかっています。高齢化や人口減で新規就農者を地元では賄えないうえに、施設産業であるために他の農作物と比べて参入障壁が高い。いかにして産業として守っていくかは喫緊の課題です。地域と将来の担い手をつなぐ施策として、着任1年目の収穫期に「おてつたび」の運用を試みます。
 
地域おこし協力隊の任期後はまだわかりませんが、ホップと関わっていきたいですし、ナシ農家になる夢もあります。複合経営も含めて、地域に求められる農業人になれる適地を探していきたいです。

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