國中 秀樹/いろどりふぁーむ
銭湯経営から野菜栽培に興味が・・・。情報収集を怠らず、賢く助成金活用
■プロフィール
和歌山大学経済学部を卒業後、不動産業を経て、32歳からは和歌山県内に展開するスーパー銭湯の店長として経営に携わる。
42歳までの10年間勤めた後、2015年に退職。仲間と共に、経営が立ち行かなくなった公衆浴場を再生・運営する会社を設立。温浴施設の受託運営のかたわら、飲食スペースで提供する食事用の野菜を栽培しながら、週末はアグリイノベーション大学校に通って、栽培技術や農業経営を勉強する。
2016年2月、アグリイノベーション大学校の卒業を機に、独立就農を決意。自宅がある有田市周辺で農地を探した結果、隣の有田川町で元バラ農家からハウス付きの農地を無償で借り受ける。
当初はナスとニンニクを栽培していたが、水やりのために畑と畑の間を往復するだけで1日3時間かかっていたことに見かねた大家さんが、自動潅水設備の自作をアドバイスしてくれたおかげで、省力化に成功。
2年目には養液栽培のハウスを借りてミニトマトを主力にした結果、収益が安定。年間売上が2000万円を超えた2021年、従業員の雇用を機に法人化へ…。
雇用したのは、元々収穫物のパック詰めを手伝ってもらっていた福祉作業所を利用する女性だったが、以後は農福連携にも力を入れるようになる。また法人化によって対外的にも信頼性が高まり、農業総合研究所、産直市場「よってって」との取引を通じて販路が拡大。
アグリイノベーション大学校の講師から受けた「使える補助金は全部使え」という助言を守って、日頃から行政やJAで情報を収集した結果、就農準備資金・経営開始資金や経営継続補助金などをフル活用して、就農4年目と6年目にハウスを増設。
助成金を受給しながらも、利益確保が見えれば、次の投資につながる経費に回すようにするなど、助成金を活用しながらも収益を上げる経営を徹底している。2022年には週刊ダイヤモンド編集部が全国の農家から選んだ「中小キラリ農家ベスト20」の10位にランクインした。
■農業を職業にした理由
スーパー銭湯の店長をつとめていた30代の頃、お客様に喜んでいただくための取組みとして、店頭で野菜の直接販売を企画したり、敷地内で貸し農園や体験農園などを提案して集客に繋げようと試みたが、肝心の農家からは「農業を知らない人に言われても…」と協力を得られず実現に至らなかった。
この苦い経験がきっかけとなって農業に興味を持つようになり、退職後に仲間と一緒に立ち上げた温浴施設の再生・運営会社では、飲食スペースで提供するメニューの食材を調達するためにキャベツやレタスの栽培を開始。
見よう見まねで始めたことなので、すぐに壁にぶち当たり、栽培技術を学ぼうと週末はアグリイノベーション大学校に通い出したところ、卒業時にはすっかり農業の方が楽しくなってしまった。
そこで、温浴施設運営は仲間に任せ、故郷の有田市周辺で農地を探した結果、有田川町で元バラ農家のハウスと土地を無償で借り受けることができた。
有田川町は高速道路のICが開設されたり、JRきのくに線の藤並駅が特急が停まる駅になったりと成長著しく、また就農意欲のある人にも協力的な地区なので、JAのニンニク生産部会などにも参加して、情報収集や地域の人たちとの交流にも力を入れている。
またハウスと土地を貸してくれている大家さんは、元は実力のあるバラの生産者だが、現在はボランティアとして農作業を手伝ってくれているうえ、自動灌水設備などを手作りしてしまうなど、なくてはならない存在の師匠だという。
■農業の魅力とは
スーパー銭湯の店長時代は、毎日午前3時4時まで働いて、子供が起きている時間に顔を会わす機会もなく、家族とすれ違いの生活でしたから、農業は何でも自分で決められる自由が魅力のひとつです。
サラリーマンは事業資金が尽きたらそれで終わり。特に当時の上司は、売上があがらないなら経費を抑えろというタイプでしたから、それではそのうちジリ貧になってしまいます。
農業界では、集客や販路拡大、地域貢献につながる事業は積極的に進めるために、ありとあらゆる補助金や助成金を活用してきました。「ミガキイチゴ」で知られるGRAの岩佐大輝CEOの教えです。
使える補助金はないかを探すために、時間があれば町役場やJAに顔を出して情報収集を続けてきました。幸い、10年間の店長経験があるので、事業計画で数字の見通しを立てることは得意です(笑)。
会社員時代は人を信用したり、信用されることの難しさを感じましたが、植物は裏切りません。何よりもありがたいのは、ハウスと土地を無償で貸してくれる師匠の存在。
かつてはバラの生産者として関西の市場でも有名な方でしたが、引退した現在は、30年現役を続けてこられた恩返しを、次世代につなげていきたいと、私たちのハウスをボランティアで手伝ってくださるうえ、自動潅水設備なども自作してくださいました。
師匠からいただいたバトン(恩)を、今度は私が次につなげる番です。ウチでは現在、障がいのある若者を雇っていますが、次の10年では彼らを後継者をしっかり育てて、自分は支える側にまわりたい。…障がい者が経営する農業法人ができたらステキじゃありませんか?
■今後の展望
2021年の法人化に伴って信頼度が増し、農業総合研究所からも声をかけて頂いたことで、スーパーの産直コーナーで広い売り場で弊社の野菜を扱ってもらえるようになり、収益の安定に繋がりました。
今後は企業として、福祉活動や従業員の雇用、人材育成にも力を注いでいきたいと考えています。現在、私たちの農園では障がいを持つ若者を2人雇用していますが、次の10年間は彼らを後継者をしっかり育てて、彼らに事業を承継した後は、私は現場作業に専念して、私が師匠から受けた恩を次につなげていきたい。
そのためにもまず売上を5,000万円にするのが目標です。 同時に、SDGs活動にも取り組んで、見た目や形などが原因で、品質には問題がないのに売り物にならないトマトを加工品として活かすことで食品ロスを削減したいと思っています。今は協力企業と連携しながら、トマトの有効活用を模索中です。
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