
石川智之・圭/いっぽファーム
法人名/農園名:いっぽファーム
農園所在地:岩手県西磐井郡平泉町長島字東岳69-1
就農年:2022年
生産品目:いちご、ナス、とうもろこし、落花生、さつまいも、生姜、かぶ
HP:https://www.instagram.com/ippo.farm_/
実施 https://otetsutabi.com/plans/7954
「いっぽ」ずつ進む農業の夢、地域と共につなぐ未来
■プロフィール
●石川智之さんの生い立ち
岩手県平泉町生まれ。祖父の代まで専業農家として米や肥育牛を生産していた家庭でしたが、父親の代から兼業農家へと移行し、農地のほとんどは耕作放棄地となっていました。自然や農業は幼少期から身近であり、生物や環境といった分野に興味をもつ一方、家業としての農業にはどこかネガティブなイメージを抱くことが多かったと言います。
大学では遺伝子工学を専攻。地元を離れ、都会で新しい環境に触れることで地元の良さというものを感じ始めました。卒業後は岩手の北端にある食品畜産会社に就職し、そこで20代を過ごします。その後、自分の将来について真剣に考え始め、特に「地元に戻ったときに何をするか?」という問いに対して、農業の可能性を見直すようになり、農業界というものを見てみたいと思うようになります。
そこで、転職先として選んだのは株式会社マイファームでした。ここで自分自身も農業の基礎を学びながら、アグリノベーション大学校(AIC)で事務局を務め、農業の知識や知見を深めていきます。これが、石川さんが本格的に農業に興味を持ち、今の自分の道を切り開くきっかけとなります。農業界に入ると、その魅力や可能性を感じ、農業の仕事に本気で向き合おうと決意するようになりました。そして、同じくマイファームで出会った妻の圭さんと結婚し、地元へUターンします。
地元で農業系の仕事を探したところ、それまで経験がなかった施設栽培のイチゴの観光農園の求人があり雇用就農します。そこで、イチゴに魅力を感じたことから、自分でも農業を始める決心をします。農業の魅力を再確認し、今では自身の農園「いっぽファーム」で、地元の風土を活かした農業に励んでいます。
●石川圭さんの生い立ち
圭さんは、埼玉県出身で父が家庭菜園をやっている家庭で育ちました。しかし、幼少期から農に対して特に関心を持っていたわけではなく、父の家庭菜園を手伝うことはほとんどありませんでした。大学卒業後、ベンチャーの出版社に就職しますが、体調を崩したことがきっかけで仕事を辞めることに。その後、自分自身の興味を追い求め、食に関わる業界に転職します。最初に入ったのは、青果の中卸業界での事務職。そこで仕入れ業務を通じて農家の人々と接する機会が増えました。
この経験がきっかけで、農業に対する考え方が大きく変わります。「仕事を通じて出会った農家の方々は、皆一様に自分の仕事に誇りを持ち、日々の作物に対する情熱やプライドを感じさせる姿が印象的でした。特に、自分で作り、売るというスタンスに強く共感し、農業の奥深さに魅力を感じました」農家の人々が持つ自分の仕事に対する真摯な姿勢や、物作りに対する熱意が圭さんに大きな影響を与え、農業の現場にもっと関わりたいという思いを抱くようになります。
その後、智之さん同様に、株式会社マイファームに転職し、アグリノベーション大学校(AIC)を担当する中で、農業知識をさらに深めました。農業の学びの中で、自分自身が現場で働くことの重要性を感じ、「実際に農業をやらないと本当の意味で理解できない!」と強く思うようになります。「自分も『かっこいい農家』としてプライドを持って仕事をする人になりたい!」という目標を掲げ、旦那の智之さんの農地がある岩手にIターンしました。
岩手での生活を始めるにあたり、実際に農業を学ぶため、研修を3年間受けることを決意。この3年間は多品目農家で学び、実践的な知識を身につけます。農業の現場でどんなことが起こるのか、また失敗した際の相談相手がいることの大切さを実感し、その後、「いっぽファーム」として独立。農業の楽しさや難しさを感じながら、毎年新たなチャレンジを続けています。
■「いっぽ」の言葉に込めた思い
農園名である「いっぽファーム」に込めた思いには、これまでの歩みと深く関係しています。
「農業を始める前は、周りの期待や情報に圧倒され、時には焦りを感じることもありました。そんな中で、農業を本気で始める決断をしたとき、『自分の足元をしっかりと固め、一歩一歩進んでいきたい』という強い意志を持つようになりました。この『いっぽ』という言葉には、単に一歩ずつ進むという意味だけでなく、心の中で感じた『焦らず、無理せず、自分のペースで歩んでいこう』と圭さんは語ります。
また、農業の世界に飛び込むこと自体が大きな挑戦でした。それでも、「農業をやりたい」という情熱を周囲に伝え、応援してもらいながら進んできました。その中で、他の人の一歩を支えることができる農園を作りたいと考え、「いっぽファーム」という名前を付けたのです。圭さんは、「自分も応援してもらったからこそ、誰かの一歩を支えられる農園を作りたい」と語っています。
また、「いっぽ」をひらがなにした理由は、字画占いを気にしたことも一因ですが、それ以上に「柔らかい印象を与えたかった」という思いもあります。農業においても「硬さ」よりも「柔らかさ」を大切にし、誰でも気軽に訪れ、応援してもらえる場所を目指しています。
■地域に溶け込むための試練と成長
●Iターン就農の圭さんの場合
圭さんにとって、地域に溶け込むことは大きな課題もありました。研修先と現在の地元では文化圏が異なり、最初は言葉や価値観の違いに悩まされました。「方言が聞き取れなかったり、どう話せば受け入れてもらえるのかがわからなかった」と振り返る圭さん。しかし、そんな中でも、研修先には若い世代やUターンしてきた人たちが多く、彼らとのコミュニケーションを通じて徐々に地域の人々とのつながりを深めていきます。「方言がわからないといろんな方に相談したんですけど、みんな『フィーリングだよ、フィーリングでわかるようになるから』と言われ、最初は全く意味がわからなくて。でもそのことを意識するようになったら、だんだんと理解できるようになってきて地域方々とコミュニケーションを取れるようになりました」と話します。
また、地元で農業を始める際、役場とのトラブルもありました。「新しく入ってきた人に対して厳しい部分があった。それと同時に自分たちのコミュニケーションの取り方も下手くそだった」と振り返る圭さんは、その後も地道に、真摯に取り組む姿勢を地域に見せることで関係を構築していきます。現在は、地域の人に応援されることが多くなったと実感しています。
「地域との溶け込みには時間がかかることもありますが、一歩一歩進んでいくことで、少しずつ変化が生まれ、それが大きな変化になると信じています。そして、今では地域の応援を受けながら、『もっと農業を頑張ろう!』と感じる日々を送っています」
●Uターン就農の智之さんの場合
智之さんにとっては、地元の平泉町にUターンでの就農です。18歳で地元を離れ、社会人として過ごした後、妻の独立就農と同時に35歳で平泉町に戻ることになりました。「ほぼ人生の半分を外で過ごしていたので、地元に戻ってもどう人とのつながりを作れば良いか分からないことが多かったですね。Uターンしてきたとしても、地元にどんな人がいるのか、どんな風習や文化があるのかは、知っているようで知らないことばかりなものです」
このような状況で感じたのは、周囲とのつながりや、地域の中でしっかりと根を張っていくことの重要性です。
「地方で生きていく上で大切にしているのは、『一緒にやっていく』という姿勢です」と智之さんは語ります。「地方での生活には、どうしても知らないことに対する拒絶がつきものだと思うんです。地元の人々にとって、未知のものや新しいものに対する不安や抵抗があるのは当然のことですが、それが時には過剰な拒絶に繋がることもあります」智之さんも、そのギャップを埋めるために意識的に行動しています。
役場と大喧嘩をした経験も「あっちも知らなかったし、こっちもやり方を知らなかったし」と振り返ります。自分の考えが正しいと思っていても、相手の立場や文化を理解することなく進めば、すれ違いや衝突を招くことになるという教訓を得たと言います。
一緒にやっていくという気持ちが芽生えた後は、地元での物事がスムーズに進み始めたことを感じています。最初の衝突があったとしても、心の中で「共存」という考えを持つことで、その後の関係は良好になり、地域社会と円滑に関わることができるようになったのです。
また、智之さんは地方に移住する人々がしばしば感じる「自信やプライド」についても言及しています。「地元外での経験を持っていると、どうしても『自分の方が分かる』という気持ちが生まれやすいと思うんです。そんな感情が相手に伝わると、反発となり関係が悪化します。だからこそ大事にしているのは、様々な価値観が共存する多様性という考え方です。相手から学ぶ姿勢をもち『一緒にやっていこう』という気持を持つことが大切だと考えています」
経験を通して学んだことは、他者との共感や協力が不可欠だということです。自信やプライド、独自の価値観を押し付けるのではなく、相手と歩調を合わせることが、長期的な成功に繋がると実感しています。
■今後の展望
●圭さんの目標は魅力発信
「あんまり地域を変えていくっていう気持ちはなくて。地域そのものを変えるというよりは、その地域が持っている本来の魅力を外の人々に知ってもらうことが大切だと考えています。岩手に来てみて、『こんな良いところがあるのに、岩手全体を通して外に情報をうまく発信できていないのでもったいないな』と感じていて、地域の素晴らしさをもっと広く伝えたいなと思っています」
そう話す圭さんは、今後は地域の魅力を外に発信することに重点を置いているようです。
また、農業教育の一環として、農に興味を持ってもらうきっかけを作る場として農園を開放していきたいとも話します。地域の人々や外部の人々が農業に親しみを持つことができるようなコミュニティ作りに力を入れていきたいと考えており、そのためにはまず自分のSNS(インスタグラム)を通じて情報発信を頑張っています。
「グッドボタンめっちゃ押してくれる人を増やしていきたいなと思ってます!」
●智之さんの目標は「頼られる存在」
「農業、地域おこしや自治体の取り組み、そして地元の人々にとって、何かをやりたいという時に『じゃあ、まずいっぽファームに相談してみよう』と思ってもらえるような存在になることが目標です。そのためには、農業生産を基軸にしながら、周囲と協力し、地域との繋がりを深めていくことが不可欠だと思っています」
その上で、「農業生産には基軸を置きますよ」と周囲にも伝えているそうです。「販売や営業も同じなんですが、ちゃんといい物を作っていることが大切だと思っています。ちゃんと農業でいい物を作っていると、お声がかかるんです。そこから生まれた関係性を大切にしていくと次に繋がっていきます」
自分たちができることとできないことをしっかり認識しながらも、農業を中心に地域を支える役割を果たしたいと話します。例えば、飲食店や宿泊施設と連携して農業体験を受け入れるなど、いっぽファームだけでなく地域の方と連携をとり、さまざまなアイデアを実現していこうとしています。
このようにして、いっぽファームを地域にとっての相談先、そして共に成長する場所として位置づけていくことが智之さんの今後の目標です。
智之さんのビジョンは、地域における存在感を高めることにあります。農業を通じて地域と深く結びつき、地域社会に貢献することが、今後のいっぽファームの成長に繋がると確信しています。
#30代で就農
#東北
#UターンIターン
#経営哲学
#挑戦者
#夫婦で就農
#地域おこし