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川口知紘/川口農場

法人名/農園名:川口農場
農園所在地:北海道中川郡豊頃町
就農年:2010年(就農15年目)
生産品目:馬鈴薯、秋蒔き小麦、甜菜、小豆、大豆


データに基づく長期計画で効果的な機械導入、チーム一丸で豊頃町の農業を次世代に繋ぐ

■プロフィール

北海道豊頃町出身。十勝地方の東南端に位置する町で、馬鈴薯、小麦、豆類、甜菜、大根を生産する農家に生まれる。
小・中学校で野球に打ち込み、高校は野球の強豪校で多くの先輩が在籍する工業高校の電子機械科に進学。野球部に所属し、キャッチャーとして活躍するとともに主将も務めた。
大学でも野球を続けることを考えていたが、父の母校である全寮制の北海道立農業大学校へ進学。農大では、高価格帯規格(当時)の馬鈴薯の収量向上に関する研究プロジェクトに携わる。
農大卒業後、21歳で父が代表を務める川口農場の4代目として就農。機械に強みを持ち、工業高校で学んだ知識を活かして農業の機械化に取り組む。先進的な機械導入にチャレンジする先輩農家を訪問し、実際に機械に同乗しながら意見交換をしてリアルな情報を収集。自園の農業経営に最適な機械を長期的視点で選定し、これまでにトラクター用ブームスプレーヤーや各種収穫機(ハーベスター等)を導入。農業の自動化・効率化を推進している。
就農当初50ヘクタールだった農地は、就農15年目の現在60ヘクタールに拡大。2025年度には、引退する親戚から18ヘクタールを引き継ぐ予定。農園は、自身と妻、両親の4人の家族経営で、馬鈴薯、秋蒔き小麦、甜菜、小豆、大豆を生産し、JA豊頃町へ全量出荷。馬鈴薯の大部分は契約栽培で、ポテトチップスの大手メーカーに納められている。
就農15年目の現在、0歳児と2歳児の子ども2人に恵まれ、家族の大切さを再認識しながらデータに基づく農業の効率化に一層力を入れる。同時にJA豊頃町青年部長を務め、十勝総合振興局から依頼を受けて農業高校の授業で将来の農業を担う学生さんにむけた講演を行うなど地域農業の次世代への継承を誓う。

■農業を職業にした理由

小学校から高校まで打ち込んだ野球を、大学でも続けたいと考えていた。高校卒業後の進路を決める際、初めて自身の将来について父と話し、「ゆくゆくは農業を継いでほしい」という思いを聞き、北海道立農業大学校へ進学。スポーツ一筋だったが、「いずれは家業を継ぎたい」という思いは自身にもあった。

農大に入学して驚いたのは、寮の同期がみんな土日に帰省し、家業の農業を手伝っていたことだった。野球の練習や試合に明け暮れていたが、彼らは子どもの頃から農業と向き合っていた。それを目の当たりにし、農業を職業とする覚悟を強くした。

進学の際、父が「全寮制で同じ釜の飯を食べた友人が北海道全土にでき、農家の仲間を作ることは大きな財産になる」と助言してくれた。その言葉どおり、農大時代に北海道全土で農業について語り合える仲間と出会えたことは、就農後の自身にとってかけがえのない財産となっている。

■農業の魅力とは

農業の魅力は数多くありますが、私の農業経営の特徴として挙げたいのは、チームプレーとデータに基づいた経営です。
農業は自分一人や家族単位で営んでいますが、自分の持っている情報を仲間と積極的に共有すれば、仲間や先輩からもさまざまな知識や経験を学ぶことができます。人を通じて学び、考えながら実践していくことは、農業の面白さの一つです。
このチームプレーの考え方には、私の野球経験が大きく影響しています。現在も草野球を真剣に続け、全国大会に5回ほど出場しました。野球仲間には農家だけでなく、さまざまな職業の人がいます。同じチームだけでなく、ライバルチームの人と話すことで視野が広がり、地域社会全体の構造や課題を理解するきっかけになっています。私にとって、豊頃町という地域やJAもまた大切なチームです。
私の農業経営のもう一つの特徴は、データを活用して合理的な判断をすることです。農機は高額で、導入のタイミングを誤ると過剰投資となり、経営を圧迫しかねません。そのため、機械が故障したから買うのではなく、現在の機械を大切に使いながら、国の補助事業なども活用しつつ、最適なタイミングを見極めて導入するようにしています。
この考え方を、十勝総合振興局から依頼を受けて農業高校の授業で話す機会をいただきました。北海道には6次産業化や販売戦略で成功している農業者も多くいますが、農業を15年続けてきた身近な兄さんとして、これから農業に就く若い世代に、リアルな現場の話を伝えることも求められていると感じました。
特に家族経営では、就農してすぐに新しいことに挑戦できるわけではありません。父親との意見の食い違いもよくあることです。そこで、私は作業記録を詳細に残すことから始めました。カレンダーアプリを活用して作業内容をメモし、作業機のメモリ設定を記録しながら、種や肥料の使用量、作業時のスピード、土の湿り具合などのデータを貯めました。
データがなければ翌年の改善はできません。収穫後にはデータを分析し、1年間の結果を振り返りながら父と相談し、少しずつ新しいチャレンジを進めていきました。結果を示すことで父の信頼を得ることができ、新しい取り組みも実現していきました。
データはまた、新しい試みに対する判断材料にもなり、ミスを防ぐための重要な要素でもあります。春の植え付けでその年の収入の大半が決まるため、記憶だけに頼らず、過去のデータを活用しながら適切な設定を行うことを常に心がけています。
今、農業のやりがいは、家族との時間を大切にできることです。仕事を終えれば家族で食卓を囲み、昼の休憩には子どもたちが畑に遊びに来て一緒におやつを食べる。そんな時間が幸せです。子どもの世話もするので、取り組んできた効率化で時間を創出しています。時間も含めて自由度が高い家族経営を続けていくためにも、データを活用しながら経営の効率化・最適化を進めていきたいです。

■今後の展望

2024年からJA青年部長を務めています。地域農業の中堅として、学びのある交流の場をつくり、若い世代に産地を継承したいと考えています。豊頃町の人口は減少傾向にありますが、チームの熱量で地域の農業を盛り上げていきます。
今、先輩や仲間の農家、地域おこし協力隊員と協力し、木桶醤油づくりに取り組んでいます。小豆島の木桶サミットを視察した先輩の学びをきっかけに、日本全体の醤油生産量のわずか1%しかない木桶醤油の価値を見出し、自分達の小麦と大豆で生産にチャレンジしています。春には大豆の手植え、秋には収穫した枝豆を茹でてビアガーデンを開催して、地域と一体となった「ファンづくり」にも力を入れています。豊頃町の木桶醤油は2025年2月に仕込みを終え、2年後に完成する予定です。
豊頃町は、かつて十勝川の氾濫によって農業が難しい湿地帯でしたが、先人たちの努力により治水工事が進み、安定した畑作が可能になりました。先人への感謝を胸に、農業の未来を見据えながら、次世代へと地域の農業をつないでいきたいと考えています。

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