Street Story 02 【RUN】
アコギを手にした僕は時間があったらひたすら「RUN」を練習していた。
寮には消灯時間というものがあり、10時半になると「消灯~ 消灯~」という放送当番の声とともに部屋の電気を消さなければならない。
そして、さっきまでガヤガヤ騒いでいた学生達は電気が消えるとともにヒソヒソ声でさっきまでの話題の続きを話し始める。
そんな中、僕はといえばひたすら「RUN」を弾いていた。
もちろん大きな音は出してはいけない。
夜中の僕の練習方法は、ギターの本体と弦の間に丸めたティッシュを挟んで「弾いてはいるが音はでない」そんな状態でひたすらに左手と右手を動かしていた。
ちなみに、その方法も大石さんに教えてもらった。
ただでさえうまく音が出せないのに、さらにティッシュを挟んだらペケペケとしか鳴らない。
しかし、それが幸いしたのか、僕の頭の中ではキレイな音が流れていて、夜な夜な妄想ライブを続けていた僕はそのイメージのまま上達していった。
もし、ずっと音を出せる環境の中で練習をしていたら、自分の下手くそさに嫌気がさして途中でやめていたかもしれないな。(笑)
消灯前までは大石さんの部屋、そして消灯の放送とともに自分の部屋での妄想ライブ。
それを繰り返していたある日、大石さんに「ガッツ うまくなってきたなぁ」と言われた。
「そうですかぁ」と生返事をしながらも心の中では飛び上がって喜んでいた僕。
正に『神からのお褒めの言葉』である。
そして、続けざまに大石さんは言った。「ガッツ 一緒に外に出てみるか?」
この「外に出る」というのは「路上で弾き語りをする」ということで、
要するに「一緒に路上で歌うか?」というある意味『神からのお許しの言葉』だった。
ちなみに僕はずっと「弾き語り」=「路上ライブ」だと思ってた。
「ストリートライブ」という言葉も知らなかったし、楽器を弾きながら歌うことを「弾き語り」ということすら知らなかった。
それもあって「ストリートライブ」という言葉を知った今でも路上で歌うことに2種類あると思っている。
「ストリートライブ」=ステージを路上に移したライブ
「弾き語り」=ライブというよりもギター片手に歌って話してという、
演出ぬきで素のまま音楽を楽しむスタイル
この解釈はたぶん間違ってるだろう(笑)
でも、読み進んでいただければわかると思うが、僕は間違いなくこの「弾き語り」というスタイルの中で音楽をやってきた人間である。