Street Story 05 【初披露】
僕の自己紹介で盛り上がった場に合わせてまた2人が歌い出す。
みんな声を合わせて歌いだす。
僕も知ってるとこだけを一生懸命に歌っていた。
数曲みんなで歌ったところで大石さんが言った。
「ガッツ あれ歌えよ♪」
!? え!?
いきなりっすか??
ていうか、こんなに大勢の前でいきなり歌えって言われても…。
当時の僕は本当に小心者で、人前で話したりすると顔が真っ赤になってしまうタイプだったのだ。
いまでもステージ以外では結構小心者だけどね・・・(笑)
「おお~ ガッツ歌え~♪」
「聴きた~い♪」「なに歌うの??」
「歌え~~っ!」
たくさんの観衆に煽られ僕はギターを手にした…。
「あ~ あ~」 「ん ん~」
別にノドの調子が悪いわけではないが、なかなか踏ん切りがつかずノドを鳴らしてごまかす僕。
ドキドキしている。。
まだ何もしてないのに額に汗が流れ出す。
みんなの視線が僕に集中している。。
ヤバイ そろそろ歌いださないと…
あまり待たせてしまうと場がシラけてしまう。。
この空気感は絶対にマズイ。。
僕は泣き出しそうになっていた…
ジャンジャカジャンジャカ…♪
??
『RUN』のイントロが…
ふと横を見ると大石さんと松山さんが『RUN』のイントロを弾いていた。
「ガッツ ついてこい!」
凍り固まっていた僕に大石さんが言った。
ジャン ジャン ジャン …
イントロの途中から入った僕。必死に2人についていく。
「賽銭箱に~ 百円玉投げたら~ ♪」
大石さんが僕を誘うように歌い始めた。
僕はまだ必死にギターを弾いている。
Em ~ Am ~ B7 ~
やっと気持ち的に追いついてきたころでサビになってしまった。
「ランララランランラン ランララランランラン」
みんなで歌いだす。大石さん達の顔見知りの人も
さっき初めて会った人も、通りすがりのヨッパライも…
その中で僕もどさくさに紛れ大声で歌いはじめていた。
なんと気持ちいいものだろうか…
最高の気分だ。
歌い出す前の葛藤が一気に吹き飛んでいった。
ギターは全然弾けてない。歌も下手くそ。
でも、僕は最高の気分だった。
ギターがうまく弾けてないことなんかどうでもいい!
ただ僕は汚い音ながらも自分がギターを持って、そして人前で大声で歌えていることと、それを囲んでくれている人達の笑顔に今まで感じたことのない幸福感を覚えていた。
そして、知らない間に大石さんからバトンタッチされて僕がメインで歌っていた。
ギターは大石さんと松山さんが一緒に弾いてくれているから大丈夫。
僕は思い切り歌った。出来る限りの大声で歌った。
サビになるとみんなが一斉に合唱した。
「ランララランランラン ランララランランラン」
これは最高の気持ちだ。なんでこんなに楽しいんだ。
なんてみんな楽しそうなんだ。
僕は、いままで体験したことのない快感に溺れながら『RUN』を歌い終えた。
それと同時にみんなの拍手がアーケード内に鳴り響いた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
僕はひたすら「ありがとうございます」を繰り返した。
そして、大石さんと松山さんはまたニコニコと笑っていた。
たぶん「上手い」とか「下手くそ」とかそういうもんじゃないんだよな。
たとえ「下手くそ」だったとしても一生懸命やってりゃ、それが伝わることもあるだろうし、心を込めて歌っていれば、たとえラジオでは流れなくてもCDにはならなくても、伝えたい人の心には届くと思うんだよな。
大石さんにも「テクニックなんてものは後からついてくるもんだ」って言われたなぁ…。
たぶん、自分が今やってることに胸張れるかどうかなんだよな…。
その後も宴会(?)は続いた。
知ってる歌は大声で歌った。
そして、静かに聴き入ったりもした。
ギターは持たなかったけど…(笑)
そんなこんなしている内に街は朝の匂いに変わりはじめていた。
1人減り 2人減り …
みんな家路につき残ったのは僕と大石さんと松山さんだけになった。
僕は再びギターを取り出した。
いままで一緒に騒いでいた皆が帰った後、ギターを持った一人弁慶はまた『RUN』を歌い始めた。
歩く人の足音もなくなったアーケード内に僕の声が響いた。
下手くそなギターも響いた。
若干の恥ずかしさもあったが、それよりも今まで知らなかった楽しさを知った喜びのほうが大きくて、僕はガムシャラに歌った。
大石さんも歌った。
松山さんも歌った。
大石さんが歌った歌の中に「裸足のまんまで」という曲があった。
もちろん長渕剛の歌。
♪裸足のまんまで笑われても
裸足のまんまで立たされても
裸足のまんまで責められても
おれはおれを信じてやる ♪
次はこの曲を覚えようと決めた。