Street Story 01 【序章】
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僕が始めて路上で歌ったのは中学3年生の時だった。
きっかけは同じ寮に住んでいた「大石さん」という人の影響である。
大石さんは沖縄出身の人で、中高一貫だった母校の高校3年生だった。
ということは、僕の3つも先輩にあたる人なのだが、僕の母校は不思議なもので、学校の権力的な分類が「高3・中3・高2・中2…」という感じになっていた。
中高一貫といっても高校から入学してくる人もいるわけで、そういう人達よりは中学2年生とかのほうが在学的には先輩ということであろう。
まぁそんなわけで、大石さんとは3才の年齢差がありながらも「良き友達」そして「良きアニキ」として接してもらっていた。
大石さんと一緒にいつもいたアニキ分で「松山さん」という人もいた。
この人も「いいひと」っていうのをリアルに表現したような人ですごく可愛がってもらったなぁ。
僕は中学2年の時に初めてギターというものを手にしたのだが、それはエレキギターだった。とある事情で『アコースティックギター』を手にするのだが、
このギターによって僕の人生が音楽の道へと進み始めるとはその時には想像もしていなかった。
どうして、このアコギを手にしたのかは改めて書くとしよう・・・。
ちなみにいままで20本近くのギターを所有して、また手放してきたわけだが、このアコギだけはずっと持ったままで、いまも所有している。たぶん今後もコイツを手放すことはないだろうな。
エレキからアコギに持ち替え、そのギターを持って扉をノックしたのが「大石さん」の部屋だった。
以前からアコギを弾いていることは知っていたが、年齢差もありほとんど話したことはなかった。
しかし、エレキもろくに弾けずに断念した僕には大石さんは頼みの綱だった。
勇気を出して扉をノックした。
「おお ガッツどうした?」
※中学時代の僕は「ガッツ」と呼ばれていた。。
いつも普通に話している先輩なのに、自分の心境ひとつでこうも見え方が変わってくるものなのだろうか。
「あの~ アコギ教えてください」
いつも気軽に入っている部屋なのに何故か手に汗をかいて入り口に立っていた。
「おお 入れよ!」
散らかった部屋の荷物を隅へと追いやりながら、大石さんはいつものように陽気に迎え入れてくれた。
そして、空けられたスペースのど真ん中に置かれた僕のギターケース。
「それ どうしたん?」
「実は・・・」
説明をする僕の横で、大石さんがポロンポロンと鳴らし始めた。
「いい音するねぇ」
正直、僕にとって「いい音」なのかどうかもわからない。
なんせアコギを手にしたのは初めてなのだから・・・。
大石さんがギターを僕の手元に戻し、早速ギター講座が始まった。
「これがAで、これがDで…」
エレキしか触ったことのなかった僕はパワーコード(二本の指だけで押さえる略式コード)しかできず、通常のコードを押さえるのに苦労していた。
指と指が絡まるのだ。
こんなの無理だろうと思いながらも僕は言われるままに必死でギターのネックを握り続けた。
正直、僕はなんにおいても『基礎練習』というものが大の苦手で、しかもちゃんと抑えられない自分の手にイライラしていた。
「ん~ 曲で覚えたほうがいいか」
そういって大石さんは長渕剛の楽譜を取り出した。
ペラペラとめくって止まったページには「RUN」と書かれている。
この曲こそが僕が初めて弾いた最初の曲である。
曲自体は大石さんが歌っているのを聞いていたので知ってたが、『長渕剛』という人の曲ということもこの時に初めて知った。
僕と『長渕剛』との出会いである。
『RUN』はメチャクチャ簡単で「Em(イーマイナー)」と「Am(エーマイナー)」と「B7(ビーセブン)」の3つしか使わない。
いまでも「ギター教えて」と言われたら間違いなく最初に練習曲として教える曲だな。
(最近の子にはわかんないかもしれないが…)
しかし、当時の僕は本当に下手くそでその3つさえもキレイに押さえられなかった。
ジャカジャーン♪
と心の中では鳴ってるのに、実際に僕のギターからは
ボロボロ~ン。。
という音しか鳴らない。
しかも、ギターというのは左手の押さえ方だけではなく、右手のピックの動かし方にも注意しなくてはいけない。
一小節ごとに止まる僕の手。
そして、おぼつかない僕のギタープレイを微笑みながら見ている大石さんがいた。
≫Street Story 02 【RUN】