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Pissgrave - Posthumous Humiliation
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アメリカはフィラデルフィアにて2013年に結成されたデスメタル・バンドによる2019年リリースの2枚目。オリジナルのジャケットは結構なグロテスクなので念の為に自主規制。(調べればすぐに出てくるので耐性がある人はご覧あれ)
ただ、彼らの世界観を知る上でもその衝撃的なジャケットは一度見ておくべきかもしれない。
説明をしておくと、交通事故で顔がグチャグチャになった遺体の顔写真をジャケットにしており、実際見ても現実味がほとんど無くてコラ画像か造りものなんじゃないかと思ったのだがどうやらホンモノのようだ。
ちなみにフィラデルフィアは区域によってはアメリカの中でもここ数年トップクラスに犯罪件数が多い、いわゆる治安の悪い場所で有名だ。ジャケットから見てもそういった環境から彼らは影響を何かしら受けているのではないだろうか。
このグロテスクなアートワークを見ても現実味(リアリティ)を感じないというのは多分、あまりにも日本が平和ボケしている国だから、あまりにも銃社会の国とは掛け離れているからだ。
そして美化するわけではないが結局、芸術(アート)にしてしまえばなんでも有りになってしまうというところもある。例えばMayhemの元Voのデッドは猟銃で自殺し、Gtのユーロニモスはその写真をカメラに収めジャケットにした。そして後に加入したBaのヴァルグ(Burzum)に刺殺されるわけだが、メタルのこれまでの歴史から見れば珍しいことではないし、彼らの音楽は今でも多くのメタラーに影響を与え続けている。私は犯罪を肯定するわけではないが、どんな生き方をしようと芸術作品自体に罪は無い。幻滅した、最低だ、という理由で作品の拒否や線引きをするのは貴方自身であるからだ。
彼らは人は殺していないかもしれないが現代において最も現実味があるデスメタル・バンドだ。ただ空想の地獄を濃密なイラストに凝縮したありふれたデスメタルとは違うし、パワー・メタルやエピック・メタルのように剣と盾を手に空想を宙に描くわけでもない。最も地に足が着いているデスメタル・バンドなのである。(筆者はどちらも聴くので馬鹿にしている訳ではない)
Pissgraveを初めて聴いたとき、ハッとさせられた。ただ、"目を覚ませ"と言われている気がした。改めてこの叫びにも似た死体の顔ジャケットを眺めて彼らの音楽にはピッタリだと思ったし、これ以外は考えられない。多分彼らもそう思いこれにしたはずだ。生ぬるさは必要ない。これは存在自体しているのかすらも分からない誰も見たことがない想像の地獄ではなく、我々が見ている混沌とした今この世界そのものを表現しているようだ。
彼らの音楽の話をすると、ヴォーカルの声はもはや声とはいえないくらいにピッチシフターによりブラウン管から流れる砂嵐の音のようにグチャグチャに歪ませており、まさにジャケット写真から伝わってくる死体から叫びの声のような何かが聴こえてくるような暴力性を体現している。しかし単に過激なことをして暴力的で激しい音楽をしているだけのバンドであればこの界隈は探せばいくらでもいる。だが彼らの演奏はテクニカルな上に勢いを落とさない流れの中でブレイクを挟んだりギターのトレモロやソロ、ドラムのブラストビートも気持ち良く痛快に響かせてくれるのだ。
写真のインパクトとVoの声に意識が持っていかれがちではあるが、これは紛れもないオールドスクール・デスメタルだ。全9曲収録のうち最後の曲の後半に差し掛かるまではカナダのRevengeやテキサスのDevourmentのような荒々しさと暴力性は衰えず続いていく。
そして向かえたラストを飾る#9 Rusted Windではスローパートも挟み、全ての生き物へ平等に訪れるのは死、それ以外は何も残らないんだという無残にもただそこに転がる死体を我々が傍観しているような有り様を上手く表現している。
もしもこの作品を何か音楽への目に見えない不思議な力や奇跡とやらを信じて聴くのであればそれは間違っているとわたしは思う。何故なら目の前にあるのはひとつの遺体と音による無慈悲な暴力と残虐性、そしてこの小さな地球の中でたった独りの人間が不運にも亡くなってしまったという事実、ただそれだけなのだから。