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Blood Incantation - Timewave Zero
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USはコロラド州の4人組デスメタル・バンドによる2022年作品。(ボリュームはフルレングスだがEPという位置付け)
現行のデスメタル・バンドだが今作はVo、Gt、Ba、Dr無しの全編アナログ・シンセサイザーのみを使用した完全なるアンビエント作品。
多分純粋なデスメタル・サウンドを期待していたファンは困惑したはず。収録曲は#01 IOと#02 EAの本編2部構成と、フィジカルで聴けるボーナストラックの#03 Chronophagiaの全3曲となっており、トータルタイムは60分ほど。
コズミックで彼らがテーマにしている宇宙を存分に感じさせてくれる大作だ。
デスメタル・バンドがここまで完璧なアンビエント作品を発表するのは珍しいのだが、実はメタルとアンビエントの組み合わせはこれまでに何度も試みがあり、Sunn O)))やThe Bodyのようなノイズ界隈からのアプローチ、Ulverのようなひとつのジャンルに縛られず作品ごとに作風を180°別のものへと昇華したバンドも。そしてブラック・メタル界のレジェンドであるBURZUMはブラック・メタルとアナログシンセを織り交ぜた作品を発表しており、投獄中はギターが使えなかったという理由で全編シンセサイザーのみを使用した作品も発表している。ここから派生したダンジョン・シンセという中世のRPGの世界観を再現したようなジャンルも確立されていたりもするので気になった方は調べてみてほしい。(マニア向けですがハマる人はハマる)
今作はManuel GöttschingやTerry Rileyのような実験的なミニマル・ミュージック界隈の影響がかなり色濃く出た作品で、映画に例えるならばChristopher Nolanが描くような最新技術を駆使したSF映画(インターステラーのような)の雰囲気というよりはStanley Kubrickの『2001年宇宙の旅』のような人類の技術が今よりも発展する前に夢見ていた古典的な宇宙の空気感の方が強く、おそらくバンド側もどちらかといえば後者を意識して製作していると思われる。
メタルとしてはもう土俵が違うので評価はできない作品だが、アンビエントとしてはかなり素晴らしい。今年2024年には新作のリリースも既にアナウンスされており、どういう作品になるか期待したい。