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Blood Incantation - Absolute Elsewhere

Century Media Records(2024)

USはコロラド州のデスメタル・バンドによる2024年待望の3rdアルバム。
前作のEPがアンビエント作品だったのでデスメタルからの脱却の不安も少々あったがそんな不安を完全に取っ払い、メタル史に残るような新たな名盤の誕生だと言い切っても過言にはならないだろう。

本作は#1 The Stargate#2 The Messageの2曲を3部ずつに分けた構成となっている。(サブスクだと6曲に分けられている)こういう1曲の尺が長かったりすると私はどうも最後まで聴けるかどうか身構えてしまうのだが、そんな心配はいらないくらい濃密で飽きさせること無くあっという間に聴き終えてしまうくらいには素晴らしい作品になっているので安心してほしい。

まず#1 The Stargateは簡単に言ってしまえばPink Floydをデスメタル的解釈をしたようなプログレッシヴでサイケデリックな70'sの音楽シーンをリスペクトしているナンバーだ。あくまでも根本的な部分はデスメタルでこれがプログレッシヴに寄り過ぎたり攻め過ぎてしまうと途端にテクニックだけで誰も寄せ付けないものになってしまうものだが、"聴かせる"ということをこのバンドは大事にしている気がする。
前半はBlood Incantation節が炸裂するデスメタル・パートからすぐにプログレッシヴ・サウンドに切り替わり前作(2022年)のEPのようなアンビエントを彷彿させるアナログ・シンセパートに移っていく。中盤ではドイツのクラウトロックの巨匠、Tangeline Dreamが参加しており、シンセサイザーは宇宙漂う瞑想モードへ。アコギが寄り添いはじめ、そしてまた爆発するかのようなメタル・パートに入り途中でジャンベが入ってきてトリップ感を演出している。クラシック音楽のような流れはGustav Holstの『惑星』をデスメタル的解釈により分解、再構築をしてアンサーを出したような組曲のような一曲となっている。

1曲目でもお腹いっぱいになるぐらいに満足感はあるが、別腹のように#2 The Messageでは急にキャッチーなイントロのギターからはじまり、なんとなくTomb Moldの3rdような雰囲気も魅せつつ、前半はほぼメタル・パートが占めて進行していく。
中盤はサイケデリックなシンセ・サウンドからのドラムのドドン!という一刀両断するような入り方はまるで幻覚を視ている状態から目を覚ませてくるようだ。ベースそしてギターがそれに続いて加わり段々と熱を帯びていき、後半に突入するとスラッシュ・メタルのような疾走感を孕んで一気に爆発させるのだが、長い曲の中で退屈に感じてしまうかしないかの丁度いいタイミング入ってくるのでこれがとても爽快なのだ。アンビエント・パートで落ち着きを取り戻したところでラストへと移っていき、徐々に盛り上げを見せて宇宙の果てへと向かっていく。そしてまた覚醒から長い眠りに入るようにアンビエント・パートに戻り幕を閉じる。まるでここまで宇宙の誕生を早送りにして眺めているような目の回るような感覚だ。

個人的には年間ベストの暫定1位といってもいいくらいに濃密度は凄まじく、この作品は後世に残るレベルでメタルの未来を照らしてくれている。まだまだ可能性を感じずにはいられない、思わず聴いていてニヤッとしてしまうくらいに完成度が高いので全ての音楽好きが聴くべき作品といえるだろう。

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