連載「十九の夏」【第十三回:夏樹、東京に帰る】
翌日、夕方近い時間になって東京のアパートに帰ってきた夏樹。今度は乗り換えでも失敗しなかった。しかし、昨日はあのあと、家族で回転寿司に行くも、陽菜子とのこともあって食欲さえもいまいちわかなかった。若いんだからもっと食べていきなさいよ、少しくらいなら高い皿でもいいんだよ、と親からも言われたのだが。
家に帰ってきてからも夜半過ぎまで眠れなかった。やっぱり、幼馴染はあくまでも幼いあいだだけの関係なのだろうか。明けて今日月曜日の朝には早めに実家を発つ。家族にしばしの別れを告げて、バスで富山駅に向かったのだった。
結局、もやもやしたままこの夏の富山への帰省は終わった。だが、これからの夏休み後半はちょっとだけ忙しくなる。とにかくまた前に進もうか、そういう決意をする夏樹だった。
ちなみにプレゼントの中身。東京のアパートに着いてからようやく開けたのだけれど。その中には、夏樹の誕生日「August 25th」の文字が入りその誕生日の星座の「乙女座」の星のプロットがデザインされたマグカップだった。あとはアクアブルーのシャープペンシル機能付きのファンシーグッズのボールペン、そして「交通安全」のお守りのついたキーホルダーも入っていた。お守りといってもれっきとした神社のものではなくこれまたファンシーグッズものなのだが。中には手紙も入っている。
「なっちゃん、お誕生日おめでとう。マグカップも、ボールペンも、そしてお守りもあたしとお揃いのなんだよ。もちろんマグカップの日付はあたしの誕生日だし、ペンは色違いでローズピンクだし、あたしのキーホルダーのお守りは『学業成就』だけどね。自動車教習、がんばるんだぞ!」
入っていた手紙の一節にはこう書かれていた。
携帯電話をチェックすると小一時間前に陽菜子からメールが入っていた。
「もう東京に着いたのかな? 昨日は突然機嫌悪くなっちゃって、置いてきぼりにしてほんとごめんね。あたしに会いたくなったら、東京での暮らしが辛くなったら、いつでも富山に帰ってくるんだよ」
富山と東京。距離はあるけれど。夏樹と陽菜子はいわゆる「友達以上恋人未満」という関係なのだろうか。いや、そういう関係とはちょっと違うはずの「幼馴染」に他ならないのだ。夏樹は下宿先についた報告と、プレゼントのお礼としての返信をするために携帯電話のボタンをいじりはじめた。
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